166-医師としての私と家族と私

「お母さんと一緒にお仕事! 嬉しい!」


 全属性魔力保持者と正式に認められた筆頭公爵令嬢様と並ぶ聖魔力保持者、聖女候補である私の愛する娘に喜色満面で言われた。

 正直、嬉しい。


「おい、セレン。俺は? お前の強くて優しいお父さんは?」

「うん。強くて優しくて頭が良くてイケメンなカバンシ兄ちゃんと一緒にお仕事なのも嬉しい!」


 ここは、医療大臣閣下の執務室。


 一緒にいるのは、がくりと肩を落とす夫、現役最強冒険者、ダイヤモンド階級保持者にして元邪竜斬りの英雄、ハンダ-コバルトと、笑う相棒の人型の竜、元邪竜のカバンシさん。


 元邪竜とは失礼ではと言われる向きもあるだろうが、カバンシさんは我が夫に斬られた(斬ってねえしカバンシは邪竜じゃねえ! と夫は否定するが)邪竜である事を誇りに思って下さっているのだ。


 実際はこう言いながら、娘セレンは夫の事も大好きで、小さい頃は「お父さんと結婚する!」と言っていたのである。


 確かに頼りがいがありきちんとすればかなりの美形で体格も素晴らしい。

 色々と厄介な事も起きそうな容姿ではあるのだが、カバンシさん曰く、


「色仕掛け、と言うのか? あいつと行動していると、男女関係なくおかしな連中も湧いて来る事があるが、全て上手く避けているから気にするな。あいつは貴女とセレンしか見ていない。……私の事も心配してくれているのか? 大丈夫だ」

 ……そうなので、安心して良いらしい。


 地方の八の街で診療所の医師として働いていた私ことネオジム-コバルトは、筆頭公爵令嬢様、聖女候補の娘、それから医療大臣のご令嬢と医療副大臣のご令息と共に辺境区域の医療支援に赴く事になった。


 診療所は頼りになる若手に任せ、念の為に監督的な立場の医師を現在医療大臣閣下に選定して頂いている。


 本件は、四大公爵家の一角であられながら誇りを持って辺境伯を掲げられている辺境伯爵家様から王家へと申請されたご依頼である。

 夫とカバンシさんは護衛だ。

 また、これは夫が嘗て示された爵位にも繋がるものだ。

 何故なら、それは準辺境伯爵位なのだから。


 その様な経緯から、王家から正式に任命された医療大臣閣下が人員を選ばれた。


 私も一応、医療大臣閣下の門下で学び、有難くも直弟子と呼んで頂いてもいる。更に王立学院専門部で医師と魔法医師の資格を得た人材なので有資格者と言えなくもないのだろう。


 現地での総責任者は恐れ多くも第二王子殿下で、既に先に辺境区に向かわれている。


 我が国には少ない(要しないという理由が素晴らしい)存在である孤児院への慰問と、病院、学校の敷地の現地調査も兼ねておられるとの事だ。頭が下がる。


 護衛は夫とカバンシさんとも気の置けない仲の緑さん。第三王子殿下の召喚獣殿だ。


 昨今の第三王子殿下の華々しいご活躍から、殿下の王位継承権の引き上げ等、外野の騒音が煩わしい事から、大役を第三王子殿下のみに負わせるおつもりではない、然しながら第三王子殿下のお立場を尊重されるという王家の強いご意志の表明なのだろう。


 娘セレンがたいへんにお世話になっている第三王子殿下、ひいては王家に家族一丸となってご恩を返したいというのも勿論だが、一も二もなく私が依頼を受けたのは

「ネオジム、貴女が責任者を引き受けてくれて良かった。筆頭公爵令嬢と貴女のご令嬢、それから私達の愛娘とその婚約者君をよろしくね」


 和やかに微笑まれる医療大臣閣下、恐れながら我が師たるカクレイ・フォン・フルリアン様からの直々のご依頼だからに他ならない。


 そして、もう一人、私にとっての大切な存在からの勧めがあった事も理由の一つだ。


「第二王子殿下は第三王子殿下の召喚獣殿と共に向かわれているし、他の面々は別室で待機しています。ああ、第三王子殿下は婚約者の見送りにいらしているわ。本当はもう何日か、家族水入らずにしてあげたかったのだけれど、ごめんなさいね」


「いえ、カ、……医療大臣閣下のタウンハウスを数日間も拝借させて頂けました事に厚く御礼申し上げます」

「本当に、医療大臣閣下にはカバンシ、じゃない邪竜の逆鱗を寄こせ、じゃなくて国庫にと召し上げようとされ……た? 魔法局ども、違う、の方々を抑えて頂いただけでなくて、今回はタウンハウスに家族を宿泊させて頂きましてありがとうございます」


 夫にしては、かなりの礼を尽くした言葉だ。

 どうやらカクレイさんは私個人のみならず彼にとっても大恩人らしい。


 王都滞在中にタウンハウスを無償貸与。しかも医療大臣閣下所有の物。

 お陰で数日間とはいえ、家族で楽しく過ごす事が出来た。


 娘はカバンシさんとの夜の王都上空散歩までさせて頂いた。以前にもこっそりとお互いに認識阻害魔法を掛け合って飛んだ事があるらしいが、今回はきちんと許可を得たものだ。

 騎士団への王都上空飛行許可申請に関してはカクレイさんの愛妻、財務大臣リラシナさんが素早く手続きをして下さったという。

 本当に、ご婦々から正に至れり尽くせりの対応をして頂いているのだ。


 全くもって、有難いの一言に尽きる。


 こうなったら私も医師として為すべき事を行う前に、家族に対して為すべき事をしないといけない。


 そうですよね、高祖母様ランさん

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