173-久しぶりのスズオミ君と私
「第三王子殿下、お久し振りにございます。そうですか、セレンは皆様と先程出発……」
「行って来まーす! たくさんの方を癒しますよ! 殿下、ナーハルテ様からの連絡、楽しみにしてて下さいね!」
『セレン様の御身はお任せ下さい。行って参ります』
弾ける様な笑顔のセレンさん(そう言えば、何故ナーハルテ様からの連絡だったのかな? 勿論頂けたら嬉しいけど)と、冷静かわいい聖教会本部魔馬月白と皆様に差し入れを預け、それからカクレイさんと一緒にお見送りをしたら、
「旧まぬけ王子とその仲間(一部除く)についての通信をして参ります。またいつでもご自由に我々の所にお越しになって下さいね。それでは第三王子殿下、皆様方、失礼申し上げます」
と、和やかな笑顔(なのが逆に怖い)の医療大臣カクレイさんにお手柔らかに、と伝えてまたねとご挨拶して、さあ戻ろうか、と寿右衛門さんと魔法解除をしていたら。
転移の好青年がやって来た。
間に合ったかな? ダメだった。の落差のあとに続いたのが冒頭の言葉。
ニッケル君の親友で私の大事な友人、将来の側近候補筆頭(多分)、侯爵令息にして騎士団副団長令息のスズオミ・フォン・コッパー君だ。
年度末の聖魔法大武道場での婚約者ライオネア様との試合の為の鍛錬と選抜クラス編入試験対策の為に日々研鑽を積む彼は、明らかに意気消沈していた。
「セレンさんに会いたかったんだね。でも、良くここの転移陣、知ってたねえ」
私は普通に寿右衛門さんに飛ばされた(のは医療大臣閣下用控え室。控え室だけど広々)のだけれど、ここは大臣閣下達の会議用官舎の広ーい馬車用停車場。
極々稀に魔動車(寿右衛門さん曰く、博物館クラスの昔の自動車みたいな感じ)で乗り付ける他国の方もいるらしいけれど、ほとんどの方の移動手段である馬さん、魔馬さん、獣さんと魔獣さん(の場合は獣車だね)達の耳を刺激しない様にめちゃくちゃ広くて、魔法付与済。
要するに、転移陣もかなり制限されている訳で。
「父の、騎士団副団長用の転移陣の座標使用許可を頂きました。勿論回数制限付で、帰りは走って帰れと言われております」
ああ。鍛錬込なんだね。
取り敢えず、久しぶりにシマエナガ似マーク付基本形態の黒いリュックさんからミネラルウォーターの瓶を出してあげた。
「ありがとうございます」
あっという間に飲み干したので、後でまた出してあげよう。
お代わりは無限なリュックさんが頼もしい。
「セレンを見送れなかったのは残念ですが、実は殿下にカントリスとカルサイトからの伝言がございまして。それ故に父も転移陣の貸与を認めてくれたのです」
ニッケル君の話はこうだ。
財務大臣リラシナさんから財務副大臣令息カントリス君に、ある団体の財務処理のボランティアへの参加が求められたと。
「多分強制参加だな」とは騎士団副団長アタカマさんの弁だ。
計算大好きカントリス君的にはご褒美なのでは? という気がしたから訊いてみたら、なんと、計算ではなく資料整理。
勿論、それも大切な仕事だけれど。
カルサイト君にはナイカさんの例のワープロに似た魔道具の試作器によるデータ入力の依頼があったらしい。
こちらはナイカさんの魔道具の試運転にもなるので、カルサイト君はかなりやる気だとの事。
「それで、僕が言うのも何なのですが、その件を僕に伝令鳥で伝えてきたカントリスとカルサイトの雰囲気が真逆で。依頼者が財務大臣閣下であるならば、と父が第三王子殿下にご相談をと申しまして」
うーん。
アタカマさん、奥様だけではなくて女性全般に弱いのかな。
多分、今のネオジムさんならアタカマさんにも勝てそうだ。
「第三王子殿下、誠に恐縮なのですが、皆様がお帰りになるまでの間にお手空きの日がございましたら、ご足労願えませんか?作業は魔法局で行います」
お帰りに、かあ。
確かに皆さんの予定は数週間。
しかも移動は別だから、戻ったら間を置かずにセレンさんがさっき話していた聖魔法大武道場での試合になる感じなんだよね。
うーん。
お見送りが出来なかったスズオミ君には言えないけど、やっぱり長いなあ、赴任期間。
寂しい。
会いたかったなあ、ナーハルテ様。
『ですが、大切なお役目ですから』
黒白のご尤もなご意見。
その通りです。
私も財務局のボランティアと聖教会本部での聖魔法講義、頑張りますよ。
あ、スズオミ君の召喚魔法の勉強のお手伝いもできたら良いな。
あれ、でも財務局の依頼なのに魔法局? え?
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