第四章

154-転生したら大好きな悪役令嬢を断罪する筈の王子だったのに異世界にものすごく馴染んでおります次第。

「「ああ、やっぱりコヨミ様の『気』に似ておられる……。幸せ」」

「「大導師殿達から聞いてはおりましたが、現実にお目にかかりますと、嘗てのお姿をありありと思い出します。我ら婦々、コヨミ王国高官と致しましても、マトイ様に末長くお仕え致すという気概を持ちつつ、国の為に更に励みます事を誓います」」


 ええと。いえ、あの。


 異世界の月経関連の様々な物、下着類(通常時用も含む)、避妊薬(命の繋がりに関わる大切な物だから照れてはいけないのではと思い直した。ありがとう、お姉ちゃん)、他にはリュックさんが足しておいてくれた携帯用治療キット、携帯用裁縫セット、簡易防災グッズ、トイレットペーパー、ボックスのティッシュペーパー、ポケットティッシュ等々を配達寿右衛門さんが医療大臣さんにお届けして、同席されていたという奥様の財務大臣さんと『お会いできました、たいへんにお喜び頂けました』と言われたのは数日前。


 それから、何度か寿右衛門さんが医療局と財務局の大臣執務室と聖教会本部準々貴賓室を往復して使用方法の質問とか色々なやり取りをしてくれて、その流れであれよあれよという間にお二人と私の面会日程が調整されました、と。


 ……そういう訳で本日。


 医療、財務両大臣ご婦々に大いに感謝してもらって、私の私物はこちらの物質に代替されていて、例えばトイレットペーパーは上等な木材に似た鱗を持つ巨大蛇の鱗を用いた物になっていた、とか色々聞いて面白いなあと感心したり、この国の医療、財務の細々とした分野の為になるお話しを色々伺って、為になるなあ、ありがたいなあ、とこちらから感謝の意を示したくなる展開になりました。

 因みに財務大臣さんは鑑定にけた方でした。


 ……でした。が、これは如何なものでしょうか。


 私、魂は異世界人の暦まとい26歳女性ことニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ第三王子。

 今、人型朱々さんと並ぶ位にお美しく更に素敵な体型であられるエルフ族のお二人に挟まれて、髪の毛を触られ、あまつさえ頭皮の匂いを嗅がれております。

 輪唱みたいにはっきりと聞き取れる同じ台詞。本当に息ぴったり。


 詳しく説明すると、ここは、聖教会本部の特別来客室(他国の聖教会の高位の方とか王族様方用。


 あらゆる防音その他の魔法防御付与済)のふかふかソファ(大導師様浅緋さんの特別執務室のふかふかみたいな極上品)に三人並んで座っているのです。

 医療大臣、財務大臣の両大臣お二人の間に私。


 いや、きちんと昨夜身綺麗にして、お二人にお会いする前にも寿右衛門さんに改めて清浄魔法を掛けてもらったから、変な匂いとかはしないと思うのだけれど。


 この構図、一輪先生の恩師、学部長先生のお供の一輪先生のそのまたお供で行った、あちらの超高級キャバクラを思い出すなあ。

 女性の連れがいないと入れない特別な日だったとかでお呼びが掛かったんだった。

 楽しかったけど、今の状況も良い香りがしたりするのが似てるなあって。

 でもこれ、ナンバーワンさんがお二人になってるよ。

 あと、こんなに密着されなかった。かわいい! とかのお世辞は言って頂いたけどね。


 正直、私、ナーハルテ様以外の女性にはそういう感情にはならないと思うのだけれど、ね、やっぱり今私、一応19歳の健康体の青年(一応、いや、ちゃんと美形)さんだから。


 大丈夫かな、色々。


「あ、あのう。そろそろまたさっきの続き、本題に入りませんか?」

 良かった。さすがは王族、ニッケル君すごい。顔が赤くなる位で何とかなった。

 やっぱり、小さい頃から色仕掛け対策とか講義があるのかなあ。と思ったら、彼の記憶が蘇ってきた。

 やっぱり、きちんとそういうのを教わっている。高等部入学前の若年層ニッケル君、生意気そうでかわいい。

 あ、そうだ、おかげで意識が逸れた。二重の意味でありがとう、ニッケル君。


「失礼いたしました。私達婦々はコヨミ様を偲ぶ会という会の会員でありながらも末裔であられるマトイ様に未だに直接のお目もじが叶いませんでしたので。他の方達、学院長殿や聖魔法大導師殿はともかく、大司教殿にまで先を……と、歯噛みしておりましたのでございます」


 ええと、コヨミ様を偲ぶ会?

 そう思った途端、卓上のハイパーが、さっきまでふむふむ成程、とお二人の解説を聞きながら読み込んでいた『コヨミ王国の財務局について』の頁からパラパラと動き、『コヨミ様を偲ぶ会』の頁を開いてくれた。


「さすがはマトイ様の予言書殿。素晴らしいご反応です。先程も医療局、財務局に関する項目に感心いたしましたが。どれどれ……あら、現実にコヨミ王国初代国王と親しんだもののみが所属する会。緊迫した会議、豪放磊落な飲み会等その行動は多岐に渡る。……素晴らしいです。真実しか書かれておりませんわ」

 偲ぶ会の事を口にしたのは医療大臣のカクレイ・フォン・フルリアンさん、赤紫色の目とチョコレート色の髪が艶やかな方。

 ハイパーを褒めて下さったのは財務大臣のリラシナ・フォン・タングステンさん。淡い橙色の目と、灰色の髪の毛にフルリアンさんの髪の毛とよく似た色の肌が印象的な方。


 エルフ族特有の長いお耳の仲良しご婦々。それぞれに爵位を有しておられるので、姓が異なるという訳です。


 お二人共にコヨミさん達が改革を行った新しい国に惹かれて故郷からまだ名前の無かった頃のコヨミ王国に移住をされた方達で、特に、同性婚を認める法律を提案したコヨミさんには恩義を感じまくって下さっているらしい。


「「私達の事は、是非、カクレイ、リラシナとお呼び下さいね」」

 私とは向かい側のソファに移動されたお二人に美しく微笑まれた。


 いえ、王位継承権が微妙な第三王子よりも、建国時から国を支えて下さっているお二人の方が重要人物では?


 助けて、寿右衛門さん!って、お二人を紹介してくれた後、『外せない用事で申し訳ございません』って、サイドテーブルにお茶とか色々の準備を完璧にして、卓上にはハイパーを置いて何処かに転移しちゃったんだよなあ。


 寿右衛門さんが予定有、しかも大物さんの来客時に、って相当な用事だろうから強くは言えなかったのだけれど。


 やっぱり、ここにいて、お願い! って言うべきだったかなあ。


『とりあえず、魔道具開発局局長殿を引き合いになさればどうでしょう』

 あ、黒白ありがとう。そうだね、そうしよう。


 もしかしたら、寿右衛門さんもこの会合中に戻ってきてくれるかもしれないからね。


 ……異世界の第三王子として自覚を持って日々過ごしているけれど、馴染むとそれなりに色々な事があるものだねえ。


『『それは貴方くらいのものです』』

 黒白とリュックさん、ダブルツッコミをありがとう。

 寿右衛門さん不在でも、お陰で何とかなりそうです。


 正直言うと、早く転移して戻ってきて欲しいのだけれどね。



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