172-聖教会本部の魔馬さんと私(2)

「うわ、綺麗……」


 いや、もう少し何かあるだろう自分、とは思ったんだけどね。


 月白の綺麗なこと!


 辺境区域での医療行為という聖教会の教義にも相応しい活動の為、大司教様も大導師様も諸手を挙げられたという事から聖教会本部の上級魔馬車(以前白様が引いて下さった高級魔馬車の次のランク。高級は博物館クラスなので医療行為に赴くには大仰過ぎらしい。納得)の使用許可が下りたその結果、美しい白い馬さんに絹で織られた聖教会の紋章入りの幌がまあ、似合うの!

 勿論かなりの聖魔法付与済。


『主殿、手に魔力を込めて、撫でて差し上げて下さい』

 あ、はい。

 セレンさんをお迎えに行ったあの時みたいな魔力ボン! はもうないよね? ね、寿右衛門さん?


『大丈夫です。調整がご不安ならば、黒白殿もおられましょう?』

 あ、そうだった。


 白い毛並みの間を縫って、薄い青が少しだけ混じる。

 何だろう、雪の降る中に細く青空が見える、みたいな?

 艶やかで、さらさら。引き締まった筋肉も良い。


『ありがとうございます、コヨミ様の末裔様。初代から数えまして三代目、月白と申します。この名はコヨミ様に頂きました我が一族の誇りに存じます。ぜひ、月白とそのままにお呼び下さいませ』

 え、そうなの? 分かるの? うわ、大物の血族の魔馬さんだ。


『初めまして、月白。コヨミさんの遠い遠い、だけどちゃんと繋がっている血縁です。よろしくね』


『お会いしたく存じてございました。お目に掛かれました事を聖霊王様、精霊王様、幻獣王様、コヨミ王国初代国王陛下、一族に感謝申し上げます』

 幻獣王様にも、って。すごく律儀で賢いんだね、月日。


「私も感謝します。本当に会えて嬉しい」

 月白と和んでいたら、


「あ、やっぱり、第三王子殿下、月白ちゃんと話せました?」

 セレンさん、にこにこしている。

 え、さっきから私、え、連発?


 あと、今更だけどこの周辺、音声遮断とか色々な魔法付与済です。


「ああ、あたし、学院に編入したての頃、殿下達しかお友達いなかったじゃないですか?あの、ほら、今だと余計に言いづらいけど、まぬけ王子と仲間達のあの頃です! 当時は凛々しくてお美しくて素敵で格好いい婚約者の皆様よりあたしの方が仲間達には似合ってるよね? とか思ってた頃だから当然女の子の友達なんて出来なくて。自分のせいなんですけどね? 聖教会本部の聖女候補の皆は真面目ないい子ばっかりだから何だかそういう本音は言えなくて、月白ちゃんしかそんな感じの女の子の友達いなかったんです。八の街に戻りたいなあ、とかお話してたら優しくすりすりしてくれたり。念話の練習も付き合ってくれたり……あれ、この話ダメでしたか?」


「は? セレンお前、寂しい思いをしてたのか?」

 ええと、ハンダさん? 青筋立ってませんか?


 マズい! と思ったのか、セレンさんが続ける。

「お父さん違う、違わないけど違うの!色々あったお陰で今は厄介だった聖女候補の男子のもう一人、タンタル君も友達だし、聖女候補の女の子達とも仲良しだし、……あ、待って下さい殿下、ああ、って顔なさらないで!応援会のサマリちゃ、さん以外にも学院にお友達いますよ? ナーハルテ様にナイカ様も! ライオネア様にも、恐れ多いけど、仲は良いよって言って頂いてますから! あ、スズオミ様、コッパー侯爵令息とカルサイト君、ウレックス侯爵令息も! あとあと、殿下! 第三王子殿下! やっぱり、この話しんみりさせちゃいましたか?」


 やっちゃったあ、という表情のセレンさん。


 すると、

「「そんな事無い!」」

 エルフ族に連なる方とエルフ族の方、お母様方がセレンさんを左右から抱きしめた。え、母パワー?


「ごめんなさいセレン! 聖魔法発動はエルフ族の力の可能性があるから、って早くに正体を明かして一緒に付いてきたら良かった!」


「いえ、愛するご家族と故郷から離すなら、聖女候補ちゃんが学院を楽しめる様にもっとフォローすべきだったのよ! 家の娘達や筆頭公爵令嬢ちゃん達も貴女の事を悪く言っている子はいなかったもの! あのまぬけ連中が悪いの! これから誠心誠意お詫びをさせるわ! 勿論、殿下は除きますわよ?」


