213-夢から覚めた僕
「あ、カントリス? 何でこっちで? そうか、お前もついに。これで攻略対象者は全員か? ……あ、お前また女性に囲まれて! ほら、こっちに来い。皆さんごめんなさい、この人、婚約者がいてその人に誤解されない様にしたいタイプの人なんで離れてあげて下さい。……あ、そこの人は『キミミチ』やってるんだ? いや、似てるけどね!」
何処だ、ここは。
知らない風景、いつもと違う服装と外見の女性達が何故か僕を囲む。
親切なのか馴れ馴れしさなのか、そもそも言葉が分からない。
王国の古語に似ている気がするが、「イケメン」と『キミミチ』という単語以外が聞き取れない。
そこに、明らかにその女性達とは異なる存在が現れた。
輝くような黒い髪と瞳。
生き生きとした姿。
カルサイトとはまた違う可愛らしさ。健康的な女性だ。
姿勢が良くて、周りの女性達よりは背が高い。
この女性の言葉だけは理解できた。どうやら、人の輪から僕を逃がそうとしてくれているらしい。
そうか、いつもよりも僕の視界が広いのか。
この空間では僕の背は高いらしい。
いや、コヨミ王国でも低くはないのだが。
そして、女性達の距離が近い。何故皆、僕に触れようとするのだろう。
「いやだから、こいつめちゃくちゃ大好きな婚約者持ちだから! 離れてあげてね、っていや俺、じゃなくて私は違うから! でも私はこいつの友達なの!」
やはり、この人は僕を助けようとして下さっている。
それにしても何故、俺。
そして、友達。
あとは何だろう、攻略対象者とは?
何だろう、この親しい雰囲気は。
あれ、僕は、この方を知っている?
「うわ、やっぱりカントリスも改めて見たら美形なんだなあ。イケメン、かあ。まあ確かにな。……ああ、もう仕方ない、俺ならリチウムも許してくれよう、ほら、行くぞ!」
名前も知らない黒の君は僕の腕を取り、走り出した。
柔らかく豊満な胸部が僕の腕に当たる。
失礼だからと腕を引こうとしたら、
「もしもリチウムに感付かれたら俺のせいにしたら良い! ナーハルテ、殿? と……殿もきっと許して下さる!……多分。」
女性達が騒いでいたが、もう聞こえない。
この方は、リチウムの事だけでなくナーハルテ様のお名前もご存知なのか。
もうお一方のお名前は聞き取れなかった。
「……ああいうのは、離れて逃げる。良いな? 言葉が通じない女性又は男性に囲まれる可能性を常に鑑みろ。お前は自分が思っている以上に抜けているから、イットリウムを頼れ。あいつは見た目よりも遥かに賢い。……まあ、お前はものすごくいい奴だがな。性格が良いのは美徳だ。それは誇れ。あ、そうだ、これを預かってくれ。万が一の為に持ってて良かった。緑殿とカルサイトと他の皆によろしくな。……リチウムと仲良くしろよ。またいつか、会えたら良いな! 今度はお前とイットリウムへの手紙も書いておくからな!」
背中を叩かれて、気が付いた。
そうだ、あの方は。
「カントリス、目が覚めたのね? 魔力切れを起こしかけたのよ、貴男」
夢を、見ていた気がする。
目が覚めて最初に見られるのがリチウムの顔。幸せだ。
いや、今は違うだろう、夢の事だ。
何故か、あの方が僕を庇って下さって……そうだ。
「あら、貴男、それは……」
やはり。
僕の手には封書があった。それも二通も。
「リチウム、カルサイトを呼んでもらえるだろうか。渡したい物があるんだ」
「身体には問題はないと魔法局付きのお医者様が仰ったから良いけれど、本当はもう少し休むべきなのよ?」
小言を言いつつも、まだあの部屋にいるらしいカルサイトを呼びに行ってくれたリチウム。
その間にリチウムの姉妹であられるカリウム様が状況を説明してくれた。
同様に医務室で待機してくれていたのはイットリウム。
「カントリス、その手紙見ても良いだろうか。見るだけだ。誓って、絶対に開封などはしないから」
念を押した上で確認をさせてはもらえないかと請われたので、君になら、と伝えて僕は手紙を渡した。
イットリウムはそれらを
僕はカリウム様に色々な事を伺った。
第三王子殿下に気付いた事を説明したあと、僕は魔力切れを起こしかけた事、殿下が僕を医務室に運ぶ様に指示して下さった事。
そして現在、出現した箱の中身を殿下とナイカ様のお父君魔道具開発局局長殿とが精査されているという事。
それらを伺っていたら、妖精であられるイットリウムの伝令鳥、羽殿も参られた。
だが、カルサイトはいない。
『医師殿は不在ですね。ならば、皆で私の亜空間に飛びましょう。残る二人も連れて行きます。その前にカントリス殿、約束して下さい。第三王子殿下には夢で見聞きした全ての事をお話する事、そして殿下がどの様な反応をなされても不必要なお言葉をお掛けしない事。……イットリウム、私に魔力を下さい。それからカントリス殿も』
「勿論です。ああ、カントリス、手紙はまだ預かっていて良いだろうか」
「はい、羽殿、分かりました。うん、イットリウム、大切に持っていてくれ」
君を頼る事はあの方のご希望でもあるからね。
そう思いながら答えたら、僕の、そして皆の身体は転移し始めていた。
多分、羽殿が転移されてイットリウムが魔力を提供するならば僕の魔力などは大してご入り用ではないのだろう。
然しながら、羽殿が仰る事であるからと、とりあえず魔力を集めながら僕も共に転移へと臨んだのであった。
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