215-桜色の封筒と私
『……おや、羽殿がこちらにいらしたい様です。コヨミン様、皆様、よろしいでしょうか』
黒白がそう言ったのは、寿右衛門さんもハーブティーを楽しみ、もう少しだけ休憩したらギベオンさんの所にお使いをしてもらおうか、と緊張感を持ちながらも少しだけゆるりとしていた時だった。
「マンガン伯爵令息が目を覚ましたのかも知れませんね。リュック殿のお陰で証拠品の整理も終えられましたし、迎えてもよろしいかと。取り急ぎ、これらの品と入力の魔道具を茶色殿にお預かり頂いても良いでしょうか」
『ええ、ジンク殿。確かに全てをお預かりします。リュック殿、茶器他を回収願えますか。椅子等はよろしいかと』
『了解しました』
寿右衛門さんが入力の魔道具と関連品を全てフワフワ羽毛の中に収納して、リュックさんがハーブティー他を回収。
あっという間。
私達も一応立ち上がり、羽殿達を待つ事にした。
『では、お呼びしましょう』
そうだね、と思ったら皆が転移してきてくれたので、さすがに驚いて声が出てしまった。
分かっていたのに、その速さに驚く。
「あれ、羽殿、皆も。カントリス君、良かった! 体調は良さそうだね。こちらの調査が全部終わったから顔を見せに来てくれたの?」
嬉しいな、カントリス君元気そう。
あと、君の魔力増大……してないか?
『いえ、殿下、ご多用の終了時に失礼とは存じましたが、このカントリス・フォン・マンガン殿が先程夢渡りにてこの様な手紙を託されました事をご報告に上がりました次第にございます。……イットリウム、殿下にお渡しを』
え。夢渡り? そうなの?
て言うか、その封筒!
「分かりました。殿下、こちらにございます」
イットリウム君がハーブティーを前にしたジンクさんみたいに丁寧に渡してくれたそれは。
「……これ」
やっぱり!
『お姉ちゃんが去年文具カフェの桜色フェアで購入した桜色のグラデーションの封筒!』
本当にありがとうセレンさん、そして同時発声術式!
何種類もの桜の色が印象的な封筒。
恋人さんとの遣り取りに使うのかな、って思ってたんだよね。
その頃は一輪先生がお相手さんだと知らなかったけれど。懐かしい。
あ、しまった。私が硬直してたら話が進まない?
「……ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ第三王子殿下、御身に僕が夢の中で見聞きした内容をお話してもよろしいでしょうか」
良かった、カントリス君冷静だ。
殿下殿下、私は殿下!
「……頼む」
一応、上手く出来たかな?
『「あ、カントリス? 何でこっちで? そうか、お前もついに。これで攻略対象者は全員か? あ、お前また女性に囲まれて! ほら、こっちに来い。皆さんごめんなさい、この人、婚約者がいてその人に誤解されない様にしたいタイプの人なんで離れてあげて下さい。……あ、そこの人は『キミミチ』やってるんだ? いや、似てるけどね!」』
うーん、これもう絶対だよ。否定要素がない。寿右衛門さんとジンクさんも何か話し合っているし。
イットリウム君達は状況が理解できているみたいだ。
カントリス君以外の人は全員私の事情を知っているからね。
今更だけどこの会話、保存した方が良いのでは?
『大丈夫ですコヨミン様。留守伝、出来てますよ』
ありがとう、黒白。
リュックさん共々、出来る魔道具がいてくれて大助かり。
「何故かどの人物からも「イケメン」と『キミミチ』という単語だけは聞き取る事が出来ました。そこに、輝くような黒い髪と瞳の生き生きとした可愛らしく健康的な女性が現れたのです。そして、その方の言葉だけは一語一句、全てを聞く事が出来たのです」
へえ。
へ?
「……可愛らしい、の?」
いや、カントリス君みたいなキラキライケメンに真顔で言われたら、ねえ?
照れるわ!
