128-王立学院魔道具品評会六日目の私(2)

「皆さん、説明無用って感じでしたけれど、私の魔道具は、こういう感じで絵を写す為の物です。もしも記念に、という1枚がありましたら是非お持ち帰り下さい」


 複写されたナーハルテ様の絵を下さい、って言ったら職権乱用かなあ、と悩んでいた私に(だけじゃないけど)この一言。


 セレンさん、貴女は聖女様か?

 あ、違う。聖女候補さんだ。けど、意外と近い存在だった。


『聖教会本部と魔道具開発局さんに相談して、複写が欲しいだけの人はあたしがいる場所を見付けられない様に認識阻害魔法を掛けてるんです。だから安心して下さい。是非、ナーハルテ様の入学直前の1枚をどうぞ』


 セレンさん……やっぱりかなり聖女様に近い存在なのかも知れない。


 そう言ってもらえるなら、と遠慮せずにナーハルテ様の1枚を頂く事にする。


「私はナーハルテ嬢を。皆は?」

「わたくしは、ニケ、ニッケル様を所望いたします。……じゅったん様とギベオン様とじいやはどうなさいますか?」

『では、私は主殿を』

「私は局長令嬢をお願いします」

「私は是非、お嬢様を」


 あ、そう言えばナーハルテ様、ギベオンさんと顔なじみらしい。

 多分、ナイカさん絡みで親交があるんだね。


「有難く頂戴します。局長にお渡ししたらきっと喜びます。……それにしても、汎用性がありそうな開発魔道具ですね。ただ、インクを吸収し易い紙に変容する魔法が聖魔法以外でも可であれば、魔石を使えそうですね」


 皆がセレンさんにお礼を言ってそれぞれが頂いた1枚を収納した後、ギベオンさんが言う。


 確かに、聖魔力持ちの方や聖魔力の魔石は少ないからね。


「そうなんですよね。でも、この魔道具は私と聖教会本部の方達しか試用していないから、これから色々試していきたいです。あ、ただ、これで写した紙はをしてしまっても相手に伝わったりしませんから、そこは安心して下さい」


 聖教会本部の方に立ち会って頂いて安全面に配慮しながら、私の写しで何回も試したんです、とセレンさんは言う。


 ライオネア様の獅子騎士様応援会の皆に贈られた姿絵の場合、ライオネア様に憧れ過ぎて意図せずに募りすぎた思いが暴走して呪いみたいにならないように、セレンさんが聖女候補の聖魔法で万全の対策を行っている。

 そういう配慮がいらない、皆が安心して持てる物だと言うこと。


 簡単に言うと、すごい絵、なのだ。


「もしかして、こちらの版木は八の街の名工の作では?」

 おや、とセイジさんが感心した表情で尋ねる。


「え、そうです。よくお分かりになられましたね! 八の街の版木彫りの工房代表のお爺ちゃんに頼みました! 事情を話してお願いしたら、あ、私の版木も、だったら受けて下さるっていう事になりまして」


「やはり。八の街の版木工房代表殿と言えば、コヨミ王国の名工10選に選ばれた方。さすがは聖女候補セレン-コバルト様。これからもお嬢様の事をよろしくお願い申し上げます」


「あ、はい、こちらこそ。編入当時はご心配をお掛けしたかと存じますが、学院生の鏡たるナーハルテ様のご指導も頂き、精進しておりますのでこちらこそ何卒なにとぞ


 割と聖女候補らしいきちんとした挨拶のセレンさん、自己紹介されたセイジさんが実は執事長のじいやさんだということはあまり驚いていなかった。


 年齢何百歳? な飛竜のカバンシさんが身近な存在だからかも。


 あと、セレンさんの写し、絶対欲しがる人、いると思うよ。

 特に、スズオミ君とかが。


 それにしても、版木工房にきちんと依頼して、というのは素晴らしい。これも雇用増に繋がりそうだ。


 江戸時代の浮世絵みたいに、安価で良い物が手に入るシステムになるかも知れない。


 そう言えば、良い初夢を見るために枕の下に入れる浮世絵、とかあった筈。

 枕の下にナーハルテ様、は押し潰したくないからベッドサイドに置いたらナーハルテ様の夢が見られるかなあ。


『……すみません、第三王子殿下。やっちゃいました』

 え、セレンさん、何? 何もされてないよ? むしろありがとう、しかないよ?


『いえ、主殿、ナーハルテ様を』

 ナーハルテ様、あれ、お顔が……赤い、かな?


『素敵なお考えです。わたくしもならわせて頂いても宜しいでしょうか?』

 念話のナーハルテ様、って事は!


『だから、すみません、って! お二人のデートが順調だから、お心が伝わったらいいなあ、って伝達の聖魔法が少し漏れちゃったんですよ! 大丈夫、ナーハルテ様とじゅったん様とあたししか聞いてません!』


 いや、多分リュックさんと黒白も聞いてるよ。


 ……うん。でも、まあ。


『是非そうして下さい。』

『は、はい。たいへんに嬉しく存じます……』


 こうやって、夢でも会えるかも知れない機会を作ってくれた事には感謝せざるを得ないよね、やっぱり。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る