212-箱と私達(4)

『作業中に失礼いたします。魔道具開発局局長殿、先程、爪と言われましたか。もしかしましたら、辺境区にてイットリウムが察知しまして聖女候補殿と第三王子殿下のご婚約者殿が治癒をなされた獣人の幼子の爪もその中に存在するかも知れませぬ。獣人狩りから逃げたその幼子は辺境区の孤児院にて良き職員達に育てられておりました』


 羽殿の声が聞こえた。


 私が音読してジンクさんがこちらの現代語で入力している書類の中に書かれていた子の事なのだろうか。


 腹が立つけど、粛々とこなしたらそれだけ早く連中を処断出来る、とできるだけ平常心、で進めていた所だった。


 イットリウム君が気付いてセレンさんとナーハルテ様が治癒した子。


 そう言えばそうだった。

 確か、後から首輪(!)のせいで生えなくなっていた毛根も生き返らせてあげてたんだよね。


『それならば恐らく白黒が魔力を記憶しています』


「……ですって、ジンクさん、羽殿!」


はらわたが煮えくりかえる様な話ですが、対象者がいれば証人として証言してもらう事も可能ですな。ただし、なるべく幼子にはその様な害悪、塵芥ちりあくたからは遠くに居て欲しいものです。本当に消し炭にしてやりたい所ですが。羽殿、黒白殿、情報を有難く存じます。殿下の深い知識のお陰で古語で記された書類を清書するのも早く済みそうです。羽殿、恐縮ですがそちらにおります二人には友人を見舞うなり自由に、とお伝え願えますかな。……殿下、お聞き苦しい発言をお耳に入れました事をお詫び申し上げます」


「いえ全く。むしろ、私もジンクさんと同じ気持ちです。作業を頑張りましょうね!」


『私も同様の見解にございます。また、諸々了解いたしました。また、いつでも伝令役となります故に、申し付けて頂きたい』


「殿下、羽殿、重ね重ねありがとうございます」

『白黒には伝えておきます。セレン様が爆発しない様にナーハルテ様に上手く取りなして頂けます様に、とも』


「ありがとう、素晴らしいよ黒白。良いですよねジンクさん?」

「勿論です。しかし、羽殿が作られたこの空間、作業が捗りますなあ」


 本当。ジンクさんのパテオみたい。


 あと、私の知識は深くはありません。

 お役に立てるのは嬉しいけれど。


 ジンクさんの少し荒々しい言葉遣いもむしろ親近感が湧きまくりですよ。


 そうそう、打ち込んだ書類はジンクさんから小型タイプライター(的な魔道具)を受け取った専属秘書ギベオンさんが執務室で印刷する仕組みなんだって。


 ナイカさんが作成した魔道具の改良版で、まだ試験運用段階。ナイカさんの据え置き型は誰でもほぼ使用可能だったけれど、小型版はジンクさんみたいな高魔力所有者しかまだ使用出来ないらしい。


 それでも、外出先で作業したタブレットのデータをコンビニのプリンタで印刷するみたいな仕組みだよね? 

 魔道具開発局の匠集団の皆さんの技だ。


「……ありがとうございます、殿下。本当に全ての入力が終了しました。リュック殿、殿下に休息をお取り頂きたいのですが」


 ジンクさんが言うと、了解、とばかりに簡易型なのに座り心地の良い椅子と仮テーブルと飲み物とお菓子が登場。

 椅子はジンクさんの分もある。


「ジンクさん、どうぞ、って言ってますよ」


「ありがとうございます……これは!」

 今日はギベオンさんが魔道具開発局局長執務室にいる為、ジンクさんの端正なお顔に眼鏡は存在していないのでずれません。


 そうです、スコレスさん謹製ハーブティー、リュックさんバージョン。

 木のコブカップもありますよ!


「ありがとうございます、ありがとうございます!」

 相変わらずの賞賛の後、丁寧にハーブティーを飲み干したジンクさん。


『……ただ今戻りました。何と、全て終わられたのですか?』


「はい。茶色殿、申し訳ありませんが一休みをされましたらこの魔道具を私の執務室に届けて頂けますか。これを書類にし、添付をしましたら完全に揃います」

『了解いたしました』


 その後はこの通り、雀さんに戻って文字通り飛んで来た寿右衛門さんが驚く程の進捗状況となったのでした。


 勿論、寿右衛門さんにも飲んでもらいますよ。


 リュックさん特製のハーブティーをね!


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