「……カバンシ、お前は知ってたな? 取り敢えず、今回医療副大臣閣下のガ……ご令息がいたな。よーく目を光らせておかなきゃな! 勿論、殿下は別ですよ? そうか、理屈が分かれば異世界に向かわれたあっちの殿下も良く頑張ってるから咎めは無しだな。緑ちゃんも褒めてたし。……医療副大臣閣下のご令息についてはもしもの時は止めるなよカバンシ?」


「ああ。騎士団副団長閣下のご令息については、私が良く見ておこう。だから、年度末の騎士団団長のご令嬢との試合までは何かするのは勘弁してやってほしい」


「その話は少しお前から聞いてたな。……分かった。ギベオン殿が言っていたが、さっきセレンがお友達って言ってた魔道具開発局副局長のご令息は元々婚約者命! だったみたいだから除外だな。あとは財務副大臣令息か」


「それは我が妻と娘にお任せ下さいな。丁度、財務関連で一緒になる事が多いですから」


「よっしゃ、決まりだな。お願いします、医療大臣閣下。奥方様とご令嬢に宜しくお伝え下さい。……ネオジム、俺と一緒に医療副大臣令息によーくお話するぞ!」

「ええ、でもハンダ、カクレイさんのご令嬢のご婚約者なのを忘れないでね?」

「大丈夫。医療大臣令嬢にもよーく伝えるから、ネオジムもあちらで思う存分会話をして頂戴ね」


 えーと。

 ネオジムさん、カクレイさん、ハンダさん、カバンシさん? おーい。


『皆様方、使命をお忘れなき様に。私からはそれだけでございます』

「「「「勿論です」」」」

 寿右衛門さんが締めてくれたから、良いのかな。

 皆さん、息ぴったりだし。


『あの、殿下? あたし、カルサイト君以外にすっごい難問? を投下しちゃいました?』


 皆さんはそのまま現地での行動確認を始めてしまったから、セレンさんと念話をする事にした。

『……まあ、いいんじゃない? 実際私も昔のまぬけ王子達、カルサイト君以外は大丈夫? って感じだったから。』


『キミミチ』のあの自滅系聖女候補ならともかく、セレンさんにあれは無いんじゃ? っていう行いは多少はあったみたいだから、ハンダさんネオジムさんカバンシさん、コバルト家の皆さんからの鉄槌、多少ならいいんじゃないかな。


 医療大臣令嬢イケメン令嬢様のお一人カリウムさんから医療副大臣令息イットリウム君に何かがあったりするのは、知りません。もうお一方、財務大臣令嬢にしてイケメン令嬢様のリチウムさんとお母様の財務大臣リラシナさんから財務副大臣令息カントリス君にも、同様です。


 あ、私は別に、セレンさんの編入後、ナーハルテ様がまぬけ王子の聖女候補への親しさ? を悩んでおられた事を根に持っている訳じゃないよ?

 ……多分。


『私も、セレン様が寂しい思いをされているのを見るのは辛かったので、少し位は良いかと存じます』


 あ、月白、やっぱり賢いね。

 そして毛並みが美しい。


 インディゴとお似合いかも。寿右衛門さんに後で訊いてみよう。


 それはさて置き、月白がこう言ってるよ、と伝えてあげたら、セレンさんもそっかあ、月白ちゃんが言うなら大丈夫かな? と安心したのでまあ良いか、ということになった。


 ただ、

『良い、と言えば、年度末のライオネア様とスズオミ様の試合、楽しみですよね! 勿論第三王子殿下とナーハルテ様は行かれますよね? スズオミ様が招待券用意して下さったんですよ』

 ……え。

 まさか、スズオミ君? 頑張った?


『ライオネア様の試合を見られるのかはもっのすごく嬉しいから、スズオミ様にはありがとうございます、でも、聖魔法大導師様が最前列? 貴賓席? かな、とにかく最高の席を家族全員余裕な分予約可能と約束して頂いてるし、ライオネア様に応援してくれ給え、って仰って頂いてますから必ず行きます! って言ったんですよ。招待券大人気だから、のあたしの分を用意するのたいへんだったんですよねきっと。進み様、何だか疲れてて。だから、騎士団関係者の方達とか、カルサイト君とかが喜びますよ絶対! ってお伝えしたら、そうか……。って遠い目をされてました。やっぱり選抜クラスへの編入試験の準備と試合対策、厳しいんですね』


 ……そうですか。


 うーん、友達。


 頑張れ、スズオミ君。最近会えていないけれども。


 ちょっと連絡取りたいな。

 カバンシさんは割と事情をご存知っぽいから鉄槌には手心を、ってお話しておこうかな。

 まあ、下されるとしたら試合後みたいだからまだ良いかな。

 実は今、私がお借りしていた騎士団の特級騎士舎、緑簾さんのお部屋にしてもらう為に準備中なんだよね。


 あ、私とナーハルテ様には勿論最高の席を聖魔法大導師様と大司教様が用意して下さるそうです。


 召喚獣、魔道具の皆も大丈夫な席なんだって!

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