178-カントリス君とカルサイト君とナイカさんと私
「へえ、婚約者のいない女子学院生との買い物に、寡婦の方のお供に、やっぱり婚約者がいない方とのお出掛け……」
カントリス君とリチウムさんの関係についてご相談を、とカルサイト君とナイカさんから頼まれたのが数日前。
それなら、と活動がない日に私の今の宿舎、聖教会本部準々貴賓室に来てもらった。三人全員で。
寿右衛門さんにお願いして、ギベオンさん経由で魔道具開発局局長ジンクさんにも許可を頂いている。
むしろ、ジンクさんからもお願いをされた。財務副大臣のご夫婦とは昔馴染みなんだって。
そう言えば、
だけど。
「……正直、想像していたよりひどいのだけれど。セレンさんのせいじゃなくて、カントリス君の自業自得で普通に婚約破棄まっしぐらじゃないの?」
第三王子殿下らしさがなくても大丈夫(ニッケル君の記憶で確認済)な面々なので素で話したら、ナイカさんとカルサイト君は深く肯き、カントリス君は青くなった。
え、何で? 自覚ないの?
君、学院生相手だけだった『キミミチ』よりひどいからね?『キミミチ』よりは好青年かと思ってたのに!
既に私からの評価はただ下がりだから!
「……女性には優しくね、と昔、まだ家同士の付き合いだけだった頃にリチウムが言っていたのです。だから、努力をしました。彼女が小さい頃に教えてくれた、彼女が初めて学会に提出した数式の美しさ……。あの時はまだ原型でしたが、あの瞬間から、僕は彼女を第一の人としていたのです。勿論侯爵令嬢と伯爵令息ですから、心に思うだけでした。それが、一応とは言え婚約者になれて、とても感激していたのに!」
「「「……え?」」」
三人全員で愕然とする。そうなの?
『失礼ながら、カルサイト様との違いが現状かと存じますが』
ナイス、寿右衛門さん。その通り。
「本当にねえ。カルサイト君はナイカさんの魔道具を美しい、素晴らしいと感動して、内面は勿論、魔道具に隠されたナイカさんの外面の美しさまで自力で知って、自分自身を認めてもらう為に魔道具開発中にも集中していた。……結果、今はこの通り相思相愛。まあ、そういう事だよね。カルサイト君を見習って、努力を重ねるしかないんじゃないかなあ。マイナスから出発なのだから、プラスにしかならないよ、多分?」
まあ、リチウム様が作り出した数式の美しさから好きになった、というのは分からなくもない。
あちらでは私、理系でしたから。
まあ、それならちょっとだけ、本当にちょっとだけなら評価を戻してあげてもいいかな。
あちらの私の雇い主、一輪先生の恩師の大学学部長先生の奥様は数学の研究者なんだけど、新年のご挨拶に一輪先生と一緒に伺ったら、
「偏屈で古い機械好きな人だけど、お互い、好きな素数が一緒だったのが決めてなの」
って奥様が言われていたから。
懐かしい。
因みにこちらにも素数の概念はあります。数式もけっこう似てます。
専門書、読むのが楽しいです。ああ、大書店行きたい。できたらナーハルテ様と。
こちらの文字はアルファベット26文字(にかなり似ている)が主流で平仮名漢字カタカナ(に類似)も古語(の様なもの。まだ通用する。あちらなら歴史的仮名遣いみたいな感じかな)として存在しています。
だから実はナイカさんの開発したタイプライターの進化型(仮称)魔道具の文字もかなり理解できました。
あ、私のアドバイスはしっかり受け入れてもらえて、更に使いやすく改良されてます。さすがはイケメン令嬢様。
「いや、そんなにリチウム様の事を思っているなら、もう少しやり方があったろう? 僕だって、ナイカは僕が意識している程には僕を見てくれてはいないかも、とは思っていたけれど、僕に声を掛けてくる女子学院生とは距離を取っていたよ? まあ、君やスズオミと違って僕に寄ってくる女性は下心があったかどうかは微妙だけれども。もしかしたらお友達扱いだったかも知れないしね」
カルサイト君、そんなに色々気を付けていたんだ。偉いなあ。
でも、お友達かあ。うーん、どうだろう。
愛らしいカルサイト君に本気な女子学院生、いたかもよ?
