幕間-16 コヨミ様を偲んで
「どうもありがとう、お疲れ様。確かに頂戴しましたとスコレス殿に伝えて。これはお駄賃です」
手元の瓶から伝令鳥が好む木の実を一握り渡すと、中央冒険者ギルドギルドマスタースコレス殿の伝令鳥(
伝令鳥が渡してくれたのは、第三王子殿下の人となりを示した丁寧な手紙。
あのスコレス殿特製ハーブティーを生成する許可までお渡ししたという記述まであった。
ご婦々におかれてはとにかくご協力をして差し上げて頂きたい、とのお言葉も。
これが、嘗ての殿下であればエルフが誇る森の叡智スコレス殿からの推薦とは言え直接会う事には私も逡巡したかも知れない。
然しながら、コヨミ王国医療局医療大臣の私、カクレイ・フォン・フルアリン、そして財務局財務大臣の妻リラシナ・フォン・タングステンも参加している「コヨミ様を偲ぶ会」の飲み仲間のお一人、聖魔法大導師殿からは
「あの方は本物です! 魔力がコヨミ様に似ておられる! もしかしたら
「いやあ、やっとお会いできたよ! すごいねえ、精霊珠殿に仮名を捧げるって! ちょっと気になる相手もいて、それがね、本格的に悪い存在なのか微妙で、よく分からないんだ! そんなのもいるけれど、皆でお守りしようね! お似合いの筆頭公爵令嬢ちゃんと、頑張ってる聖女候補ちゃんの事もね!」と、
これを信用しないとしたならば私達の方が異端になりそうな太鼓判を押されていたのだ。
悪しき存在なのか分かりかねる存在、というのは気にはなるけれど、記憶に留めておけば良いだろうか。
今考えるべきこと、それは。
そう、こちらのこと。
魔道具開発局局長殿からは異世界の女性の月経や避妊に関する諸々それから下着類まで、異世界では女性であられた殿下から賜ったという。
それらを、無欲でいらっしゃるにも程があるが無償で局長殿と我々医療局に進呈なさりたいというのだ。
第三王子殿下は開発と改良を経て品々が市場に広く渡る事を望まれているらしい。
なんという事か。
「その点については同意以外あり得ない。実は、私もそうしたのだが、せめて発案者としての権利は殿下にお渡して頂きたいのだが。この件については奥方、財務大臣閣下とも相談なさって欲しい」という魔道具開発局局長殿のお言葉は尤もだと思う。
そして今日、医療大臣執務室にギルドマスタースコレス殿からこのお手紙が届いたのだ。
これは近々、私達婦々もコヨミ様の末裔殿にお目にかかれるのかも知れない。
愛する娘達の良い友人である筆頭公爵令嬢との仲も実に睦まじいらしいし、やはり良き友である魔道具開発局局長令嬢の婚約者との関係をも深めて下さったらしい。
きちんとした相手が見付かるまでは使用する事が定められている伝来の認識阻害の魔道具を外す許可を局長殿がお与えになった程の結び付きになったそうだ。
そして、第三王子殿下が
共に育ったエルフの里で、同性での婚姻は許さなくはないが前例がないと数百年間結婚を保留にされていた私達婦々は、異世界から転生をされた人物が代表を務める新たな国では同性婚も異性婚も認められていると風の噂で聞き、二人で里から出奔し、王国(まだ名前の無い頃ではあったが)の民となったのだった。
ああ、今では里とは一応、良い関係を築いているので安心してほしい。
言わば、コヨミ様は恩人だ。生ける伝説であられる学院長殿、精霊界でご活躍の高位精霊殿もそうなのだが、やはり、
「カクレイさんは薬草に詳しくていらっしゃるし、リラシナさんは貴重な品々の鑑定と計算に長けておられますから、お二人は医療大臣と財務大臣の職に就いて下さい。爵位もエルフの里の位から
そう穏やかに言われたコヨミ様が最たる恩人なのだ。
「「いえ、人族が多い国でエルフ族がいきなりその様な高位とは、さすがに人事改革を推進しているとはいえいけませんよ」」と二人で答えたら、
「それならば、私は異世界からの転生人ですよ。そして生粋の平民です。こちらに長くいらしたお二人の方が高位には相応しいです。それに、無意味に高位に就いていた者達とお二人は全く違います」
そう言い切られてしまったのだ。
そもそも、その外見からエルフ族を好む人族は少なくないが、あくまでも鑑賞用、彫刻や美術品と勘違いしている様な連中も多い。
爵位もアクセントの一つ程度に見なす者もいる。
だが、コヨミ様は全く違った。私達を友人として接して下さっていた。
私も妻も、互いを思う感情とは別の意味で、コヨミ様を心からお慕いしていたのだ。いや、それは今でも同じだな。
私は執務室のサイドボードから、普段は執務中には口にしないワインを取り出した。
コヨミ様が二代目の為に残された赤い石と同じ、血の様に赤いそれ。
それを、グラスに注ぎ、一人で杯を上げる。
「……今一度、貴女様のお役に立てます栄誉に」
ひと息で飲み干したそれは、甘く、そして少しだけ苦い。
それは、とても心地よい苦さだった。
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