160-人型な寿右衛門さんと私
「昔むかし、初代国王陛下の転生のお手伝いをさせて頂きました際に、あちらの高位精霊殿に変化を習いましてございます。その節は黒い髪に黒い目で着物の姿に存じましたが。あちらの昔の世では、雀が話し出しましたら、怪異と思われてしまいかねませんでしたから。……この情報はお伝えしても問題ない内容でございますから、どうぞご安心を」
人型に変化できる精霊獣さんには慣れたつもりだったのに、さすがに寿右衛門さんが人型に? と戸惑ってしまったのだけれども。
ところが、理由を説明してもらってみると、確かにコヨミさんの時代だと狐、狸、もしかしたら鬼とか、そんな存在だと思われてさすがのコヨミさんでも分かりました、ではお話を伺いましょう、とはいかなかったかも知れない、と納得。
お姉ちゃん曰く、少なくともひいおばあちゃんでさえ噂に聞いた位の遠い時代の方だからね、コヨミさんは。
こちらだと、例えば狐の精霊獣殿だけでも百斎さん千斎さんのご先祖様とか、色々な方がいらっしゃるけれども。
浅緋さん、緑簾さんは正真正銘鬼さんだし。
むしろ、異世界からの転生人コヨミさんや魂の転生者の私の方が余程珍しい存在の筈。
そう言われてみて改めて拝見すると、この姿の寿右衛門さんが黒髪黒目で着物だったら、美形故に目立ちはするけれど妖怪変化とは思われないだろうなあ、という結論になりました。
「実を申しますと、コヨミ様は私の真の姿をすぐに見抜かれまして。それからはあの絵本の様なお供の鳥としてあのお方のお側におりました次第です」
あ、鳥さんのコヨミさんと雀さんが可愛いあの絵本だね。今はリュックさんの中に保管中の大切な絵本。
やっぱりコヨミさん、あちらにいらした時から色々な存在の中身を知る、見る事が出来る方だったんだ。
そういった所があちらの高位精霊殿や獣さん達に選ばれた理由の一つなのだろう。
……あれ、そうすると。
「ねえ、寿右衛門さん、もしかしたらチュン右衛門さんも変化できるのかな?」
「……どうでしょう、あちらの高位精霊殿にお目もじする機会がございましたら、可能性はありますが。ああ、そうでした。向こうのニッケル様の魔力が発動いたしましたので、我が末裔も影響を頂戴しているという事もあるかも知れません。ただ、あちらはあちらで、人型になりますと色々ございますかと」
確かに。
あちらでの人型。
ゲームとか小説、アニメなんかで親しみがあるとは言っても実際そうなったら……。うわあ、絶対バレたらまずい。
でも、お姉ちゃん達限定なら何とかなるかも。特に一輪先生は面白がるかもなあ。
「白様、申し訳ありませんが、もしかしてあちらに何かを連絡して頂く機会がございましたら、この件は伝えて頂けますか? 万が一の時にはチュン右衛門さんが困らないように。ニッケル君やお姉ちゃんや一輪先生なら可能性を理解していたら何とかなると思うのです……って!」
そう言えば私、ふわふわを堪能している状態で寿右衛門さんのお話を聞いてたよ! すごい打ち明け話だったのに! ごめんなさい。
あと、寝ながら白様にお伺いって! 失礼にも程があるよね?
「いえ、この安らぎは我が師が貴方様の為にとお与えになったものですから」
『そうじゃよ。存分に楽しむが良い。今すぐにとはゆかぬが、姉君達の元への連絡の機会があれば必ず伝えようぞ。むしろ、高位精霊殿宛かのう』
ありがとうございます。
本当に名残惜しい感触なのですが、多分これ、このままだと私、寝てしまいます。
離れます。
「本当に良いのですか。皆様は事情をご存知ですし、時の経過も魔法によって緩やかにしておりますから、まだまだ我が師の羽毛の上におられても良いのですよ?」
はい、まだまだ、と名残は尽きませんが、ふわふわな時間はたっぷり味わう事ができました。
寿右衛門さん、本当に癒やされたから大丈夫だよ。多分、少しうとうとしてたよね、私。
ありがとうございます、白様。
「うん、ありがとうね、寿右衛門さんも変化の贈り物、素敵なものを見せてくれてありがとう。白様のふわふわも本当にありがとうございました。すごいものを頂いちゃった」
『『違う(います)』』
え、何が違うの。リュックさん、黒白。
「はい、確かに異なりましてございます。皆様が主殿にお渡しになるものは、家にございます」
……い、家?
『左様。我も会の一員故。では、またな』
ま、待って下さい白様! と叫ぼうとしたらふわふわの余韻をそのままに、私はふわり、と再び転移陣へと送られたのでした。
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