221-王宮私室の兄上と私達

「ゆっくり話をしながら軽食を楽しもう。勿論、ニッケルが大好きな甘くないクレープもあるからね」


 兄上の優しいお声。


 私室の会談用のテーブルとアームチェアは1本の木から角材や板を全て切り出して作られた無垢材の品。

 その上に軽食(?)がずらりと並ぶ。


 私もバナジウム兄上がお好きだというやや辛口の白ワインを寿右衛門さんと共に転移で登場、のリュックさんから取り出した。

 冷えていて最高。皮製のボトルバッグ付。さすがだ。


『内側は防水加工付!』

 あ、多分リュックさん今、ドヤ顔している。


 今日のリュックさんは凛々しい皮カバン。私の靴とお揃いの色。

 転移前に変化して、色は確認してから合わせてくれたのだ。


『では、音声だけで恐縮ですが、あちらでのニッケル様のお声をお聞きになられますか、第二王子殿下』

 黒白、あれをお聞かせするの?

 確かに良いかも。


『この空間の魔法は第二王子殿下がお掛けになったのでしょうか。実に丁寧な仕様であられますね。これならば、会話等の漏洩には一切ご心配は及びません』

「ありがとうございます、茶色殿。黒白殿、是非お聞かせ下さい。の今を聞く事が出来るのは嬉しいです。ニッケルは自由に食していてね」


「ありがとうございます、じゃあお願いするね、黒白。」

 寿右衛門さんのお墨付きをもらったので私がお願いしたら黒白が音声を流し始めた。


 兄上、寿右衛門さんが褒める程にお上手な魔法の使い手でいらしたんだ。


 確か、選抜クラスを一人の為に開講するのは申し訳ないからと上クラス首席のままで高等部を卒業された学院伝説のお方なんだよね、バナジウム・フォン・カルノー・コヨミ第二王子殿下。


 まといなニッケル君とカントリス君とのあちらでの遣り取り会話を聞きながら、私はニッケル君の好物、ツナと新鮮野菜のクレープを一口。


 美味しい。美味しすぎて、他に言葉が見付からない。


 控え目なチョコレートクリームが繊細な一口サイズのプチケーキも、サーモンとクリームチーズのオープンサンドも、あ、これスイートポテトだ。

 形が四角いからカボチャのケーキかと思った。自然な甘さ、最高。


 どうしよう、多分これ全部食べるな、私。折角のイケメン王子様体型が。


 いや、きっと習慣にしている(ニッケル君がしていた)刃を潰した試合用剣の素振りと筋トレを増やしたら大丈夫だよね、ね?


『あの、持ち帰りタッパーならぬ持ち帰りリュックさん出来るかな、って思ってないですか? コヨミンさん』

 ぎくり。リュックさん鋭いな。


 はい、思ってます。その通りです。


『それならたまには王宮実家に戻らないと。落ち着いたら準々貴賓室さえ引き払ってあのタウンハウスさんに住みたい、好きな物を毎日作って食べたいとか夢想してるでしょう?』


 またまたその通りです。


 確かに、ただ食べているだけは申し訳ないよね。


「兄上と寿右衛門さんと黒白、盛り上がってるね。……そうだ」


 歓談用のテーブルとアームチェアと同じ無垢材で作られたらしい筆記作業用のライティングデスク。

 チェアだけは少し実用的なものだけれど、無垢材なのは一緒。座り心地も最高。


 食事中にお行儀悪いかな、とは思ったけれど良いよね。


 手にはきちんと清浄魔法を掛けて、と。


『成程。それならこの辺りで』


 ありがとう、リュックさん。

 鞄の中からさすがの品々が登場した。


 これなら多分、兄上達が音声を聞き終える迄に私も作業を一つ、終えられるかな。






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