168-お見送りの準備の私
「うわ、この天幕さん、すごい……」
少し遡って、数日前の事。
尊敬する兄上、第二王子殿下と心からお慕いするナーハルテ様と今では私としても大切な友人であるセレンさんとそのご家族の皆様、医療大臣カクレイさんの愛娘イケメン令嬢の内のお一人カリウム様、そしてその婚約者ニッケル君の友人イットリウム君達が辺境区域の医療支援に行かれると聞いて、何か差し入れをと
すると、人型も素敵だった(ちゃんと映像水晶に入れてくれていた。感激した!)完璧な執事雀さんにして私の伝令鳥たる精霊獣寿右衛門さんが『では、天幕殿にご協力を仰ぎましょう』と提案してくれたのだ。
寿右衛門さんがそう言うなり亜空間を作り出し、リュックさんはほいきた、とばかりに天幕さんをぽんっと外に。
すると、本当に天幕さんは自立して、亜空間の大きさに合わせて聖教会本部準々貴賓室よりは絶対大きいよね? って大きさになって膨張をやめたのだった。
中はと言うと……。
何で調理室があるの? 寝袋じゃなくてベッド! 和室に畳に押し入れ? まさか布団があるの? 広い! 綺麗!
実は全部は見させて頂いていない状態でもそんな感じで。
タウンハウスさんってやっぱりこれ以上の規模なんだよね。と、やっぱり
まあ、今は調理室! と無理矢理思考を転換したら……冷蔵魔道具と冷凍魔道具じゃなくて、冷蔵庫! 氷で冷やしてる!
私的にはレトロで素敵! 好き! あとは……これ、プロパンガス? 火力を強く出来るんだよね、嬉しい! え、圧力鍋!
なんで、どうして? と、私、大はしゃぎでした。
『冷蔵庫はコヨミ様がお使いになっていた物の進化形です。冷凍、冷蔵と段を分けてございます。ガス、圧力鍋等は白様がマトイ様、我が君と呼ばせて頂きたく存じます、の姉君に台所を拝見させて頂きましてお作りになられました。
うわ、天幕さん、念話?
あと、お姉ちゃん、白様、ありがとう! それから備え付けの食器棚、シンク下とコンロ下に引き出し式の収納!
鍋、フライパン、お玉にフライ返し等々、あとこれ、炊飯器に似てるけれどコンセントは無しだ。
『そのまま炊飯器、とお呼び下さい。仕組みはあちらと同じです。ご使用になりたい時はお声掛けを』
すごい、炊飯器さん!
意志を持つ魔道具。もしかしたら……。
『オーブンレンジ殿も白様が鋭意ご制作中です』
これ、ここでなら私が自分で料理をしても良いって事だよね? しかも、あちらとそんなに変わらない仕組みで!
『材料を揃えて参ります。しばしお待ちを』
そうですよ、とばかりに寿右衛門さんがすばやく飛んでくれて、あっという間に材料を手に入れた私は嬉々として換気扇(!)を回して、元栓を開いて、コンロに点火。
さすがにこちらの私は王子殿下なので騎士団高級騎士舎で簡単な料理を作れていた事にも感謝していたくらいだったのだけれど。
まさかの充実設備が登場。嬉しい!
それで、久しぶりの料理に浮かれて、作りまくり食べまくり、強制的な水分補給と睡眠入浴(檜のお風呂!)を経て、気付いた時には第二王子殿下が出発された後という体たらく。
反省しております。また、火元等には万全の対策がされていましたことを追記いたします。
寿右衛門さんは本当にぎりぎりまで私の好きにさせてくれて、予め黒白で緑簾さんに連絡しておいてくれたのでした。
……という経過で。
もう、色々申し訳なさ過ぎ!
笑って「ありがとう」と言って下さった兄上、第二王子殿下と「主様の手作り!」と感激してくれた緑簾さんと正に飛んで転移してたくさんの差し入れ(勿論状態保存魔法付与済。容器自体にも付与済)を運んでくれた寿右衛門さんには大感謝。
それで、きちんと休んで身綺麗にして翌日出発の皆さんに差し入れをと思い、当日となった本日。
天幕さん達にたくさんお礼をしてから時間には余裕があるけれども取り敢えず、と聖教会本部準々貴賓室の扉を開けたら。
『主殿、ただ今、急速に魔力が激増する気配を感じましてございます。危険なものではありませんが……失礼!』
寿右衛門さんによるいきなりの強制転移が。
異論はございません。
差し入れはリュックさんが預かってくれているし。
と言うよりも、本日の私には異論を申し出る資格がございませんので。
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