131-王立学院魔道具品評会六日目の私(5)

『とりあえず時操魔法を掛けます。これは聖魔法大導師様から回数制限内での許可を頂いています。ご安心下さい』


 しれっと時操魔法って。

 時を操る超難度の魔法じゃない?

 セレンさん、これでもまだ王立学院選抜クラス編入試験合格者じゃないの? 


『これで5分お話ししても5秒経過になります。でも急ぎましょう。単刀直入に伺います。マトイ様、ナーハルテ様の得意な魔法は?』

 さすがに時操魔法を掛けているから念話にしないと読心は難しいんだね。


 ……私は会話できるのかな。


「あ、あ、あ。話せる。……あと、マトイなんだね。じゃなくて、召喚魔法でしょう?」


『そうです。では、ニッケル様が異世界で魔法を発動したり、マトイ様が聖魔法大導師様の様なもの凄い浄化をされたりした時、共通して傍にいらした方は?』

「ええと、あの夢渡り? だよね。あと、やっぱりあの浄化をしたの私だってセレンさんにはばれてたんだ。傍にいた、いや、いらしたのはナーハルテ様、だよね」


『そうです。それでさっき、あたしが魔道具で写しを作った時も、ナーハルテ様は近くにおられましたよね』

「そうだね」

『実はさっきの紙には、聖魔法を付与してなかったんです。ナーハルテ様がおられる際の実演の時にはその様に、との聖魔法大導師様からのご指示でした』

「え。あんなに綺麗にインクが染みていたのに?」


『あたしのテンションが上がって、ナーハルテ様に触れて頂いた時位まで、何て言うか、力が漲る感じが続いていたんです。探知魔法も掛けてみたから、確かです。あたしの魔力は一時的に強く上昇していました。魔道具自体が普通の紙に魔力を与えるくらいに』

 すごいな、セレンさんの無詠唱。


 全然分からなかった。


『この学説はまだどこにも発表されていないので注意を払う様に、って聖魔法大導師様が仰っていた説なのですが、召喚魔法というのはそもそも、精霊や精霊獣にいらして頂き協力をして頂く、そのお礼として術者は魔力をお渡しする、広義の譲渡魔法とも言えるという考え方が正教会本部のごく一部には存在します。要するに、ナーハルテ様の最も得意とされる魔法は、譲渡魔法、つまりは補助魔法の可能性があります、と言う事です。それも超々強力な。……それを、全ての種類の魔法に応用出来るとしたら?』


「それって、もしかして。さっきの私の思考能力の向上も?」

『そうです。そして確かに先程、の気配を感じました。……これは、今はまだマトイ様に対してだけ発動しているのかも知れませんが』

 え、え?

 ナーハルテ様ももしかしたら聖魔力保持者になり得る、って事?


『そうです、さすが! 良かった、とりあえず説明できて! 結論だけ言いますと、実際の聖魔力行使者、聖女様に一番近いかも知れないあたしも、仮に全属性を使えたとしてもという事ならば聖女候補のままでいられる可能性が高い、と大司教様と聖魔法大導師様はお考えなんです。とても有難いご高察なのですが……。但しその場合、ナーハルテ様も、後天の聖女候補になられる可能性があります。この件は今現在、マトイ様とじゅったん様と大司教様と聖魔法大導師様とあたしだけの誓約事項です。都度変更は生じるみたいですが。今はそこの所、よろしく! よっしゃあ!……5分ぴったり! 間に合った!』


 ……何だか、確かに悪い話ではないけれど。


 百斎さんと浅緋さんとセレンさんと寿右衛門さん、内々ですごい話をしてたんだねえ。


 いや、まあ、ナーハルテ様と聖魔力ってお似合いだけどね?

 あ、因みにナーハルテ様、闇魔力を含む聖魔力以外の全属性保持者で使用者なのです。

 凄いんだよ。……とナーハルテ様の事なら隙あらば自慢。


 あ、私? いわゆる属性者にはならないみたい。コヨミさんも、そうだったらしいし。


 とりあえず、大体使えます、みたいな感じ。


 調べて何か怪しい部分が出てしまうと薮蛇になるから、って言うのもあるみたい。


『絶対とは言えませぬが現状ではその様にお考え下さい。と浅緋殿がご判断されました』って、属性についての勉強中に寿右衛門さんが教えてくれたなあ。


『お二人共、よろしいですか。準備を始めようかと存じます』


 ばっちりのタイミングで、寿右衛門さんが話を振ってくれた。


 どうやら、ナイカさんの魔道具に関する法務全般の事務作業をギベオンさんが始める様だ。


「最終日に、と思っていたのですが、早めに進めた方が良いと皆様からの助言を頂きまして」

 ナイカさんが少し戸惑った感じで言う。


 時操魔法、凄い。

 セレンさんと私は普通にここにいた事になっているらしい。


「局長令嬢は開発ならば率先して行いますが、法務全般には疎い所がございまして。ご友人のナーハルテ様に強く勧めて頂けて正直助かりました。では、私は法務局出張所に参ります」

 ギベオンさんは小走り。でも笑顔。


「あ、ナイカさん。一つだけ良いかな」


「何でしょう、第三王子殿下」

 ギベオンさんが駆けていくのを確認し、さっきのセレンさんの会話中に思い出した事をナイカさんに告げた。

 まだ、ナーハルテ様のお力の恩恵が残っているのかも。


 それは、キーにホームポジションの印を付ける事。


 触れたら分かる印があれば何でも良い。

 配置がある程度変更可能なこの魔道具のキー配置なら、この文字というよりもこの位置に印を付けると決めておいた方が良いと思って、それをナイカさんに伝えてみたのだ。


「多分、この辺りになるかと思うのだけれど。必ずこの位置に戻る、がキーを見なくても分かればキー配列を覚えやすいでしょう?」


「素晴らしいご提案ですね、ありがとうございます! キーを見ずに打つ事ができたら入力速度も上がりますね」

「手触りで分かる印とか、ナイカさんがこれだ、と思うものにしてね。


「はい!」

『では、法務局のご担当者とのやり取りが終わりましたら、隣の休憩スペースで皆様休憩いたしましょうか』


 あ、それは良いね。

 カルサイト君も誘おうか。


「本人も喜ぶでしょうが、第三王子殿下、申し訳ございません。カルサイトは本日、説明予約が集中しておりまして」


 あ、そうなんだ。

 だったら軽食を差し入れてあげようかな。


「ありがとうございます、第三王子殿下! 今回の彼の魔道具は、本人は地味だよと申していましたが、かなり活用できる可能性がある、良い物なのです!」


 おお、ナイカさん、カルサイト君(の魔道具?)を高評価。


 カルサイト君、君の恋路は『キミミチ』よりも可能性有り、なのかも知れないよ。


『あたしの見立てだと、かなり可能性有り、ですね。きっかけがあれば、行けます!』


 ……いやだからセレンさん、君はどうして対自分、ではない恋愛の機微には敏感なのかな?





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