175-医療活動とあたし
「さあて、あと一人だね。……それにしてもセレン-コバルトさん! 君と一緒に活動ができるなんて嬉しいよ! あと選抜クラス合格おめでとう! それに、お母上があの高名なネオジム-コバルト博士だなんて! しかも、博士がエルフ族の方だったとは!紹介してほしい、いや、下さい!」
うーん、軽い。
彼はこんな人だったのか。
この人はイットリウム・フォン・サルメントーサ。医療副大臣閣下のご令息。伯爵令息でもある。
普通クラス一組のクラスメート。
今となっては懐かしい表現、まぬけ王子と仲間達のお一人。
多分第三王子殿下はこの表現、怒らずにお笑いになるのだろうけれど、現在の殿下に使う人、本当に無知なのか命知らずなのか、って感じだよね、と実は別人(の魂)だと知っているあたしは思う。
実はまだ少しはそういうお馬鹿さん(をもっと激しい言い方で言ってた)がいるって、お父さんが言ってたなあ。
もれなくお父さんかカバンシ兄ちゃんに制裁されてるらしいけど。
もちろんあとは殿下の召喚獣緑さんと、あたしも耳にしたら加わるな、制裁行為。
そんな懐かしい元お仲間のサルメントーサ伯爵令息、見た目は細やかな感じの儚げなイケメン。
絹糸みたいに白い光彩の髪と白い肌が綺麗で、フィンチ型の眼鏡も似合う。
でも中身はきっと、その綺麗さとは真逆だ。多分腹黒? 戦略家? みたいな感じ。
それにしても、お母さんの魔力狙い? お父さんとカバンシ兄ちゃんと緑さんに聞かれたら半殺しですむかなあ、と不安になる言動だ。
緑さんも何だか最近家族枠だし。
お父さんと兄ちゃんとも仲良いもんね。あたしも何だか妹枠(嬉しい!)だし。
「聖女候補様、この白い妖精さん、どうしたの? なにか、へん」
あ、令息が空気読まないから猫族のちびっ子ちゃんがおどおどしてる。
もう、せっかく気になる事とかちびっ子ちゃんと色々お話していたのに!
あと一人なんだから、あたしへの話なんか、後にしたら良かったのに!
あ、聖女候補に様を付けているのは気にしないでね。
聖魔法が珍しい国の出自の獣人ちゃんで、あたしとこの白い妖精さん? (まあ、見た目は、ね)を怖がらずにむしろ進んでお話をしてくれているみたいなの。
辺境区域の医療ボランティア活動って、結局の所、コヨミ王国の国民じゃない人達相手がほとんどだった。
王国民なら聖教会で治してもらうか、我が家みたいな診療所とかが他国より多いし、医療機関への補助金もたくさんなのでとんでもない高額医療費にはならない国、コヨミ王国なので。素適。大好き。
それでも八の街、コバルト診療所はなるべく患者さんの負担にならない診療代を心掛けております! 今は医療大臣閣下のご推薦の医師さんがお母さんの代わりに勤務してくれていますよ! 若い腕の良い方達もいます! ってつい宣伝しちゃった。
話を戻して。
このちびっ子ちゃんは、話したくない内容なんだけど、猫耳がかわいいからって首輪(!)を付けて売ろう(!)とした周辺国の密猟野郎共から逃げて、コヨミ王国の辺境区域に流れ着いたんだって。
多分この辺、っていうのを地図を見ながら聞いた兄ちゃんが竜化(一応人サイズだったよ!)して、お父さんを乗せて飛ぼうとするから皆で止めたんだけど、通信可能だった辺境伯閣下と第二王子殿下が出国並びに入国の許可を取って下さったから、今、全力で他国の獣人売買組織を潰しまくってる筈。
あたしは正直頑張れー! って応援してる。
緑さんは物資搬入とか新しい病院なんかの建設予定地の開墾とか、そっちでバリバリ働いている。こちらも偉い。
勿論、第二王子殿下を初めとする方達も、お母さんやナーハルテ様、カリウム様達を中心に、皆が大活躍。
近衛隊の皆さんと魔馬ちゃん達もね!
それに引き換え伯爵令息!
治療も手際良いし、顔も良いから女の子受けが良いからと、元々子供好きなあたしと組んで二人で主に女の子担当、だったのに、最後の一人になったら本性出してきた?
「……そうだよ、君が痛い所や辛い事を教えてくれたら、妖精さんは聖女候補様をちゃんと敬えるの。だから、教えてくれるかな」
……え? ちょっと待って?
「……分かった。あのね」
首輪を付けられていた所の皮膚のただれ跡。生えなくなってしまった爪。
ちびっ子ちゃんが、妖精さんには教えてくれた。
あたしには、首輪の所しか分からなかった。
爪は出さないでくれているのかと思ったら、出せなかったんだ。……気付けなかった。
「ほら、聖女候補様。もうお一方のお力を」
悔しい、けど令息の言うとおりだ。
あの方に『いらして頂けますか?』と念話を送る。
『分かりました、今転移いたします』
良かった。あの方にいらして頂ける。
「今からすっごく素敵な人が見えるからね!」
あたしが念話を送ったら、いらしたのはプラチナ色のお姫様。
転移、早!
「おひめ、さま……?」
ちびっ子ちゃんはもう、びっくり。
そう、初めてこの方のお姿を拝見した時のあたしもそう思った。
美しくて、賢くて優しいプラチナ色のお姫様。
「イットリウム様に良くお話をしてくれました。そのお手は、聖女候補様にお任せ下さいね」
そう言われるナーハルテ様に補助をして頂いたら、あたしの聖魔力は急上昇。
これならいける。
「……美しい魔力循環。素晴らしい」
そう、令息の言う通り。自分でもびっくりな魔力循環。
首輪の所のただれ跡を治し、爪の機能を再生。
聖魔力の機能回復魔法。毛根の機能回復は、また後でさせてもらおう。
ナーハルテ様、やっぱりすごい。
「あたしの、爪……!」
爪を出したちびっ子ちゃんが驚いている。まだ全快じゃないけど、回復の兆しがはっきり見えている。ちっちゃいけど、確かに、爪。
聖魔法の治癒行為は、できる限り本人の回復力に委ねるべきというのが聖女様の教え。素晴らしいと思う。
うんうん、良かった。
「ありがとう、聖女候補様、お姫様、……妖精さん」
はにかみながらお礼を言ってもらえた。嬉しい!
その後は孤児院の先生に来てもらい、感動で泣いてしまった先生にナーハルテ様が付き添って下さった。
これからのことなんかも先生に伝えて頂けるはずだ。
だから、ここには今、あたしと令息だけ。
「ね。俺、けっこうやる男でしょう? 俺の婚約者殿に俺の事、褒めてくれていいよ?あと、ネオジム様に色々お話を聞きたいなあ。セレンさんとナーハルテ様の魔力も、あとあの竜殿と……」
際限なく続く、令息の語り。
長い。
でもまあ、確かにやる時はやるのは分かったから、カリウム様にこの人意外にやりますね、くらいはお伝えしてあげてもいいかな、とは思ったりもしたけど。
それは、まだまだ内緒にしておこう。
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