170-ハンダさんとおにぎりと私

「理解はしたが、納得はしてねえ。あれだろ、ジジイとカバンシとセレンはとっくに事情を知ってたっつー事だろう? あ、緑ちゃんもか!」


 カクレイさんと寿右衛門さんと、たまにカバンシさんとセレンさんから私の魂の転生とかコヨミさんの末裔だという事とか、あとは求者の事も説明されたハンダさん。


 今は、こんな感じです。


 あ、私も訊かれた事には答えたよ。

 誓約魔法で縛られる内容はもう存在しないみたいだからね。

 少なくともこの部屋の方達にはこの件に誓約は必要ないみたい。


 自分とネオジムさん以外の皆さんから秘匿事項を知らされたハンダさんは、簡単に言うとめちゃくちゃ拗ねている。


 要するに、怒りとかよりは水くさい、みたいな感じなんだろうな。


 いつの間にか進化しまくっていた黒白とリュックさん、あとハイパーには

「良かったな、一緒に頑張ろうな!」と白い歯を見せていたから、取り敢えず怒り心頭に発す、とかではないのは間違いない。


 ネオジムさんは「今までの夫の失礼な態度をお詫び申しあげる言葉がございません」と恐縮しきりだった。

 とにかく腕を捧げて頂けて嬉しかった事、他にもハンダさんにはこれからも色々助けてもらいたいからと伝えて、何とか土下座は控えてもらえた。


 そして、さっきからずっと、セレンさんと一緒に拗ねたハンダさんを説得してくれている。


 辺境区に行かれる他の皆様、ナーハルテ様達は寿右衛門さんと夜の遠乗りをするくらいに仲良しな騎士団魔法隊の逞しい魔馬インディゴで少し前に任務の為に辺境区へと出発されました。


 寿右衛門さんが差し入れを渡してくれて、更に先発の第二王子殿下達にネオジムさんの件も伝えてくれた(快諾頂きました!)から、後はこちらの皆さんが出発するだけなのです。


 差し入れを直接ナーハルテ様にお渡しできなかったのは残念だけど、この状況だから仕方ない。


 いや、本心はすっごくお会いしたかったけどね! インディゴも撫で撫でしたかった!

 でも仕方ない!


「ほら、お父さん、仕方ないでしょう? ギルドマスターのスコレスお爺ちゃんも、カバンシさんも、各々の属する種族の力でご存知だったんだから。あたしはほら、第三王子殿下の転生の現場で関係者として関わってたから。それに、この事を知ってたら多分、こんなに殿下と仲良しになれてなかったよ?さすがにお父さんだって、初代国王陛下の末裔様にあんなに馴れ馴れしくは出来なかったでしょう?」


「……う。ま、まあ。俺、ケンカ売りかけてたからなあ」

 あ、少し反応あり。

 それは狩り、つまりゲームの事ですね。


 あれはでもまあ、愛娘セレンさんへの溢れる思い故にだから。


「あ、ハンダさん、態度は今までと変えないで下さいね。必要な時と場所で対第三王子殿下への対応だけしてくれたら、いつものハンダさんでいてほしいです」 

 そう、これ重要。

 仲間だからね、私達。


 多分、コヨミさんと偲ぶ会の皆さんも、こんな感じだったんじゃないかな。

 勿論色々な部分でコヨミさんの方が私の遥か上にいらしただろうけど。雰囲気って事で。


 でも、少しハンダさん、納得し始めたかな?

 セレンさん、上手いよね言い回し。

 さすがは聖女候補中最高の聖魔力保持者。


 そう言えばセレンさん、スコレスさんの事お爺ちゃん呼びなんだね。

 ネオジムさんの事を知ると、エルフ族繋がりと言うのか、そんな感じがする。

 まあ、見た目は美形のエルフお兄さんとかわいい妹さんの聖女候補さんなんだけど。

 ハーフエルフっぽいネオジムさんを見ると尚更違和感がないな。


 という訳で、少し和んでもらえたところで、いかがですか、の差し入れ!


