158-薬草茶と少しだけ苦い話と私
……。
イケメン令嬢様達と攻略対象者君達の話を終えた後、暫くは沈黙が続いていた。
どうしよう、あまりお気にされていないとは言え、やっぱり親御さんとしては……。
と思っていたら。
「……とりあえず、お茶にいたしましょうか」
そう仰ったのは、リラシナさん。
「スコレス殿のハーブティーの味と効能をご存じの第三王子殿下にお出しするのは少し緊張しますわね」
こちらはカクレイさん。
お客様にして頂くのは、と私が言ったら優しく静止されたので有難く頂戴する事にした。
そう言えば、お二人と割と長めに話していたのでこのお申し出は嬉しい。
寿右衛門さんお勧めのリュックさん提供焼き菓子も添えられた、お二人のエルフの里の飲み物だと言うそれは爽やかな香りと涼しげな味わいの、素敵なお茶だった。
「……おいしいです。爽やかですね」
「良かった、貴方様にもお気に召して頂けて。実は、コヨミ様も気に入っていらした薬草茶なのですよ」
微笑むリラシナさん。
コヨミさんの事を思って下さっているのかな。
おいしいお茶とお菓子で思い出した。お母さんって、こういう所があるよね。
いきなりお茶とか気に入っているコンビニ商品とかを出してくれて、飲んだり食べたりしてたら「あれ、悩んでいた事、考えていた事はなんだったっけ」って。
「マトイ様、どうなさいました? お口に合いませんか?でしたら、ご遠慮なさらず……」
ちが、違います。すみません、リラシナさん。
何で涙が。おかしいな。
「すみません、本当においしいんです。……おいしすぎて、あちらの母の事を……」
「よろしければ伺っても?」
「あ、はい。ええと……」
カクレイさんに促されたら、自分でも驚くくらい、しぜんに言葉が出て来た。
あちらにいる母の事、こうしておいしいものを出してくれて、話を聞いてくれた事。
一番の悩みが高校時代に向こうから告白してきてくれた人と付き合いにもならない様なお試し交際をしたけれど、お試し交際の認識にお互いの
「……相手は男、ですよね」
リラシナさん、少し怒気が。
綺麗に整った眉に歪みが生じた。
「あ、はい。一般的には男女交際、の国でしたから。あ、でも、だからかな、コヨミ王国の、お二人みたいなご婦々、物凄く憧れます!」
「大丈夫ですよ、マトイ様。私達もその一般的には、の里から出た者達ですから。まあ、コヨミ様のお陰で里とは仲直りできたのですが。……そうではなくて、お母様のお気持ちが良く分かります。コヨミ様のご血族に対して恐縮に存じますが」
カクレイさんは和やか。
「ええ。よく分かりますわ。」
怒気を冷やしたリラシナさんが言うと、並んだお二人が、すうっと息を吸った。
そして。
「「可愛くて可愛くて可愛い私の娘に外見目当てで寄ってくる羽虫が! ってことです」」
静かに、けれど、強い言葉で同時にだった。
お二人共、優しいお顔なのに笑っていない。
そう言えば、その話をした時のお母さんとお姉ちゃん、同じ様な表情だったな。あの後、相手の事を色々聞かれて……。
ああ、そうか、あの時、私がお試しをやめられたのは。
「……親や家族が人間関係に入り込むのは、決して良いことではなく、むしろ責められるべき時もございます。然しながら、マトイ様の場合は、お母様とお姉様のご対応に全面的に賛成いたしますわ」
カクレイさんは心からそう言われている感じだった。
相手の人、自称お友達、が多い人だったんだよね。お試しの筈なのに色々予定を決められて、恋人みたいに言われて。
思い出した。
当時の私の友人達も、何あいつ、って相手に怒ってくれていた。
いや、断ってるつもりなのに断れていなかった私も悪かったのかな。
思い返すと、取り返しのつかない事になる前にお母さんとお姉ちゃん、一肌脱いでくれたって事じゃ……。
ああ、どうしよう、今更だけどありがとうが言えないよ!
手紙? 手紙ならどうかな。
「マトイ様がお気にされる事は全く! ございませんからね。……お母様とお姉様、その羽虫との関係が消失した際に良かったね、と笑っておられませんでしたか?」
え、その通りなのですが。
何故分かるんですかカクレイさん!
「……あ、はい。それはお試しでも何でもない、ただの押し付けだから、今度こそ本当に、まといが大好きな、大切な人と恋をしてね、って……」
……だからだ。
お姉ちゃん、一輪先生との事を私に言わなかったのは。
今は本当に、本当に大切な人が私にもいるから……伝えてくれたんだ。
「お姉様は、マトイ様が唯一の方の所に旅立たれたとご存知なのですよね。……それでしたら、お母様への感謝の気持ちは、ニッケルちゃんにお任せすれば良いのですよ。お姉様には、現在進行の形で彼が謝意を示していると思います」
ありがとうございます、リラシナさん。
ふふ、ニッケル君、お二人からしたらニッケルちゃん、なんだ。
まぬけ王子よりはいいよね絶対に。
……何だか、お二人にはかなわない。そんな気がする。
「良いのですよ、まだ貴方様は高等部の学院生。我々にどーんと、守られて下さい。……ただ、これはお忘れなき様に。貴方様はたいへんに良く努めて下さっています」
「そうですよ、あと一年と少しの間、出来る範囲で筆頭公爵令嬢達との学院生活も楽しんで下さいね」
「……は、はい」
リラシナさん、カクレイさん、ありがとうございます。とても心強いです。
「良かった、笑って下さって」
「それでは、焼き菓子を頂いたら、我々偲ぶ会の皆からの思いを込めた品を贈答させて下さいね!」
え。カクレイさん、リラシナさん。
こんなに親身になって頂いて、まだ何かあるんですか?
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