211-箱と私達(3)
『これを開けられたという事は計算君とも仲良くなれたんだね。さすがはコヨミさんの末裔さんだ。すごいすごい。これからもよろしくね。素敵な物は適宜ご活用下さい。健闘を祈るよ』
この揶揄表現。間違いなく、求者だ。
ご丁寧に毛筆と墨(だと思う)で書かれた文字がやたらと達筆。
何だか怒りが湧いてくるなあ。あと、コヨミさん、って。
知り合いなの?
「……寿右衛門さん、読む?」
「ありがとうございます……相変わらず美しい字ですな。まずは主殿、聖魔法による開封のご成功、お見事に存じます。それにしても初代様を斯様に……。全く。ああ、失礼申し上げました。確認作業は我々が行ってもよろしいでしょうか」
普段は温和の化身の寿右衛門さんが私と同意見なのが少し嬉しい。ただ、相変わらず、って。いや、今はいいか。
「うん、勿論。あ、ジンクさん。もしも私が見ても良い物があったら大丈夫になった時に確認させてくれる?」
「はい、無論でございます。それに恥ずかしながら私は古語には堪能ではありませんので殿下と茶色殿にお手数をお掛けするかも知れません」
寿右衛門さんが見せた達筆なそれを見て、ジンクさんが言う。
日本語はやっぱり古語なんだね。
それでも読むのは支障ないって、ジンクさんが凄いんだね。
その後は二人とも集中して書類他の確認作業。
「……こちらは例の人身売買組織に絡んでいた連中の資料ですな。この塊は……。ほう、確かに良い物を」
「ええ、これを第二王子殿下並びに関連局にお渡しすれば、間違いなく好転しますな。確か、今はカバンシ殿が辺境におられた筈です。速やかにコッパー公爵に連絡をいたしましょう。茶色殿、この辺りは」
「そうですな、主殿、こちらでしたら。資料の解説は後に必ずや」
「ありがとう。あれ、この写真……」
寿右衛門さんが差し出したそれはすごく鮮明、とまでは言えないけれど、確実にどんな姿かは分かる写真がたくさん。
フカミルさんの日光写真撮影機で撮影した写真に似ている。
「はい、ご明察です。元魔法局副局長の血縁が品評会に出品しました日光写真撮影魔道具と同種類の魔道具で撮影した可能性が高いです。求者、でしたか。その存在が元魔法局副局長に影響を与えた事が益々裏付けられましたな。蝙蝠もほぼ、と。ご心配かも知れませぬが元副局長の血縁本人への罰則等は一切適用されておりません。周囲の理解も得て、当人は学業と魔道具開発に勤しんでおります」
この撮影魔道具には品質が劣るけれど、『キミミチ』にも出て来た魔道具。
やっぱりあいつ、あちらの情報を得ているのかな。
あと、コヨミさんとの関係。
もしかしたら寿右衛門さんとも? っていう疑問はあるけれど。
今はそう、箱の中身の解析だ。
「これで獣人は人身ではない為人身売買には当たらぬ、即ち大陸法には該当しないと申しておりました連中を本格的に絞れます。改めてハンダ殿達にご登場願っても良いでしょうし、筆頭公爵家からも人材提供が可能と聞いております。我がコヨミ王国は獣人であろうとなかろうと、例えば魔獣人であっても、意思を持つ年少者を労働者として売買する事は厳罰。国外からの売買につきましても両者に刑罰を処せる事になっておりますからな。こちらの塊は売買用に捉えられた獣人達の毛髪や爪等の様です。かなりの保存術を掛けてありますから、関係者の魔力を追えますね。……おや、リュック殿、ありがとうございます」
大陸法とは、コヨミ王国とは正式な国交が樹立されていない国でもこちらの世界の国ならば必ず適応される基本の法律だ。
私も寿右衛門先生の講義で基礎法は抑えられていた筈。
リュックさんは保存袋を整列させて、種類毎に分別してくれている。
本当に戦力だねリュックさん!
私も他に出来ること……。そうだ。
「ジンクさん、もしかして古語のままでは読みにくい書類とかはありませんか? あいつ、性格が悪いから。私が訳せばその間寿右衛門さんが色々と飛び回れますよね?」
寿右衛門さんの場合比喩じゃなくて元に戻って本当に飛ぶかも知れないけれど。
「ありがとうございます、それでは。娘ナイカが作成しました魔道具の小型版がございますので、私が入力いたします。……これと、こちらを解読して頂いても?」
「主殿、自ら率先して活動を行われるその姿勢、この寿右衛門感動いたしました! ジンク殿、私はまずはコッパー公爵家当主殿の所に行きます。それが終わり次第、また別の局に向かいますので、準備を願えますかな」
『茶色殿、それはお任せ下さい』
「ありがとうございます、黒白殿。それでは失礼いたします!」
あ、寿右衛門さん、人型のままだ。
まあ、アルミナさんなら驚かれたりはしないよね、うん。
大丈夫だよ……ね?
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