幕間-27 白絹糸の君な俺の話(3)

 王立学院高等部。貴族でも留学は普通だが編入となると多くはない。平民としては恐らく初の試み。

 まあ、設立当初からの記録をひっくり返せば類似例は見付かるのかも知れないが、それほどに珍しい事だ。


 聖女候補セレン-コバルトは、紫色の髪と目の愛らしい外見をしていた。


 八の街は二の都市からはかなりの遠方。そこから家族と引き離されての聖教会本部と王立学院での学習。


 何かあるな、と思わずにはいられなかった。


 俺の推測だが、貴族連中に目をつけられませんように、と思って彼女が小さくなって過ごしている感じが何とも言えなかった。

 可愛らしい外見同士、カルサイトになら話をしても答えてもらえるかも、彼に頼んでみようかと考えていたら。


「君が聖女候補か。慣れない学院に戸惑う事もあるだろうが遠慮なく何でも聞くといい」

 第三王子殿下、ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミが突破口を開いてくれた。


 俺は自分の見る目に狂いはなかった、と確信した。彼はやるときはやる王子殿下だ。


 ありがとうございます。


 聖女候補からにこりとされた時、俺だけが後から頬を染めた事はバレなかった。


 白皙の肌(笑)が朱に染まると下心のある男女からは恥じらいと捉えてもらえて逃げやすかったのだ。

 下らない、小ざかしい児戯だと思っていたが役に立った。魔力ではなく演技だから逆に気付かれにくい。


 殿下達は本当に、他意のないその笑顔にやられたらしい。

 とは言え、聖女候補の笑顔は他の者達から頻繁に俺へと向けられるそれとは異なり、打算のない表情で。


 多分あれは、立派過ぎる婚約者を持つ者達への応援の感情だ。

 そもそも、この聖女候補殿は俺達の婚約者殿達への憧れがたいへんに、強い。

 この人達にはあの方達は勿体ないから代わりに自分がこの人達を応援してあげよう、といった所だろうな。


 本来、俺達は彼女に女子学院生の友人または婚約者のいない男子学院生を後ろ盾として紹介してやるべきなのだが。

 まあいい。

 殿下も皆も嬉しそうだ。それなら、とことんまぬけ王子と仲間達、聖女候補殿を囲んで……といこうじゃないか。


 まぬけには周囲の雑音なんて、耳には入らないのだから。


 それから、召喚大会で第三王子殿下が前年度優勝者の筆頭公爵令嬢ナーハルテ様と共に健闘をするべく普通クラスの唯一の出場枠を得た。


 その真剣さと言ったら学業には真面目な聖女候補に影響されて、まぬけ王子が努力を重ねて真面目に? と囁かれた程。

 珍しくも、良い噂だ。


 俺達も手伝える事は手伝った。

 魔力は俺と良い勝負、恐らく上クラス級、如何せん召喚魔法にだけは弱いスズオミでさえたどたどしくも練習の補助をしていた。


 その甲斐あって、本番でも殿下は見事に鬼属性の召喚獣殿を呼ばれていた。

 さすがの連続優勝者、ナーハルテ様が呼ばれた白い美しい猫属性の召喚獣は本当に比べものにならない程に凛々しかったが、それでも健闘したと言える成果。


 ただ、映像水晶の映像に違和感を感じる箇所があった事は俺の胸だけに秘めておいた。


 その後、第三王子殿下とナーハルテ様が召喚大会の過労で暫く休養されていたが、俺達の婚約者殿達はナーハルテ様の不在を心配する学院生達を勇気づける為に普通クラスの学院生達にまで声掛けをしていて素晴らしいなと心底感心したものだ。


 その後、復学をされた殿下は元々優秀だった座学に益々集中され、更には親友スズオミの剣術大会の練習にも付き合われる様になっていった。


 王家にはあるまじき、魔力の少なさ。

 それが殿下を普通クラスに入学させた。それなのに、自らのできる限りの、またはそれ以上の努力をされる。


 生来の実力を伏せて上クラスを蹴った俺からしたら、第三王子殿下は眩しい存在だった。努力を重ねられる事もまた才能なのだから。


 剣術大会はライオネア様が二年連続優勝。スズオミはかなりの健闘ぶりで準優勝。

 冷徹筋肉の渾名は敬称へと昇華した様だ。


 ただ、本気で聖女候補を好いてしまったらしいスズオミは彼女の人気には気が気でない様だ。


 まあ、それも一興という事で。



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