幕間-29 白百合の私と白絹糸のあの子
ある日、ふと思い出した。友人、初代サルメントーサ伯爵と別れてから、かなりの年月が過ぎた事を。
とは言え、人の生きる歳月に換算すれば、だが。
聖霊殿や聖霊獣殿達に比べたら、精霊殿や精霊獣殿達には話したがりの方も多い。
精霊王様直参であられる高位精霊獣殿がまだまだ猶予はあるものの、逆に猶予がある間に探すのも良かろうと精霊王様のご許可を得、この世界の『気』を整える存在を探しに異世界での伝手を再び使われているとそんな方々から伺ったのが人にしてみたら10程の前の年。
その手段としてサルメントーサの血族も挙げられていると知り、名誉な事だと当代に会いに行こうとしたら、それは次代であった。
驚いた。初代の様に美しい絹糸の髪。
故に、白百合に体を借りて話し掛けた所、自分には妖精の声は相応しくないので副大臣として医療に尽くす父か、領地領民と生きる母にと申す。
その心ばえを褒めようかとも思ったが、次代は初代と同じく、ひねくれていた。
取り敢えず初代と同様、その髪を持つ者とのみ会話が可能なのだと伝え、幾つか予言を与えた。
これが妖精たる私とあの子、イットリウム・フォン・サルメントーサとの出会い。
そもそも、初代とて私が授けた魔法により領地領民を更に発展させた功で初代国王から爵位を賜った地方領主。
現在でこそ伯爵位の規範と呼ばれる存在だが、あの者も実にひねくれていたのだ。
イットリウムには真実を話してみたが、本気にしなかった。
大書店に秘蔵されている秘中の秘の書物、『コヨミ王国年代記-秘-』には確かにその記述があるのだが。
無論、内容を執筆者であられる大書店の支配人殿に伝えたのは私だ。
それからも、百合のコサージュの姿を借りた私からの幾つかの予言、時には助言を嫌がらずに聞き、善人に近い性質なのに自身を医学と魔法医学にしか興味のないひねくれ者と捉え、家族や領民、友人や婚約者を気遣うサルメントーサの次代、イットリウム。
人を好ましく思う事、人に敬意を持つ事についても自覚が足りない所がある。
私もいい加減、この子はひねくれ者ではなく善良な者なのだと自覚するべきではと思い始めていた頃。
何と、私はこの子以外とも会話が可能になったのだ。
妖精で実体化するものは稀だが、全属性所有という力と類い希なる性質と美貌を備えた美しき白金の筆頭公爵令嬢、私があの子に
それに加えて、エルフ族の幻の存在とされる予知の方のご血縁が伝令鳥殿の羽を渡して下さった為だ。
……何ということか。
私は妖精族で有りながら、白鷺の様な姿を得た。
精霊殿、精霊獣殿は色を、聖霊殿、聖霊獣殿は花や果実、植物の名を自身の御名として使われる事が多い。エルフ族の名高き予知の方に仕えし伝令鳥殿は仮名を黒梅殿とおっしゃるが、この梅は色を示すものなのである。
つまり、我が名を白としてしまうのはあの高位精霊獣殿に対して失礼極まりない。故に、羽と名乗る事とした。
……高名なるコヨミ王国初代国王陛下。
お噂はかねがね、というか妖精界ですら噂を知るものがある程、稀有な異世界を出自とされる人。
その末裔殿とイットリウムが親しくして頂くなど、望外の喜び。
辺境区で医療活動に携わるイットリウム宛に伝令鳥殿を通じて末裔殿から頂いた手紙によれば、何やら末裔殿はイットリウムの友人、カントリス・フォン・サルメントーサとその婚約者の間柄を気にしておられるご様子。
今のイットリウムは、白金の姫君と紫色の聖女候補への微かな恋情、
辺境区での医療活動も、目を見張る様な勤勉さである。
それも全て、黒曜石の王子様、第三王子殿下となられた末裔殿のお陰であろう。
昔日のイットリウムの態度を赦してくれた白金の姫君と紫色の聖女候補に対する謝意も、忘れる事はない。
……白金の姫君と紫色の聖女候補への謝辞は取り急ぎ伝えられた。
私が次に謝辞を示すべき方は、言うまでも無かろう。
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