149-王立学院魔道具品評会結果発表日の私達(6)

「コヨミ王国第三王子ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ殿下、どうぞ」


 学院長先生に促され、壇の中心に立つ。


 そうだ。


 ニッケル君、君の分まで皆に語るよ。


 届くかは分からないけれど、それでも君に誓いたかった。……これで良し。


 私はコヨミ王国第三王子。ここにいる全ての人が、私を見ている。


 まず、礼をする。そして。


「……魔道具品評会終了後に話をさせてもらう機会を頂いた事を嬉しく思う。コヨミ王国第三王子、ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミである。まず、この場には先程の学院長先生のお言葉の通り、私の入学式時の顛末を直接目にした者もあるだろう」


 いわゆる学院長先生の竜の咆哮とまぬけ王子のやらかし。


 ここで一度、言葉を切る。


「私はあの頃、苦悩していた。王族としては余りにも少ない魔力に。そして、皆が認める唯一無二の婚約者の有能さとその輝きに。普通クラス一組への入学。……あの頃の私には必然の事だった。その様な者が高等部入学の挨拶をしようなどとは片腹痛かろう。学院長先生のお怒りはご尤もだ。ただ、私は劣等感を持ちつつも心から尊敬していた、今も敬意を持って已まないナーハルテ・フォン・プラティウムが挨拶に緊張している様に思えて、代わってやりたいと感じた。それがあの行いの一番の理由だった」


 これは本当だ。『キミミチ』とは異なり、ニッケル君は一貫してナーハルテ様に敬意を持っていた。

 今はきっと、あちらのニッケル君の気持ちには、友愛という意味も加味されている事だろう。


「……あの頃の姿は演技だったのでは、と好意的に解釈してくれていた者もいるだろう。然しながら、あれも紛れもなく私だ。聖女候補セレン-コバルトの編入時に軽々けいけいな態度を取ったのも、召喚大会で我が婚約者が召喚した白き偉大なる精霊獣殿に助けられたのも、全て私の責である」


 召喚大会に関しては、第三王子だけの責任ではないのでは、と感じている学院生や関係者もいるだろう。


 今年度の召喚大会は、事情を知らない人達からしてみれば第三王子が召喚した鬼属性の小さな精霊獣が白様の凄さに驚いた為少々騒ぎになりかけたものの一応無難に終了しているという認識の筈だから。


 だけど、ニッケル君は恐らく事実を全て話して皆に謝罪したいと考えているのだろう。

 勿論、全部さらけ出してとはいかない。


 けれど、これくらいなら許されるのではないだろうか。

 それに、当事者の一人である事故召喚にされかけた緑簾さんが今では笑って許してくれているのだから。


『その通り! 主様、そろそろこの男前を呼びたくなったんじゃないですか?』

 あ、黒白から緑簾さんの声が。


 心強いけど、今かなり緊迫した状況だから!


 あと、浅緋さんがいらしてるからね?


『大丈夫じゃよ。奴を呼ぶならば、ほぼ同時に我も出るからの』


 え、白様? 確か、大事な単独行動をしておられたんじゃ?


『そうじゃ。だが、このくらいならば出られるぞ。そもそもコヨミの末裔の晴れ舞台。我が居らずにはしまらぬであろう?』


『第三王子殿下、こちらは大丈夫です。緑殿もきちんとした姿に整えましたから、ご安心を』


 あ、この声はギベオンさん?


 え、じゃあ、ギベオンさんみたいなデキる秘書さんスタイルになってるの? 緑簾さんが? それ多分私、笑うよ? 堪えるの無理!


『ああ、それはございません。まあ、お楽しみと言うことで。ご都合の良い時にお呼び下さい』


 ……まあ、それなら。

 もしもの時は何とかして下さる方が勢揃いだものね。


 そうと決まれば、話を続けよう。


 会場の皆の真剣な表情を見ると、背筋が更に伸びる思いだ。


「聖女候補の学院での学びに対する姿勢に刺激され、剣術大会で善戦したスズオミ・フォン・コッパーが私の良き友人である事は周知かと思う。そして、私は内々に一般寮での平民差別を知らせてくれた聖女候補とその行いを是とした友人コッパー侯爵令息と共に学院に存在する平民差別を断罪しようと思うに至った。お陰で、学院生の退寮または退学のみならず、その家までもが差別思考に浸かり、優越感に浸っていた場合は等しく法の裁きを受けさせる事ができた事は皆の知る通りだ。本件については、演技とはいえ婚約破棄もどきという重大事に協力してくれた婚約者には本当に感謝している。……思えば、あの頃から私の属性が現れかけていた様に思う。……それからの事については、会場の皆も良く理解してくれているのではないだろうか」


 ……どうだろう、上手く話せただろうか。


『素晴らしいです、まとい様』


『主殿、もう一息です』


『いいですね、全身で王子様してますよ!』


 ナーハルテ様、寿右衛門さん、セレンさん、ありがとう。


 ……もう少しだよ、ニッケル君。





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