129-王立学院魔道具品評会六日目の私(3)

「ナイカ様のテントに行かれるのですか? 私もご一緒する事は可能でしょうか」


 素敵な魔道具の実演とお土産を頂き、次はナイカさんの所に行く予定と伝えたらセレンさんにこう言われた。


 勿論、問題は無いけれど。

 逆に、セレンさんはここを空けても大丈夫なのかと聞いたら、


「いらしてほしい方々全員にいらして頂けましたから。解説希望者の予約分も全て終わってます。じゃあ、準備しますね」

 との事なのでそれなら一緒に行動で問題無しとなった。


 セレンさんは準備開始。


 まずは隠蔽魔法。

 それから、亜空間展開をして魔道具を収納。写しが入った箱は自分のマジックバッグに。セレンさんのマジックバッグは、聖教会の紋章入りの白いハンドバッグだった。


 残されたのは掛けられた不在の札と、テーブルと椅子だけ。見事な手際。


「セレン様の魔法は、聖魔法以外のお力も素晴らしいのですね」

 ナーハルテ様が感心されている。


「ええと、今話せてるから、大丈夫、って事ですね。他言無用でお願いします。……実は、大司教様と聖魔法大導師様に確認して頂いたら、私、聖魔法以外の属性もかなりのレベルで使用可能な術者になれる可能性を持っているらしいんです」


 この件については、お二人から秘匿の為の制限魔法が掛けられていて、セレンさんが話して良い相手をその魔法が選別してくれるらしい。つまり、我々は大丈夫、って事だ。


 もしかしたら、私の転生の件をご存知なのかどうか、っていうのも鍵なのかな?とふと考えた。


「第三王子殿下のご推察、多分正解です。すみません、今はお二人の制限魔法の効果で読心ができてしまうみたいだから、気を付けて下さい。……あ、もう大丈夫です。そんな理由で、色々な属性の魔法を試している所なんです」


 私がこちらに転生してきてすぐに、魔力循環の為に色々試したみたいな感じなのかな。


 聖魔法は使役者が少ないから、ある程度の魔法はこんな聖魔法もあるんだね、で済まされるらしい。


『実は、あと一つ気になる事があるんです。後で秘匿念話か伝令鳥を送ります。……悪い話ではないから、安心して下さい』

 気になる事。何だろう?


 この念話は私と、それから寿右衛門さんも聞いているらしい。頷く寿右衛門さん。


『大丈夫ですよ、主殿』

 寿右衛門さんの太鼓判だから、まあ、大丈夫な話で、しかも後で良い、って事なのかな。


 ナイカさんのテントに向かう道すがら、セレンさんの話を皆で聞く事になった。


 実は、既にナイカさんとカルサイト君は揃ってセレンさんの魔道具を見学に来ていたらしい。


「ナイカの姿絵の写し、頂けるのか! ありがとう!」と言うカルサイト君に、

「何故そこで私なんだ? 可愛らしいセレン嬢か美しいナーハルテか凛々しいライオネア辺りにしたら良いのに。……まあ、それなら私も愛らしい外見の君を頂くよ」

 と、何ともイケメンな発言のナイカさんだったらしい。


「あと、ライオネア様とスズオミ様もいらして下さって! スズオミ様が気を遣ってあ、私のを選んで下さったんです!」


 興奮状態のセレンさんの背中にナーハルテ様が触れると、セレンさんは深呼吸。


「……ありがとうございます、ナーハルテ様。……。それで、ライオネア様が確かに素晴らしい開発をしたの肖像を頂くのは良いな。って、私の写しを選んで下さったんです! 品評会に参加して良かった、って心から思いました! 本当、スズオミ様って友達思いの良い方ですね!」


 うーん、スズオミ君。


 君、気配りができる友人としてセレンさんからめちゃくちゃ感謝されてるよ。

 分かっていたけれど、セレンさんの写し、欲しかったんだね。


 あと、やっぱり、って、ナーハルテ様がお優しいって事かな。

 それは、全面的に同意します。


『ええと、確か、騎士団副団長令息は聖女候補殿に婚約を申し込むべく、騎士団団長令嬢との婚約解消を目指されているのですよね?』


 ギベオンさん、少し遠い目。

 うん、そうです。

 やっぱり、ご存知だったんですね。

 ジンクさんからの情報か、眼鏡の時に聞いていらしたかのどちらかですね。


「あとは、聖女候補の皆とか、あと聖女候補君とか。もう一人の嫌な奴から真面目ないい聖女候補になった男の子も来てくれました。でも、何であ、私の写し絵を欲しがったのか分からなくて。間違えたのかな、って思ったんですけど、その時は珍しく説明希望の人が多かったから訊けなくて。後で交換してあげようかな、って思ってるんです」


 ……確か、本家がセレンさんのご実家に荒くれ者共を差し向けた事を聖教会本部に伝えてくれた男子聖女候補君だよね。


 ……それって、多分間違いじゃなくて。


「セレン様、その方はご友人になられた記念に貴女の写し絵を所望されたのではないでしょうか」

 あ、ナーハルテ様、上手い、お上手!

 良い表現です。


「……ああ、成程! さすがはナーハルテ様です! そう言えば、あ、私が名前を呼んだらすごく嬉しそうだった! そうかあ、記念ですね、交換はやめておきます!」


『……第三王子殿下、聖女候補殿はお父上の叙爵に伴う婚約のご準備中なのでは?』

 うん、その筈なんだけど。

 ギベオンさん、ますます遠い目ですね。


 多分、セレンさんはお父ハンダさんがもしかしたら貴族さんかあ、大変そうだなあ、くらいしか考えてないね。

 確か一代ではなかった筈だから、セレンさんもその貴族さんになるんだけどね。


「あちらがテントの様です、皆様」

 常に冷静、セイジさん。


『そうですね、黒白殿、時間を拝見します。……ああ、良い時間ですね』

 ひらり、と寿右衛門さんがテントの中に飛んでくれた。


 因みに、『キミミチ』のナイカさんが開発した魔道具は活版印刷用の活字を素早く配置できるという印刷補助魔道具。


 これも素晴らしい魔道具だったけれど、現実のナイカさんの魔道具はそれ以上にすごい物だった。

 品評会三日目に軽く挨拶をして、ちらっと拝見しただけだったけれど、あれは多分、タイプライターの様な物、だと思う。


 そうそう、『キミミチ』のセレンさんは日光写真機を開発していた。


 紙箱とレンズ、聖魔法を掛けて感光紙の様に変容させた紙を使って、上下逆の青写真みたいな作品を撮影。これはこれですごかった。ナイカさんにも好評だった。

 ただ……。


『皆さんの写真? を撮りたいって私欲だらけでしたよね。品評会のあの展開は魔道具開発が終わってから見せて頂きました。あれを見てから開発をしなくて本当に良かったです!』


 そうなんだよ、『キミミチ』の聖女候補さんは、攻略対象者に対する距離感とか感覚がいちいち問題なんだ。

 現実のセレンさんとは比べるまでもないけれど、本当にうーん、となる感じ。


「第三王子殿下、ナーハルテ様、聖女候補セレン様。皆様、ようこそ。こちらが私が開発した魔道具です。このキーを叩いて、印字をいたします」


 セレンさんと『キミミチ』念話をしていたら、寿右衛門さんと共に現れたナイカさんが、本当に誇らしげに自分の魔道具を紹介してくれた。


 やっぱり、タイプライター……だけど。


 これは、もしかしたら私の想像以上の魔道具だったのかも知れない。











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