144-王立学院魔道具品評会結果発表日の私達(1)
「悔しい、悔しい、悔しい……です!」
フード野郎もとい求者が去ってから暫くの間、セレンさんは地団駄を踏んでいた。
百斎さんも、「その感情はやむを得ません、落ち着くまでは認識阻害魔法等を継続しましょう」と言って下さった。
精霊珠殿と学院長先生もそれを肯定された為、今は皆でセレンさんの近くで水分補給をしている。
水分提供はさすがのリュックさん。後片付けもお任せ。
あ、ジンクさんが騎士団魔法隊隊長の軍服から出して下さった分体の千斎さんは百斎さんの隣で微笑んでいます。
簡単な会話くらいは出来て、多少なら外敵とも戦えるそうです。凄い。
確かに大司教様がおられても、魔法隊隊長さんが消えていたら観客の皆さんが不安になるよね。
そうそう、副局長達は筆頭公爵家の最強従者ご夫婦の内、奥様であるメイド長巻絹さんが連行していきました。
法務局に起訴される前に、幾つか確認したい事があるんだって。ナイカさんには旦那さんのセイジさんが付いてくれている。
筆頭公爵家から派遣された手練れさんはお二人の事だったんだね。
『あの連中、王子殿下に眠らせてもらっていて良かったわねえ』
って、朱々さんが呟いていたのは聞かなかった事にしよう。
『キャプテン』
あ、紅ちゃんだ。
「紅ちゃん、カルサイト君達の警護をありがとう。早速で悪いのだけれど、セレンさんを落ち着かせてあげてね」
『分かりま
良かった。
紅ちゃんが来てくれたら、セレンさんの魔力に柔らかさが戻ってきた。
あと、紅ちゃんは相変わらず色々かわいい。
ぴよぴよ感がこの場を癒やしてくれるみたいだ。
『……キャプテンの悔しい気持ち、ぼくも受け止めます』
「……紅ちゃん?」
言うなり、かわいいヒヨコの紅ちゃんは、凛々しく格好いい鷹? 鷲? にそっくりなとにかくイケ鳥な紅さん?に変化した。
朱々さんに似ていた羽の色は、良く熟した柿の色に良く似た、これまた美しい色になった。
『素晴らしい魔力ね、これは。そうでしょう、大司教殿。本当に独り立ちね、おめでとう。やっぱり貴方は聖霊獣の血族でもあったのね』
「ええ、朱色殿。本来の魔力に加えて、聖魔力をも合わせ持つ精霊獣であられます。聖女候補セレンよ、君の魔力、そして君の悔しさを霊獣殿が吸収して成長して下さったのだ。感謝なさい」
「は、はい、大司教様。良く分かります。あた、私の中の悔しい気持ちが、もっと実力をつけて修行しよう、皆と一緒なら大丈夫、そんな感情に変化していくのを感じます。……でも」
でも?
「あ、私のかわいくてかわいくてかわいかった紅ちゃんが、イケメンのカッコいい鳥さんになっちゃいましたあ! 紅ちゃん、お話は? あのかわいいあれ、でちゅ、は? あのたまに舌足らずになっちゃう、かわいいお声は?」
『ごめんなさい、
うわ、イケボ!
前の紅ちゃんがかわいいちびちゃん声なら、今の紅さんはバリバリのイケメンボイス。
攻略対象者みたい、って私達もか。
いや、『キミミチ』のイケボよりも良い声だな。これまた私達も、なんだけど。
「イケメンの美声。綺麗な言葉遣い。……紅ちゃん……」
うわ、別の意味でセレンさんが沈んでる。
「朱々、貴女の人型への修行をして頂いたお方にお願いして、紅ちゃん殿の変化の修行をどなたかに見て頂く事は出来ませんか?」
あ、ナーハルテ様の助け船。この状況を
「ああ、それなら私が初代様に頼んであげましょう。朱色殿、伝言をお預けしても良いでしょうか?」
そうだ、朱々さんの人型への変化のお師匠様は、百斎さん、千斎さん達のご先祖様の狐の高位精霊獣殿だ。
『ええ、聖女候補のこの子はナーハルテの良い友ですから、あたくしもどなたかを紹介して頂ける様にお師匠様にお願いしてみます。紅色の、いえ、紅色殿、また修行になるけれど、良いかしら?』
『はい、セレン様の為に励みます』
「うわああん、紅ちゃん、ありがとう、ごめんね! あのね、成長した紅ちゃんはすごくすごく格好いいんだよ、素敵だよ! ただ、あのかわいいかわいい紅ちゃんにも会いたいの! あ、私も頑張る! あのフード野郎、次には目に物見せてくれるから! 大司教様、私、めちゃくちゃ修行したいです!」
「分かりました。とりあえず、この発表の場をきちんと収めて聖教会本部に戻り、大導師殿と相談しましょう」
「はい!」
『うん、あんな形であのフードのものを帰してしまった責任は僕にある。ありがとう、そしておめでとう、聖女候補の守護鳥よ』
「人が思う程には聖霊獣殿と精霊獣殿との婚姻は珍しいものではないから、遠い先祖殿がその様な方であられたのだろうな。その成長に祝福を。……それから、セレン-コバルト、コヨミ王国王立学院選抜クラス編入試験合格だ、おめでとう」
『お二方からの過分なるお言葉、謹んでお受け致します』
「精霊珠殿、お言葉をありがとうございます。それから、学院長先生、謹んでお受け致しま……? って、ええ? 合格? 何で?」
うん、分かる。分かるよセレンさん。そうなるよね。
……この場にいる誰よりも、私には分かりますよ、君の気持ちが。
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