幕間-31 大好きな家族と大切な友人達と?な婚約者(1)

 私の名前はリチウム・フォン・タングステン。

 侯爵令嬢で、エルフ族の財務大臣と医療大臣の婦々から生まれた実の娘だ。

 実の娘。間違いではない。


 同性婚姻が認められたのが大陸から見ても早い方であるコヨミ王国では婦々や夫々はさほど珍しい組合せでもないし、養子であれば子供の数もかなりの人数だろう。


 けれど、私と姉であり妹でもある愛する家族カリウムはリラ母様とカク母上の子供。そして私も同じ。


 私達はそれぞれの生みの母を母様と呼び、遺伝上の母を母上と呼ぶ。

 二人でいる時は大抵相手の手を握り、抱きしめる等をしているのは母同士の仲の良さを自然な姿として目にしていたからだ。

 無論、それをすべきでない場所では行わない。その点も母達と同じ。


 私もカリウムも母達も、王国民皆が尊敬して止まないお方であられる初代国王陛下の勧めで女性同士の妊娠出産を成功させた両親。


 私達はそれぞれ生みの母の姓であるが、もう一人の母も遺伝上の母。


 その妊娠出産の方法はエルフ族の中でも突出した魔力を持つ二人に限定した術式で、門外不出の為、高名なる大書店の禁書庫にのみ保管されているそうだ。


 ただし、母上が書かれた他の学術論文、書物他、例えば不妊治療に関する研究等は示しても良いものは全て内外に示し、治療薬、治療魔法薬並びに治療方法、治療魔法等もきちんとした形で伝播されている。

 きちんとした形と言えば、避妊についても安全安価な薬や術式を研究開発したのも母上である。


 そうそう、妊娠出産に関して必要な経費、設備その他の面は母様がきちんとした記録を残されている。他の病等に関しても同じで、記録ではないものも詳細な案や試算が示されている。

 無論、必要なものには法に基づき対価を得た上での公表が行われている。


 財務大臣として務めながら多種多様な施策を行う傍ら、様々な方法で内外との折衝を行ってきた母様も同様に、示して良いものは全て外部にも示している。

 対価に関しても同様。

 その為、我らが両親が国庫に残した(現在も継続している)財はかなりの額だと言う。


 それぞれの侯爵家としての資産もまた少なくはないが、成した功の割には些少であられる、とは他者からの弁である。

 初代国王陛下からのご決裁を頂いて以来、妊娠出産、育児の期間ですらその職を手放さなかった母二人には羨望だけを持たぬ輩も少なくはない筈。

 それが表に出ない程に二人の存在は我が国にとって必要不可欠なのである。


 そんな婦々と縁を結びたい、妻や夫に、は無理であろうから愛人にならばもしかしたら、というふざけた者達は昔から存在し、私達姉妹にも婚約を結びたいという申し出が幼い頃から多かったらしい。


 私達、と言うよりは母達や財が目当てなのだろう。下卑た考えだ。


 そんな中で、財務大臣令嬢と財務副大臣令息、医療大臣令嬢と医療副大臣令息の婚約は結ばれた。

 両親は「特に断る理由もないでしょう、破棄権はこちらにのみあるのだし」

 とだけ言っていた。

 確かに、と思った。


 珍しく私達が心から慕う友人達も同様の婚約をいたし、財務副大臣ご夫婦と医療副大臣ご夫婦は我が家やあちらのお住まいでお会いする事も多く、いずれも和やかな子供好きの方達で、ご夫婦には良い印象しかなかった。


 ただ、令息の印象は。


 どうだったろう?

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