155-コヨミさんとご婦々と私
『不在をお詫びいたします。戻る事はかないませんが、こうお話しなされては如何でしょうか』
ありがとう、寿右衛門さん、ありがとう、念話を繋いでくれた黒白。
結局、黒白には私の内心が筒抜けだったらしく、寿右衛門さんに念話を飛ばしてくれたみたい。感謝しかない。
「コヨミさんはお二人を何と呼んでおられましたか? 因みに私は魔道具開発局局長殿をジンクさん、と内々で呼ばせて頂いております」
さっきの黒白の案との合わせ技で、何とかさん付けになりました。良かった。
「確かに、こう呼んで頂けましたらコヨミ様のご治世の頃を思い出して暖かい気持ちになります」
と、リラシナさん。良かった。
「それでは、私達の妊娠と出産についてお話しいたしましょう。これは、医療大臣である私から」
話の続きはイケメン令嬢様方の事かな、と思っていたのですが。すごい話題が飛び出しましたよ?
「カクレイさん、そのお話、国家機密では? ハ、私の予言書もお二人の妊娠・出産の項は『秘匿事項』の一言のみでしたよ」
そう、この会合前にできるだけお二人とイケメン令嬢様方と攻略対象者二人については情報収集していたのだ。
ハイパーだけではなく、ナーハルテ様達イケメン令嬢様方、スズオミ君達攻略対象者、あとはセレンさんからも攻略対象者の事を聞いたり。
「その通りです。ですが、大書店のコヨミ様のお部屋に、唯一の資料を置いてございます。ですから、後継者であられるマトイ様はご自由にお読みになれる為、お話する事は十分に可能です」
困惑の私にリラシナさんのお言葉。
え、あの部屋に? でも、お二人のお名前はあの時は……。
「あのお部屋におられるコヨミ様は影の様な存在であられますよね? マトイ様があの方にお会いになられた時は、まだ私達とは面識がおありでなかった為でしょう。次にご足労頂きましたら、情報が更新されているかと。……今後、他の方々にお会いになられましても同様に存じます」
「大書店と言えば、大司教殿がお供をさせて頂くのを待ち望んでおられましたね」ところころと微笑むカクレイさん。
そうか、人工知能的なものは影。成程。
影ではないお姿も隠れていそうだけれど、とりあえず私が理解していたら良い筈。
そうだ、大書店。
騎士団魔法隊隊長、上級大将閣下の千斎さん、大司教猊下百斎さんとナーハルテ様で。聖魔法大導師様浅緋さんと最強の聖女候補セレンさんも一緒になりそう。
ナーハルテ様と約束したのに中央冒険者ギルドと居酒屋関山とその周辺へのお買い物デートも行けてないし。
インディゴと、結局まだ会えていない聖教会本部の魔馬さんにも会いたい!
まあ、求者とか色々色々あったからね! まだありそうだし。
年度末のライオネア様vsスズオミ君までには何とかしたいなあ。
って言うと、これからも何か起こりそうな気が……。いや、考えない、考えない!
「端的に申し上げますと、エルフ族としても魔力の高い我々婦々が、適正な魔力を計算し、寸分違わずに行いました結果によるものです」
命を生み出す行いに、間違いがあってはならない。
お二人の魔力と、医療大臣カクレイさんの医学、医療知識(エルフ族特有の薬草知識も)と財務大臣リラシナさんの計算、鑑定の能力があってこそ。
主にカクレイさんが、補助的にリラシナさんがして下さったお話はあちらの知識が多少はあったので何とか理解できた。理系で良かったのかも。
それから一輪先生、知的好奇心でたくさんの蔵書を研究室に置いてくれていてありがとうございます。めちゃくちゃ役に立ってます。
簡単に言うと、まず、お二人の卵子をそれぞれの体内で魔力により精子へと変換。
それを最高の状態で瞬時に取り出し、魔法で瞬間凍結。完璧な計算で確定させたタイミングで人工授精というか魔力受精になるのかも、を実行。
関連術式とかデータも大書店のあの部屋の書庫に厳重に保管されていると言う。これは国家機密が当然。
お二人の凄いところは、まだ存在する。
これをお二人ほぼ同時に行い、しかも大臣としての業務を滞りなく行える様に前倒ししていたらしい。
更に、そこに至るまでに得た知識、技術を世に広められる範囲で不妊治療に似たものとして広く供出している事も素晴らしい。
勿論国外への知識提供の可否は慎重に行われている。
突発的なことはあっただろうけれど、「魔法があるから何とかなりました」と笑っていらっしゃる。
やっぱり、素敵なご婦々。
あれ、これ、やっぱり誓約魔法必要だったのでは?
「必要ございません、貴方様には。……資格を得られましたら、筆頭公爵令嬢にもお伝え頂いても構いません」
カクレイさん、資格、って。
あの部屋に入る資格、結婚、ですね。
「……概略だけでも素晴らしく、そして困難なものですね。私も女性のまま転生していても、もしかしたら、とか考えてしまったのですが、お二人の努力と信念に対して失礼だったと思います。すみませんでした」
頭を下げようとしたらお二人から止められた。
「いえ、貴方様と筆頭公爵令嬢でしたら、もしもの際には私達もご協力を惜しまなかったと存じます。そもそも、私達が愛する子達に会えましたのも、コヨミ様のお陰ですから」
リラシナさんによると、生前のコヨミさんは学院長先生、精霊王様直参の高位精霊殿、そしてたまに下界にいらしていた白様、この内どなたかの許しがあれば、お二人の妊娠出産に関わる全ての事象を認める様にという公式の指示を残してくれたのだという。
「私達二人の事を、とても気遣って下さった方でした。いつか、二人の子供が授かれたら、という夢を現実にできましたのは、コヨミ様の励ましのお力です。私達は努力を諦めずにいられました」
いいなあ、努力を諦めない。
そうだよね、もしかして、本当に女性として転生していたとして。私はやっぱりあの方を好きになったと思う。
そして、今みたいに恋愛感情で好きになってしまっていたら、やっぱり私は諦めなかったのだろうな。
「もしも女性として転生なされたとしても、我々は同じように貴方様の魔力を感じ、ご協力差し上げたと思います。然しながら、お見受けしました所、マトイ様は現在のお立場で、心から筆頭公爵令嬢を思っておられる模様。そうでなければ、私達もコヨミ様の末裔様であられるとは言え、異性の身体にあのようにはいたしません。先程は失礼いたしました。マトイ様の魔力を少々頂戴いたしましたので、必要な折にはお役に立てるように備えておきます」
カクレイさんが語り、リラシナさんが微笑む。
あ、あの密着、ちゃんと意味があったんだ。
あと、ナーハルテ様との仲についてお二人みたいな仲良しご婦々から太鼓判を押して頂けるのは純粋に嬉しい。
「コヨミ様の末裔様をお迎えする為に心を配られた白様、そして、王族としての務めを果たされる為に旅立たれたニッケル殿下。お二人のお力でございますね。そして、マトイ様ご自身の思い。感服申し上げます」
リラシナさんが言い、そしてお二人が軽く会釈をされた。
……あのまぬけ王子とその周辺が、私達の可愛い娘達とお友達に何を、思っておりました事が信じられませんね、という呟きが聞こえた気がするけど、気のせいだね、うん。
『『気のせいです(だね)』』
ね、そうだよね、黒白、リュックさん。
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