幕間-30 乙女げーむ『キミミチ』とあたし

『貴方が辛い思いをしているかと思って』

『セレン、君には俺の心が分かるの? 何故分かったの?』


 うー、思い出すとやっぱりうがー、ってなるなあ。

 異世界の乙女げーむ、正しくは乙女ゲーム、『キミミチ』の聖女候補。

 名前は変えられるらしくて、変えなければセレン-コバルトのまま。


 そう言えば、マトイ様も名前はそのまま派だって仰ってたなあ。


 あ、許せる、というかこれならあり! のパターンもあったんだけどね。

 聖教会本部で頑張るのがあたしの本意です!の時とか。


 ただ、あたしが吠えたくなるのはこういうの。

 映像水晶に聖魔力を流して、今一番好感度?だっけ? が高い、または自分が狙っている攻略対象者? の姿を追う攻略、っていうやつの方ね。


 立派なご両親とか素敵な婚約者の皆様に引け目? とかを感じている皆の心情を何故か理解しているセレン(やだなあ、こう言うの。聖女候補にしよう、うん!)。

 それで、聖女候補は相手が欲しい言葉を紡ぐの。


 詐欺かよ!

 あ、お父さんみたいな口調になっちゃった。ごめんなさい。


 まあ、この攻略、ってやつをヒントにして、あたしはマトイ様とナーハルテ様との連絡方法案を構築出来たんだけどね!


 話を戻すと、例えば、今あたしが思い出していたのは医療副大臣令息のサルメントーサ伯爵令息の場合。


 あたしはもうこちらではカリウム様と一緒(カリウム様と仲良くなれた事の方が実は嬉しいのは内緒。でも仲良しが増えた事は嬉しいよ?)に良いお友達なので、イットリウム君、またはイットリウム様呼び。


 あ、そうそう。『キミミチ』の彼。


 大好きな医学と魔法医学の研究に専念したいけれど、領地領民も大好きだからどうしようかと悩む唯一の嫡子サルメントーサ伯爵令息に、

『あたしが貴男の領地と領民を守ります!』って力強く宣言。すると、伯爵令息も聖女候補の思いに感動。


 おいおい、簡単に言うな! 領地と領民って、あんたが領主様になる気か? 人々の生活全てを支え、守る存在だぞ? それが出来るのか? って感じ。


 現実の彼はカリウム様と相談して、色々話し合って、お互いの関係、勉強、将来の進路、それから領地領民をどうしていくか、とか、たくさん話せてるらしくて、とてもいい感じらしい。


 あと、ナーハルテ様が聖魔力を満たされた聖魔石と、実はエルフ族の血縁だったあたしのお母さんが何代も前のおばあちゃん(ご存命なんだよ! いつか会えるかも、って楽しみ!)から預かっていた伝令鳥殿の羽のお陰で、イットリウム君を見守っていらした妖精殿が実態化されたのも、すごい事。

 あ、伝令鳥殿は梅殿と仰って、お母さんの事も主と認めて下さったの! 凄いよね! あたしも紅ちゃんに会いたいなあ!


 あ、また脱線。

 とにかく、そういうのが一切合切無いからね『キミミチ』!


 今回、色々あって細かい事情を知って、映像水晶で自分そっくりな姿(絵なんだけどあたし達っぽいの。すごいよ!)を見たイットリウム君、

「何こいつら! まぬけじゃなくて最悪!まともなの、カルサイトだけじゃない?」ってまぬけ王子と仲間達に呆れてた。


 あ、映像水晶に映し出せたのは超絶パワーアップした黒白殿と白黒殿のお陰です。


「第三王子殿下、あちらではこんな最悪軍団に馴染んでいらしたの? 他人のそら似とは言え、こんなに似てるこっちの俺達に実に細やかに対応して下さってるよねえ……。本当に有難いよ」

 ってイットリウム君が言ってたけど、その通りだと思う。


 そうだ、断罪劇場の時、特には言われなかったしむしろめちゃくちゃお優しかったけど、あたしの印象もかなり悪かったんじゃないかなあ?


