182-第二王子殿下とカバンシと俺

「これで一応、全部揃って回収出来たって事ですかね」


 三個の計測器の値は、全てがゼロ。

 指輪、装飾品、武器防具(装飾品ぽいやつも武器防具に含む)。


 指輪だけは二つで一つだから倍。それでも全ての値が15から0へと変化した。


 回収したのは胸くそ悪すぎて吐き気がする様な獣人売買組織、聖魔力保持者誘拐組織、その他諸々から。

 あ、俺達が潰したのは最初に挙げた組織獣人売買組織。色々あって完全壊滅ではないのがムカつくが、ほぼ壊滅、にしてやったからしばらく動きは取れない筈だ。


 他国の組織を滅してくれたのは辺境伯様の直属とか騎士団の遠征部隊とかだな。

 ああ、国内なら俺達も多少は手を貸せた。それ以外にもジジイ(中央冒険者ギルドギルドマスタースコレス殿とも言う)が手配した凄腕冒険者とか、騎士団の精鋭達とかも。


 何だっけか、筆頭公爵令嬢様の家の執事長さんとか関係者(家令さんもされてる様な方? とか身内?)とかもいたらしいが、ジジイが秘密じゃ、とか言ってたなあ。

 カンザンも、まあツッコむな、って笑ってた。


 あとは、緑ちゃんも茶色殿を通じて開発局に指輪を提出してくれていたっけ。


「僕はその求者という存在については詳しくは分からないけれど。何だか、コヨミ王国の者達に内外の悪しき存在を滅してほしいのかと思う様な行いだね」

 第二王子殿下がこう言われた。

 俺の物言いその他は一切構わない、と既に辺境区でお許しを頂いている。


 確かに。


 殿下のあの腕時計? 

 あいつ、今はすこぶる良い魔道具やつだが、元々は初代国王陛下達に成敗された連中の悪意から発生したもの。


 求者というやつが全てを仕組んでいたとも思えねえんだよな。まあ、利用はしたのだろうが。


 だが、もし、例えば嘗て初代国王陛下達に処断された連中全てが求者の手の平の上とかだったのなら。

 精霊王様や聖霊王様が何らかの罰をお与えになっていた? いらした、か? のではないだろうか。

 もしかしたら、幻獣王様も。まあ、幻獣王様は地上にはほとんど対応をなさらないかも知れねえが。


「……聖女様を求める事が第一なのは間違いないでしょうが、完全に悪しき存在なのか、というと正直、微妙ですな。その様な存在がおりましたら私の故郷、飛竜の里でも話題になっていたでしょうから。いや、もしかしたら、初代様ならば何かを……残念ながら初代様は何処におられるかが分からない為に、お聞きすることはかないませんが」


 カバンシが何とも言えない、という表情。

 初代様、は飛竜の里の初代様のことか。


 ああ、そうだ、ここは第二王子殿下の私室なのでカバンシは勿論人型だ。


「求者は、ニッケル……マトイ様とナーハルテ嬢、セレン嬢に何を求めているのかな。求める、よりは与えている、な気もするんだよ。……この王国もコヨミ様、初代国王陛下から数えて母上で第十五代目だからね。何かあるのかも知れないなあ」


 殿下の言われる事は、確かに、と思わせるものだった。


 そうなんだよな。


 セレンは顔を真っ赤にして怒っていたが、魔道具開発局の結果発表会壇上でのやり取りも、セレンあいつの精神と伝令鳥殿の成長を促してくれたと言えなくもない。


 セレンのやつ、血の気が多いからな。俺に似て。


 それから、ネオジムが俺達に真の姿を教えてくれた。これも求者がきっかけの一端を担った、と言えなくもないだろう。


「確かに。ネオジム殿は思慮深い方だから、この様な時でもなければ真の姿を示してくれたかどうか」


 カバンシ、普通に心を読むなよ。まあ、良いけどよ。


「他にもコヨミ王国の次代を担う存在に助力をして下さる精霊獣殿達が見えていらっしゃるからね。……僕も、留学先でできる限り情報収集を行えたらと思っているよ」


 第二王子殿下が留学をされるのは友好国の中では小国ではあるが、コヨミ王国との友好や貿易を大切にしている国。

 聖国から離れて民主制度を採択された国でもあり、歴史もコヨミ王国より古い。


「民主制を学ばせて頂くのが主目的だけれど、国内最古の図書館の特別書庫にも入れて頂ける、もしかしたら、何か掴めるかもね。……その際にはよろしくお願い申し上げます、カバンシ殿」


「……任せて下さい」

 何やら第二王子殿下とカバンシは共闘して画策されているらしい。


 聖女様とか、聖国のこととか、か?

 あと、事にしたから、って。この方も当然だがかなりのやり手だな。


 そうだ、カバンシ。

 こいつの人見知り、人見知りの振りをして俺達家族以外とは付き合いたくなかったってーの、本当だったんだな。


 そう考えると、今は仲良くしたい奴が多いんだな。

 セレンはマジで人見知りだと思ってる(た?)みてえだが。


 そんな事を考えていたら、転移の気配がした。


『雀便に存じます』


 すずめびん? 茶色殿だ。やたらと上品なお使いだなこりゃ。


『差し入れのおにぎりでございます。我が主からです。鮭、おかかときましたら梅、との事で』

 ありがてえ。


 こりゃ、品質保持魔法付与済みだな。

 だが、多分あっという間に平らげるぞ、俺が。


 カバンシの表情が緩む。

 こいつ、第三王子殿下の梅おにぎりめちゃくちゃ気に入ってたくせに、殿下に直接言わねえんだもんな。


「良かったなあカバンシ。仲間なんだから、次からはちゃんと第三王子殿下にリクエストしろよ」


「そうだね、その通りだ。できたら僕もその中に入れてもらいたいね。……さあ、頂こうか。茶色殿、お茶ならお時間よろしいでしょうか。僕がいれますよ」


 『辺境区域への雀便がございますが、第二王子殿下御自らとあらば、頂戴しない訳には参りませんな。……微力ながらお手伝いを』


 第二王子殿下の私室に備え付けの給湯魔道具とか調理可能な設備って、いいのか?

 

 まあ、いいのか。いいんだよな、うん。


『人見知りが解消して良かったな』


『まあな』

 念話もどきを使ってみたら、珍しい、カバンシの奴が照れやがった。


 これからも色々な事はあるだろうが、こいつらと他の連中とだったら何とかならなくても何とかなるんじゃねえかなあ、と思いながら俺は行儀悪くおにぎりを先に一つもらい、カバンシに叱られるのだった。


 まあ、これは想定内って事で。

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