あ、いや違う。続きをお願い。
良かった。
カントリス君はツッコまずに続けてくれた。
『「いやだから、こいつめちゃくちゃ大好きな婚約者持ちだから! 離れてあげてね、っていや俺、じゃなくて私は違うから! でもこいつの友達なの!」』
「斯様に仰いました。何故、何処から見ても女性であられるのに俺と仰るのか。そして、何故僕を友達と呼んで下さるのだろうか。あとは何だろう、攻略対象者とは? と幾つかの疑念はございましたが、僕はその方にお目にかかった事がある気がしてなりませんでした。そして、更にこう言われたのです」
『「うわ、やっぱりカントリスも改めて見たら美形なんだなあ。イケメン、かあ。まあ確かにな。……ああ、もう仕方ない、俺ならリチウムも許してくれよう、ほら行くぞ!」』
何だかぎこちないね、カントリス君。
ああ、ニッケル君が無理矢理腕を取ったから身長差の不可抗力で私(ニッケル君)の胸が当たったのかな。
いや大丈夫。友達のカントリス君相手なら距離が近くなるのも仕方ない。
多分ニッケル君、お姉ちゃん達以外の他の人達にはそういう距離感を大切にしてくれている気がするし。
大体、あちらで『キミミチ』をプレイした人がこの人、カントリス君を見たら学院の制服まで完璧な美形過ぎるコスプレイヤーさんにしか見えないと思う。
ゲーム画面の美麗イラストよりも実体化した本人の方が美形だし、そもそもイケメン令嬢様と並んでもお似合いだもんねリアルは!
そこが乙女ゲーム『キミミチ』の攻略対象者とは違う所。
リチウムさんとナーハルテ様と、聞き取れなかった私の名前。相変わらず紳士だな、ニッケル君。
深く深く肯いちゃったよ。
『「……ああいうのは、離れて逃げる。良いな? 言葉が通じない女性又は男性に囲まれる可能性を常に鑑みろ。お前は自分が思っている以上に抜けているから、イットリウムを頼れ。あいつは見た目よりも遥かに賢い。……まあ、お前はものすごくいい奴だがな。性格が良いのは美徳だ。それは誇れ。あ、そうだ、これを預かってくれ。万が一の為に持ってて良かった。緑殿とカルサイトと他の皆によろしくな。……リチウムと仲良くしろよ。またいつか、会えたら良いな! 今度はお前とイットリウムへの手紙も書いておくからな!」』
偉いなあニッケル君、手紙を携帯してくれてたんだ。
イットリウム君が「うわ……」とぼそりと呟いた。
気持ちは分かるけどここは我慢しないと。
あ、カリウムさんに注意されてる。
「……そして僕は目覚め、手には二通の書状がございました。恐れながら殿下、僕はあのお方はニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ殿下とお見受けいたしました。……以上にございます」
ありがとう、カントリス君。
でも、まだ訊かないといけない事がある。
「カントリスく、カントリス。その時の君と、君が出会った人の服装は?」
いや、私が知らない服装だったら意味のない質問だけれども、もしかしたら。
「……はい、僕はこのまま、この王立学院の制服です。ああ、そうだ、ベッドに寝かせてもらっていましたので靴ではなく靴下でした。……汚れておりますね、申し訳ございません。後で清浄魔法を掛けますので。あのお方、女性のお召し物は上はアイスブルーのシャツで、下は七分程の丈の白いパンツスタイルでいらっしゃいました。綺麗に磨かれた茶色の紐靴です。恐縮ながら、その色は茶色殿のお色に似ておられました」
やっぱり。
『両方共、お姉ちゃんがバーゲンで買ったお気に入りのブランドの服だ。気に入ってるけど少し大きいからってクリーニングに出してから
あ、そうだ、靴下! ごめん、カントリス君。
足の裏に怪我はしていなさそうで何より。
「……そう、そうか。ありがとう」
『そう、チュン右衛門さんも綺麗な色の羽なんだよね。とりあえず、寿右衛門さんは靴下を綺麗にしてあげて? あとはリュックさん、何かお願い』
『分かりました、主殿』『スリッパを出してあげましょう』
あとは、寿右衛門さんとジンクさん、カントリス君にはもう、話しても良いのかな?
大丈夫でも、私からではなくて寿右衛門さんからの方が良いよね。
もう少しだけ待っていてね、姿勢を正してくれているカントリス君。
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