220-王宮の私室の私達

「どうかな、これ」

『コヨミン様、たいへんにお似合いでいらっしゃいますよ』


 クローゼットの扉を開放したまま悩みに悩んで黒白と決めたのはブラウンの膝丈チェスターコートと靴それからネイビーのタートルとテーパードパンツ。


 姿見で確認。

 よし、テーパードが長い脚に似合う。

 自画自賛だけどかなりのイケメン王子様。


 下の兄上つまりはバナジウム・フォン・カルノー・コヨミ第二王子殿下との話し合いは夕方からで、何と王宮の私の私室にて会食しながらで良いとの事。


 だから転移魔法で転移したらそこにはもう兄上がおられるという訳だ。

 転移座標はニッケル君が元々持っていた転移陣に組み込まれていたから黒白がいたら万事解決。


 私が王宮を訪れる事で色々煩雑にならない様にとの兄上からの配慮。

 本当にありがたい。


 寿右衛門さんは間に合えば一緒に、合わなくても王宮に向かってくれるという。

 辺境区のネオジムさん達への連絡他までこなして、更に私の付き添いまで。私も服装選び位はしないとね。


 あ、リュックさんがいないからお土産が……。

『ああ、大丈夫ですよ。お二人のご歓談中に寿右衛門殿が戻られない等と言う事はあり得ませんから。その場でお好きなお酒等を第二王子殿下にお選び頂けばよろしいのでは?』


「そうだね、良いと思う。あとはそうだ、お好きな本とか! 大書店の直通販売、使わせてもらおう!」


 たまには私用以外でも大書店さんを使わせてもらっても良いよね。

 所有者権限ていうのかな? たまには発動させてもらおう。兄上なら大丈夫だと思う。

 私の事情を知る人ならあの小部屋以外は秘匿事項じゃないらしいし。


『良いお考えかと。……さて、お時間ですね。』


 そうこうしている内に、時間が来たらしい。

「じゃあ、お願い」

『はい』


 実はきちんと入室するのは初めてなんだよね。

 王宮の私室。一応第三王子の私室なのだけれど。


 あれ、何だか薄暗い?


 まだ夕方なのに。防犯の為に扉が閉まっているのかな。


 ええと、あれか。魔力を魔道具に通す感じで。


 よし。

「うん、明るい」

 天井の室内灯が点灯した。透かし模様が綺麗。


 準々貴賓室なんかは自動なのだけれども、王宮は場所によっては節電、じゃなくて節魔力なのかな?


『……コヨミン様』


 あ、兄上がいらした?


「「「「「おめでとうございます、ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ第三王子殿下!」」」」」


 うわ、何? と思ったら、執事さんとかメイドさんとか、料理長さん? コック帽子が何だか高級感? 偉いシェフさんぽい料理人さんとか、な方々が部屋の中に。


 私室といっても準々貴賓室よりも広い部屋だから全然窮屈さとかは無いのだけれど。


 普通に驚いた。

 第二王子殿下、兄上もおられる。


「ごめんねニッケル。ほら君達、新聞や映像水晶で見た通り、我が弟は立派な非属性保持者として目覚めたのだよ。確認できたでしょう? 安心して業務に戻りなさい。こちらには恐れ多くも高位精霊獣殿がおられるから僕達だけで大丈夫だからね」


「「「「「はい! ありがとうございました! お目通りをお許し頂きました事、誠に光栄に存じます! 御前を失礼申し上げます!」」」」」

 綺麗な礼をして、皆さん一列になって部屋を出て行った。


 ええと。


 バナジウム様……兄上をつい見詰めてしまったら、軽く微笑まれてしまった。


 こちらは真っ白なシャツと黒のパンツ。靴も黒。

 シンプルなのに完璧な、寛ぎの王子様。凛々しい。


「ごめんね、マトイさ……、ニッケル。茶色殿にはご許可を頂いていたんだよ。魔力に目覚めて立派になった君をひと目でも、という者達が多くて。あれでも人数を厳選したんだよ。皆身分や勤務態度が申し分ない者達だから失礼は無かったと思うのだけれど……実は、天井の照明魔道具の魔力吸収率を極端に下げておいたんだ。かなりの魔力を注がないと発動しない様にね。皆、涙を堪えていたと思う。ニッケル……魔力の少なさのせいであの子の事を軽んじていた輩は少なくなかったからね。恥ずかしながら王宮にも。ああ、それは精霊珠殿のご協力の下、全て一掃したからね? 先程の彼らはそういう連中を窘めて、ニッケル……弟に尽くしてくれていた者達だよ。あ、勿論茶色殿達がお見えになるまでは僕が防御魔法を張っておくからね」


「はい、今分かりました。あの人達はニッケル君、じゃない、私の事を大切に思ってくれていた人達ですね。……今はお名前とかも分かります。済みませんでした。彼らと上手く会話が出来なくて」

 漸く、記憶が結びついた。


 嘗てのニッケル君を悪く言う外国の賓客に憤ってくれた執事さんとメイドさん。剣の練習で出来た傷等の対処をしてくれた魔法医師さんや治癒師さん、ニッケル君の好物、甘くないクレープを良くお茶の時間に用意してくれた料理長さん。


 多分、まだ他にもたくさんのニッケル君を思ってくれていた人達がいるのだろう。


 そうだ、王宮は緊張するとか言っていないで私はもう少しこちらにも足を運ぶべきなのでは?


「ああ、それは心配しないでね。君が素晴らしい活躍をしてくれている事が僕も含めた皆にとって何よりも嬉しい事なのだから。本当にありがとう。そうだ、先程も言った通り、ニッケルを悪く言っていた奴等は精霊珠殿のお導きで母上や父上や姉上や兄上達がもう既に成敗しているからね。勿論僕も。家自体を潰した所もあるから国庫が潤ったよ! そういう意味では求者殿に感謝すべき部分はあるのかも知れないね。おや、茶色殿にリュック殿。ありがとうございます。ニッケルと黒白殿も来てくれておりますよ」


 私の思考、顔に出ていたみたい。


 兄上が示された本当にニッケル君を思っているのが分かるあたたかな笑顔と、一瞬覗いた何とも言えない表情。

 そのお顔がまた穏やかになった頃、寿右衛門さん達も来てくれた。


 家、国庫。については気にしない様にしよう、うん。求者のおかげ……ではない、とは確かに言いづらいな。


 それにしても、ニッケル君。


 兄上、バナジウム様は素敵なお兄さんだね。


 この方の弟になれて、本当に良かったと思う。


 私と同じように、君も、さとりお姉ちゃんの妹で良かった、と思ってくれているよね、きっと。









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