194-お茶会の侯爵家当主殿と王子様な私

「皆様方、お茶のご用意が整いましてございます」

 ありがとうございます、いつの間にか人型、執事姿の凛々しい寿右衛門さん。素敵。


「丁寧なご挨拶、痛み入ります、コッパー侯爵。第三王子ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミです。然しながら、この場ではあくまでもご令息、スズオミ君の友人としてご対応願えませんか」

「ご配慮に感謝申し上げます。それでは、には左様にいたしたく存じます」


「ならば自分が。お手をどうぞ、アルミナ様」

 うわあ、ライオネア様、指先まで凛々しい!


 イケメン騎士様が高位貴族のご当主様をエスコート。絵になる!


「ありがとうございます、ゴールド公爵令嬢。然しながら、これは当主としてのけじめです。茶会はその後に。スズオミ、こちらへ。……それから」


 魔法でも使われたかの様にキビキビと動き出し、アルミナ様の隣に直立したスズオミ君。


 ええと、私は。

『どうかそのままに、おかけになっていらして下さい』

 寿右衛門さん。はい。


 あ。


 魔力の渦、みたいなものが空間に広がり、コッパー家の天井、硝子の切り込みが美しく反射した照明魔道具の辺りから騎士団副団長、アタカマさんが飛び出してきた。


 多分、空間に巻き込まれた強制転移魔法。


「……アルミナ、やはり君か! 第三王子殿下、そうか、理解した!」


 騎士団副団長、騎士団認定の活動用簡易行動服で登場。要するに上等なジャージ姿。

 いや、これ本当に良い事だと思う。


 アタカマさんの様な方々なら万が一の出撃時には自分自身の魔力を込めた騎士団の正式な鎧を転移させる事が出来る仕組み。

 書類作業とか身体機能向上の訓練の監督や実践にはこちらの行動に特化した服装の方が絶対に効率が良い。


 因みに、急な来客対応等にはあっという間に着用可能な簡易騎士服も階級に応じて各種取り揃えられています。


『細かい事だけれど』と空き時間に頁を開いてくれていたハイパーに感謝。


「ただ今、浄化魔法を。第三王子殿下の御前にございますので」


 アルミナ様、アタカマさんが綺麗に回転して着地するまでにその巨体に数回の浄化魔法を掛けている。


 すごい、そして効率が良い。勉強になります。

 あとこれ、じゃないかな?


「魂の転生という、大事業を経て異世界に来られたばかりの御身に必要外のご心痛をお掛けしました事、更には高位精霊獣殿にまで多大なるご迷惑をお掛けしました事、この両名と共に、当主としまして、伏してお詫びを申し上げます」


 どうしよう。真ん中にアルミナ様、両側にアタカマさん、スズオミ君。


 お手本みたいに綺麗な土下座。何だかもう、舞台みたい。


 多分、私と初めて会った時のアタカマさんの態度と、スズオミ君が決意を以て私に挑んできた時の事だよね。


 どちらもその時々でお詫びをしてもらったり、(主にアタカマさんが騎士団長金紅きんこうさんから)鉄拳制裁をされたりしているから、気持ち的には全く問題なし! なのだけれど。


「無論、第三王子殿下並びに高位精霊獣殿、高位魔道具殿に失礼を働きましたスズオミには、当主たる私自ら魔法制裁を加えてございます。本日、この場の後に二人には更なる制裁を加えます故、どうか、平にご容赦を」


 ええと、会いたいと言って下さっていたのはこの為?


 だから、タウンハウス内に一人のお付きの方もいないのか。


 侯爵家のご当主である奥様、騎士団副団長たる旦那様、ご令息が婚約者たる公爵令嬢と同席している所で第三王子殿下と高位精霊獣殿がおられる前で土下座。絶対に外部に漏れたらいけない案件。


『もう暫くお待ちを。思う所はあられましょうが、今は深謝をお受け下さい』


 制服のスズオミ君、騎士団ジャージのアタカマさんはともかく、アルミナ様の高級な生地のワンピースが気になる、とか考えてはいけませんね、はい、分かりました。


 正しく深謝しんしゃ。今ここでの意味は深い謝罪。身に染みてます。


 とにかく、私は第三王子殿下。


 王子様らしくこの場を乗り切りますよ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る