191-緑殿と土と俺
「よっしゃ、いい感じだ。お疲れ。……じゃあ先生、アイス屋台へのお詫びは任せるから、よろしくな」
「明日、屋台の方のご迷惑にならない時間帯に必ず伺います。ありがとうございました。」
「「すんませんっしたー!」」
『おうよ、これからは声掛けの時には相手の都合と意志を尊重しろよ?』
「「はい!」」
結局、連中は緑殿の手伝いとして花壇の補修をし、ドワーフの先生に連れられて帰っていった。
傷跡を残したのは連中に反省を促す為だったんだな。
「皆様はいつまで滞在をして下さるご予定でしょうか」とこっそりと先生に訊かれたし。
反省の様子が見られたら治癒を依頼するつもりなのかも知れないな。
俺達が去った後も活動自体は継続すると教えたら安心していた。
予防接種に来てくれた孤児院の子達はアイスクリームを楽しんだ後、他の先生が連れて帰ってくれる。
あんな連中だったが子供達は兄貴分として懐いているらしいから、不必要に子供達に心配させまいとする配慮だった。
『ありがとな、白の兄ちゃん。照明魔法だけでなく、土壌の活性化まで。帰るまでには何か植えてえなあ』
「ああ、それなら。羽殿にお願いしまして、我が領の苗を取り寄せましょう。辺境区にも流通ルートは存在しますが、農業用の大量買い付けのみなので、少量を売る場で購入して頂きます」
『そうか、兄ちゃんの領地は良い所なんだな』
「ええ。先ほどの者達の様な獣人もおります。ただ、国民でないと、やはり……」
領地の母と頼りになる執事長が積極的に流民の永住資格取得の為に動いていた件はこういう事か、とやっと理解した己の不勉強を悔やんだ。
だが、まだ時間はある。
俺は選抜クラスで医学と魔法医学以外も学ぶ、俺自身の為に。
結局、多種の知識と経験は自分の興味を惹くものにも繋がっていくのだ。
俺に今回の任務を命じられた大臣ご婦々はこの事に俺が気付く事を期待して下さっていたのだろうか。
いずれにしても、カントリスにも教えよう。「学びたいのであればむしろ、数学や計算以外も大切にしろ」と。リチウム様から言って頂くのも良いかも知れない。
『そうだよな、居心地が良い領地だけに人口が集中するのも考え物だし。辺境区も良い所だ。辺境伯家のお陰だな』
そうなのだ。
例えばプラティウム筆頭公爵領等は毎年、移住希望者が中々の数で待機者も多い。我がサルメントーサ領もそこまでではないものの、その可能性はある。
「茶色殿が急いで戻られましたのも、その為ですね」
また戻りますが済みませぬ、と転移された茶色殿。
恐らくは転移先でツッコみまくっておられる事だろう。
『ああ、ツッコむのが終わったら、主様と色々話されるんだろうな。……あ、兄ちゃん、良ければ俺のことは緑さん、って』
「それは恐れ多いです」
『いや、土が兄ちゃんはいい奴、って言ってるから。そもそも、妖精殿と言葉を交わせてたんだろ? ひねくれ者なだけでいい奴じゃねえかよ、兄ちゃん』
俺が魔法を掛けた土をいじりながら緑殿が言われた。
そうか、土が。それに、妖精殿。……羽殿。
『あの婚約者のエルフちゃんともこれから上手くやりゃあ良いじゃねえか。貴族さんで、好きな相手か好きになれそうかなりそうな相手が婚約者なんて、すげえ幸運なんだろう?まあ、この国はどうしてもなら断るとか色々出来る国で、その事自体が幸運みてえだけど。でもやっぱり婚約者が良い相手って良い事だよな? そう、うちの主様と番様みてえに、ってダメだったこの言い方!』
やべーやべー、と慌てる緑殿。
『今のは秘密な?』
「はい。……それでは。あ、申し訳ございません、一つ宜しいでしょうか」
『何? 俺で良ければ』
「緑……さんは、念話と会話は両方お使いになられるのでしょうか」
「ああ、これな! いや、俺も最初は念話1本だったんだけど、主様の魔力に慣れたからかな、なんか会話も出来るんだよ! そう、良く気付いたな。普通の人間には念話と会話の違い、分からねえみてえでさ!」
そういう事だったのか。
正直、それ程に厚い信頼関係にあるこの方に番と言われたら今の第三王子殿下はお喜びになると思うのだが、それはそれ。
ひねくれ者はこれ幸い、とこの秘密とそれからご縁を緑さん、と呼ばせて頂く契機とさせてもらう事にしたのだった。
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