 あ、そうだ、今の皆さんの関係ね。今はすごく良い感じ。


 あたし、恋愛話大好き! だから色々教えて頂けて嬉しくて楽しい。

 え、あたしの話?そっとしておいて下さい……。


 じゃなくて! 第三王子殿下はナーハルテ様とラブラブ、スズオミ君はライオネア様とは男女を越えた友情なので発展的婚約解消に向けて精進中、カルサイト君はナイカ様と魔道具開発に切磋琢磨しながら熱愛中、イットリウム君はカリウム様と友達以上で婚約関係進展中。 


 うん、良いですねえ。


 ええと、攻略対象者? はあと残りお一人か。


 カントリス・フォン・マンガン伯爵令息。

 財務副大臣令息でもあられる人。優しくってイケメンで女の子からは人気ある人。それは否定しないよ。確かにいい人だしイケメン。


 ただ、学院生で婚約者がいない女子とか、適齢期の貴族女子とか、寡婦さんとかと仲良くし過ぎ。

 ダメな方にヤバい。

 あ、あたしの生まれ故郷、八の街みたいな所謂男女のお付き合いはしていないみたい(してたら学院を追い出されるよね?)。せいぜい手を繋ぐくらい。あれ、それも無かったんだっけ? でも、人数多すぎ。


 そもそも婚約者がいたら観劇とか色々、交際じゃない付き添いのお付き合いでも、親族以外とはしたらダメでしょう。 

 あたしにも分かるよ?


 断罪劇場のパーティーの時は素敵で素敵で素敵なライオネア様が女子学院生の人気をほぼ独占してたから大丈夫だったけど。


 カリウム様とイットリウム君曰く、リチウム様の事が好き過ぎて、女性を大切に、って言われた言葉を大事にする余り色々誤解されてるらしい。


 今はマトイ様とナイカ様とカルサイト君にこてんぱんにされてるけど、これからは、カリウム様とイットリウム君も参戦するって。


 特に、色々あってこの辺境区でめちゃくちゃ頑張ったイットリウム君は燃えている。


 ナーハルテ様からマトイ様へのラブラブな辺境区のお土産をお届けしてからまた戻っていらしたじゅったん様から「カントリス君をよろしく」って書かれた第三王子殿下からのお手紙を頂いた為、っていうのもあるんだろうな。


 イットリウム君の伝令鳥になられた妖精殿、羽殿もご協力下さるらしいし。


 あたしも、向こうに戻ったら色々お手伝いをしようと思う。

 こてんぱんとかけちょんけちょんだったら任せて欲しい。必要なら飛ばしますよ、落雷!


 結局、マトイ様も仰ってたけれど、あの聖女候補……セレンと現実のあたし、違いすぎ。


 似てるのは婚約者の皆様方の素敵さ、格好良さだけ。攻略対象者? の事じゃないよ。


 まあ、まぬけ王子と仲間達だった事は否定しないけど、そもそも、あたしの事をそういう意味で好きになった人っていない筈。


 そう話したら、カリウム様とイットリウム君は笑っていた。

 何だか、ああ、そうなのか、という感じで。

 そう言えば、品評会のあれこれの後にお話した時のマトイ様とナーハルテ様も同じ様な表情をされていらしたっけ。

 あ、一緒にいらしたナイカさんとカルサイト君もだ。


 そう言えば、こっちに来る馬車の中でそんな話しをした時のお母さんとカバンシ兄ちゃんもだった。


 お父さんは「セレンはそれで良い! 良いんだ!」って言ってたよね、うん。

 お父さん、嬉しそうだったなあ。


 あれ、何かあたし、見落としてるのかな。


 まあ、でも良いか! 皆、何だか微笑ましい、って感じでいらしたもんね!


 あたしの事より皆さんの事!


 それに年度末に控えしはライオネア様の試合! 盛大に応援! これ物凄く大事!


 あ、スズオミ様、スズオミ君? の応援もだった!


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