「そうだ、差し入れで特に多く作ったおにぎり、食べて下さい。具材は何がお好きですか? 私が勝手に居酒屋関山のおにぎりを目指してみたんですよ」


「納豆巻き、は無理か。鰹の薄いひらひらしたやつに醤油まぶしたやつ、あるか?」


 ありますとも!

 しかも、あちらの鰹節と醤油です!

 お米はコヨミ王国の高級品種。

 名前は『こめごよみ』。美味しいよ!お勧め!

 実は前世の実家は農家、の私も太鼓判です!


 あちらのお米は本当に、何かの特別な時に使いたいからまだリュックさんが保管中です。


「納豆巻きは手巻きパーティーとかできたらその時に出したいですね。はい、どうぞ。私はおかかのおにぎり、って言ってます」


「はい、茶色殿のご指示でたくさんありますよ、玉露の冷茶」

 最高のタイミングで冷えた冷茶を出して下さるカクレイさん、ありがとうございます。


 あ、美味しい! 氷も玉露を冷やした物だ。常に濃さが変わらない素敵な製法、真似させて頂こう。


「うめえ。カンザンに食わせても喜ぶぞ、こりゃ。なあ、あと何個食っていい?」


「皆さんが今は召し上がらないのなら、あと5個は大丈夫です。できれば現地か途中で皆さんと食べて頂きたいので」

「あたし達も勿論食べたいですけど、さすがに朝食をちゃんと食べてますから、今食べるのはお父さんだけですよ。……ニッケル様、時間ができたら第三王子殿下を囲んでおにぎりを握る会、企画して下さい!」


 良いねそれ。行けていないデートに続いてやりたい事がまた増えた。


 因みに天幕さんの設備の中に、あの携帯用フライパン、持ち手も揃えて置かれていました。しかも何種類も。


『調理器具や携帯用の品々は、ご自身でもご自由に増やして下さいね。勿論私から持ち出されても良いのですよ』って、天幕さん、優しかったなあ。


「俺的には第三王子殿下は生来の魂が性的自認で女性の方だったのを、無理に隠そうとなさらずにしぜんに表に出される様になったのかと思ってたんだけど、そうじゃなくて、本当に魂が入れ替わられたんだな。まあ、このめっちゃ旨いおにぎり、また食わせてくれるんなら、納得する。するけど……誓約魔法が必要な事ってまだあんのか?」


『……ございますが、皆様なら追々、お伝えできるかと。今日の所はこれでご了承下さい。また、今は辺境区域での医療行為、警護、求者の残物、冒険者ギルド所属者の後始末に邁進を』


「茶色殿の言われる通りだ。第三王子殿下の内々の事情をお話頂けた事に感謝すべき、と本心では分かっているのだろう、ハンダよ」


「まあ、このおにぎりには感謝するよ」

「他の具材も後で皆さんと食べて下さい。あと、ホットサンドイッチはあんことバター、ハムとチーズ、ベーコンと目玉焼きです!あ、目玉焼きで良いのかな。品質保持魔法が掛かっているからほかほかですよ!」


「何それ美味しそう、楽しみです! あ、卵の焼き方! 分かりますよ!こっちでは1つ目焼きとか2つ目焼きって言います! 目玉焼きも分かり易くて良い表現だと思います!」

 ああ成程。

 こちらの表現も何となく分かるし分かり易いね。


 ハンダさんはおにぎりを合計6個食べ、皆さんは涼しげな美味しい玉露の冷茶を飲み、もっと食べたいらしい様子のハンダさんに、だったら出発しようと皆がツッコんだ所で取りあえず落ち着いた。


「そうそう、第三王子殿下、聖教会本部の魔馬にお会いになりたかったのでしょう? 皆さんを連れて行くのはその子だから、見送りをなさったら?」


 そこに、カクレイさんから嬉しいお言葉が。寿右衛門さんから訊かれたのかな。


 ついに会えるの? 聖教会本部の魔馬さんに! 嬉しい!

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