第四章終-転生したら大好きな悪役令嬢を断罪する筈の王子だったけれども当然ながら悪役令嬢様を益々愛しく思い続ける所存。

『お土産を取って参ります』

『『「いってらっしゃーい」』』


 超大物お二人へのお説教を終えた寿右衛門さんは人型イケオジからふわふわ雀さんに戻って再び辺境区へ。


『またすぐこちらに戻ります、暫しのお待ちを』

 との事だったので、私はのんきにイットリウム君への手紙を書いていた。


 ただ、その間、お二方それぞれの秘書官さんが

「第三王子殿下、お休みの日に申し訳ございませんが……」

 と遠慮がちに在室を確認して、不在故に落胆して帰っていったのが印象深い。

 ごめんね、第三王子という立場上、謝罪も出来なくて。


 そう、本来はノックされるべきお部屋、聖教会本部準々貴賓室。……なんだよね?

 我が生活空間へのお客様は転移魔法使用率が非常に高い。竜さんに乗って来られた方もいらしたからね!

 いや、嬉しかったけど。


『遅くなりました。どうぞ。お土産にございます』

「お帰りなさい」

 寿右衛門さん、早い。何かなお土産。


 どれどれ、お土産は……。

 魔道具だ。冷凍保存箱!

 しかも、冷凍魔法を掛け直せばかなりの回数使用が可能な優れ物。魔道具開発局様々な品の一つ。

 さて、中身は? 海鮮かな?


『取り敢えずお一つ』


 アイスクリームだ!

 アイスクリームは市場にもあるし、コヨミ王国では一般的な食べ物なんだけれど、辺境区には海もあるから海岸沿いに必ずアイスクリームスタンドが並んでいるんだよね。

 だから、一般の市場よりも種類が豊富らしい。


 寿右衛門さんが最初に出してくれたのは、チョコレートアイス。美味しそう!


 泳ぐなら夏だけれど、一年中快適な気温のコヨミ王国は軽く波打ち際で遊ぶ位なら一年中大歓迎。素敵。


『そして、こちらが本命にございます。黒白殿と白黒殿に、音声を移して頂きました。何度も転移をいたしましたのは、この故に存じます』

 ええと、これはバニラアイスだね。黒白だから? チョコレートアイスは黒とは言い難いかも知れないけれど、良いんだよ、美味しそうだから。


 ……と思ったら。

『再びの差し入れを誠にありがとうございました。多少ながら、わたくしからのお返しに存じます。魔法で形成させて頂きました。是非ともご賞味下さい。残りの任務期間を無事勤め上げましてお会いできます日を楽しみにしております』

 このお声。私がこのお声を聞き間違える筈がない。


 断罪劇場のあの日、素敵な作画を現実化したらこんなにお美しいお姿なのかと打ち震えた現実のお姿に相応しい、『キミミチ』の流麗なお声よりも更に素敵なそのお声。


「ナーハルテ様、が、これを……?」


 ピンク色のアイスクリーム(苺味なのかな?)が、ハート型。控え目な大きさで、あくまでもメインはバニラアイス。

 だけど、これ絶対私が差し入れたあの卵焼きのお返しに、だよね?


「うわ、嬉しい。ええ、いや、これ不意打ち! 寿右衛門さんが勧めてくれたの? あ、やっぱり! ありがとう! うわあ、勿体ないけど、食べるよ勿論! 音声は一時的だよね?」

『残念ながら。ただし、アイスクリーム自体には状態保持魔法が掛けてございますから、時間をかけて召し上がって頂いても構いません』


 手紙、手紙書こう!

 あ、黒白が戻ってくれたらこんな時にすぐに声でお返事できるんだ! すごい!


「色々ございましたが、お二人から預かりました聖教会関連並びに聖魔法関連の各種書物、記録記事等はいずれも素晴らしい物ばかりですから、是非ともお読み下さい。先に百斎殿から頂いた分と合わせましたら、非属性たる主殿が聖属性魔法使用者たるに一切の心配もございませぬ内容に存じます。辺境区から黒白殿と戻りましたら、私がご教授申し上げますので可能な範囲で予習をなさって下されば」

 あれ、聖魔法の学習ってお二人から直々じゃなかったっけ、百斎さんからも教えて頂いてたし……って言わぬが花だねこれも。


「そうだ寿右衛門さん、留守の間にお二人の秘書官さんがいらして、お二人を探されていたよ。今日は見えていま、いないねえ、って言っちゃったけど。……上司が捕まらないのってすごく困るから、なるべく早く秘書官さん達の所にお返ししなくて良いのかな?」

『ご対応はそれで大丈夫です。今はお二人で亜空間の室内にて、かなりの量の書類と文献にあたっておられます。コヨミ様のそれにも似ておられる、主殿の尊きご提案にご助力頂けます様にお励み下さい、とお伝えいたしましたので。勿論、ご両名の秘書職殿には私が伝えに向かいます』


 深く。

 うん、さぞかし深いお伝えだったんだろうね、寿右衛門さん。まあ、これなら秘書官さん達も安心してくれるかな。


 あと、コヨミさんを比較対象にされると困る。多分そこまではすごくないよ?


『いえいえ、ご謙遜なさらず。貴方様は益々第三王子殿下として相応しいお方となっておられます』

『まあ、うん』『偉いよ!』


 うーんと、まあ、ありがとう。


「よし、お礼状も書くよ! リュックさん、とっておきのレターセット、よろしく!」

『了解!』『頑張って!』

『内容の確認はお任せ下さい』


 かつてのまぬけ王子と仲間達とそのご婚約者とのあれこれも、多分あと一組を残すのみ。


 そうだ、友人同士としてはめちゃくちゃ上手くいっているお一組の剣術試合も控えていますね。


 強力な仲間達が増えて嬉しい反面、例の指輪達も、やっと揃った様だし、色々な困難も待ち受けているかも知れないよね。


 でも。

 暦まといことコヨミ王国第三王子殿下ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ、今日も大好きな悪役令嬢? 様に絶賛ときめき中です。それは間違いなしです。


 現実のナーハルテ様が素敵過ぎて、たまに忘れそうになるけれども、決して忘れません。


 この世界で、私は確かに貴女を思っています!


 決意を新たに、また奮起しますよ!


 第四章〈終了〉


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