幕間-18 大司教様と茶色殿の念話

『……遅くにごめんね、茶色殿。第三王子殿下はお休み中?』

『はい、ぐっすりと。お二人のお陰で、些末な事で主を煩わせる事がなくなりました。誠にありがとうございます』


 深夜の聖教会本部準々貴賓室。

 大司教殿からの念話に、私寿右衛門は居住まいを正しました。


 主マトイ様にはお伝えしてはおりませんが、最近は騎士舎よりもこちらを常宿としてお勧めしておりますのは、大司教殿並びに大導師殿の魔力の壁により、主に下らぬ関わりを持とうとする存在を少なくできる事も大きいという利点の故でもございます。


 また、主殿と聖女候補セレン-コバルト殿とを近くにという事にもなりまして、それは大司教殿曰く、

「同じ魔法陣内でお守りと保護とを同時に出来るのは良いよねえ!」

 との事に存じます。


『何かございましたか? 必要なら私も出ますが』

 黒白殿とリュック殿と、場合によりましてはハイパー殿も前線で十分に動ける魔道具殿にあられます。


 必要ならばここはお任せして、私がと思いましたら。 

『大丈夫。そういうのじゃなくてね。茶色殿、明日あたり医療大臣、カクレイさんに会いに医療局に行くのかな? と思って』


『はい。朱色殿が中央冒険者ギルドギルドマスタースコレス殿にお伝え下さいまして、その縁によりまして我が主の人となりを医療大臣殿にお知らせできましたので』

『それは良かったねえ。第三王子殿下がこちらに持って来た物は宝の山だから。喜ぶよ、きっと。……でね、多分だけど、明日は婦々ふうふ二人で茶色殿を迎えるよ。それで、を殿下にお渡ししたい、と言われる筈だから。伝えておいた方が良いかなあ、と』


 ああ、成程。


 医療大臣カクレイ・フォン・フルリアン殿と財務大臣リラシナ・フォン・タングステン殿は女性同士のたいへんにお似合いのエルフ族のご婦々ふうふにあられます。

 因みに男性同士はご夫々ふうふという名称に存じます。


 実は私は大司教殿も参加されますある会にて、お二人とも顔馴染みなのでございます。


 残念ながら、前回の会合はインディゴ殿とので、不参加となりましたが。そうですか、を。


『私は残念ながら欠となりました先日の会での話題になりましたか』

『うん、ごめんね。私がこの間、第三王子殿下に会ったでしょう? だから、私達だけお目にかかれてない! ってめちゃくちゃ絡まれて。それで、もうすぐ茶色殿には会えると思うよ、って言ったらご機嫌で、そうだ、あれよ! って。まあ、確かに我々皆で平等にマトイ様をお守りできる場所って、あれしかないでしょ?』

 確かに。

 あれならば、我が主に心からの安らぎをお渡しできます。

 確かに、あれを今管理して下さっているのはあのお二人です。……ならば。


『ありがとうございます、大司教殿。そうと決まりましたら、医療大臣殿にもお喜び頂けます物を荷に増やします』

『うん、そうして。何かあれば僕も大導師君でも遠慮しないで呼んでね』


『ありがとうございます』

『じゃあね、あ、第三王子殿下の聖魔法の修行、僕と大導師殿が交代でするからね、任せて! あ、何か気になること、必要ならいつでも聞くよ? じゃあ、お休み!』

『……ありがとうございます。お休みなさいませ』


 大司教殿との念話が終わりまして、私は作業に掛かる事にいたしました。

 気になること。

 この心の惑い。大司教殿には薄らと伝わりましたか。

 申し訳ございません。そして、ありがとうございます。

 今はまだお伝えできませぬが、心強く存じます。


 それに。

 あれを主殿にお渡しする。良いお考えです。

 今はとにかく、こちらを。


 自らの発案ではない点には己の未熟を恥じる思いでございますが、それよりは、主殿とお二人の会合を良きものにするべく励みます事こそ、伝令鳥の務めに存じますから。


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