「それは違うぞ、カルサイトは外見が花の様にかわいらしいだけでなく、内面は芯があって魔道具開発に対して真面目で、素晴らしい人だ。私は君に負けない様に自己研鑽をしている! 今だから言えるが、私は女子学院生だけではなく男子学院生にもハラハラしていたのだぞ? いや、セレンの事は当時そこまで悩んでいなかったけれども。むしろ、彼女は学業には真面目だったし、快活でかわいらしかったから、カルサイトとお似合いかなあ、と思っていたから」
ああ、ナイカさん的にはそんな感じだったんだ。
「いや、ナイカ、それはもう言わないでよ!僕は君が姉的目線で
「……そうか、すまない。そうだ、あ、ありがとう」
ナイカさんとカルサイト君、方向性は異なるものの、『キミミチ』よりは最初からお互いをきちんと意識をしていたんだね。
うんうん、良いねえ。
「この集まりは、僕とリチウムの……仲について、だったのでは……?」
何を見せられているんだ、って顔をしないの、カントリス君。
ああ、私もナーハルテ様に会いたい。
今日の朝刊早刷りによると、早速現地で医療活動、治療対応等を始められたとか。婚約者として誇らしいです。
あと何故かハンダさんとカバンシさんが他国の獣人売買組織を壊滅させつつある、とかもあったなあ。
辺境伯閣下と第二王子殿下の賛意から出入国の手続きもスムーズ、って。
これは何故? どうして?
いや、いいぞもっとやれ、現地にいたら私も連れてって、な案件なんだけど、まあ報告を待ちましょう。
怪我等は有り得ない方達だし。
「あの、殿下、いや、ニッケル様? 僕の話は」
あ、そう言えばそうだった。
「あのね、カントリス君」
「カントリス、と呼んで下さい」
「はい、じゃあカントリス。やっぱり君の態度、これに尽きる。私も辺境区域から皆さんが戻るまでの間は付き合うから、しばらくは資料整理を真面目に。計算や数学や経済に目移りしない事! ナイカさんには申し訳ないけど、貴女にもたまに顔を出してもらって良いかなあ」
「元々、殿下にはご多忙の御身にこちらからお願いをしておりますので、勿論ご意志に従います。ご静養、またはご研鑽に使われるべき貴重なお時間を頂戴いたしまして……。カントリス、とにかく誠意だ! 恐れ多いが第三王子殿下と、そしてカルサイトを見習えば良い! 君の女性に対する敬意は婚約者に対してのみ、発揮しろ!ああ、ただ相手がリチウムだから、カリウムと大臣ご婦々に対しても同様に、だね」
ナイカさん、かっこいい。
やっぱり一輪先生に似ている。眼鏡がないけれども。
カルサイト君はそんなナイカさんにうっとりとする顔もかわいらしい。
「わ、分かっ、分かりました。第三王子殿下ニッケル様、ナイカ嬢、カルサイト、至らない僕に指導をお願いします」
「とにかく誠意!」
「僕はナイカの魔道具の試運転が一番だけれど、それでもよければ。あ、第三王子殿下のお考えがあれば、また別ですよ」
「……ナイカさん、凛々しいねえ。カルサイト君、ありがとう。カントリスく、カントリスは、まあ……頑張れ」
ナーハルテ様、皆様、辺境区で励まれている事と存じます。
こちらは魔道具開発局局長令嬢様と魔道具開発局副局長令息と共に、ボランティア活動に邁進する所存です。
業務の他に、財務大臣令嬢様との財務副大臣令息の婚約関係の向上が入りそうですが、まあ、こちらはぼちぼちとやりたいと思います。
ナイカさんとカントリス君はラブラブです。
私も、貴女が大好きですよ。
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