127-王立学院魔道具品評会六日目の私(1)

「ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ第三王子殿下、お目に掛かれまして幸甚の至りに存じます。本日は、僭越ながら貴方様とお嬢様の傍に控えさせて頂きます。セイジでございます」


 魔道具品評会六日目、ナーハルテ様の本日の傍仕えさんは筆頭公爵家の執事長さん、セイジさん。


 灰緑色かいりょくしょくの髪と目の、巻絹さんの旦那さんだ。


「妻はマキとお呼び頂いております故、どうぞ私の事はセイジとお呼び下さい」

 執事服姿には一分の隙もない。正に完璧な身のこなし。

 これぞ、ザ・執事さん。


 巻絹さんよりは上の年齢に見えるけれど、それでも多分実年齢よりはかなりお若く見えている外見なのだろうと思う。

 少なくとも、じいやさん、とは呼びにくい感じ。お兄さん、だ。

 ギベオンさんと並ぶと同世代な雰囲気。因みに両人共にイケメン。


『マキ殿もそうでいらっしゃいましたが、かなりの技量をお持ちです』

 寿右衛門さんからの高評価。やっぱりそうなんだ。


「ええと、ナーハルテ、さ、嬢。見たい魔道具はあるかな」

「ありがとうございます、ニッケル様。わたくしはぜひ、ナイカとそれからセレン様の開発された魔道具を拝見したいです」


 イケメン令嬢様と聖女候補様。

 ナーハルテ様の大切なお友達の開発魔道具は私も見たいです。


『では、私が先触れに参ります。セイジ殿、こちらを頼みます』

「畏まりました」

 セイジさんと寿右衛門さん、呼吸合いまくりですね。


 実は、今日は緑簾さんはお休み。と言っても大事な仕事有りの別行動。


 三日目の冷蔵魔道具開発者コベリン君の開発魔道具の発展形にすぐに開発に取り掛かるべし、と魔道具開発局からの太鼓判を頂いたので善は急げとご実家がある三の工業区へと材料調達に向かってもらったのだ。


 勿論学院と開発局からの許可は取得済で、緑簾さんは警護役。コベリン君にはものすごく恐縮されたけれど、私も賛成した。

 寿右衛門さんも良いですな、と了承してくれたよ。


『本当に万が一の時には呼んで下さいよ!』

 と念押しして出掛けて行った緑簾さん。


 うん、浅緋さんに禁地へ連れて行かれた時、実は私の了承無しだったからね。


 あ、勿論、ちゃんとねぎらったよ。

 リュックさんがこっそりと沢山の餞別も渡しました。

 浅緋さんから渡されている緑簾さん愛用の巾着型財布に飲食物と路銀を空間移動させた(貴重品と日用品の収納空間を分けられるんだよ、凄い!)ので、コベリン君には内緒にできました。


 コベリン君は秘匿事項を漏らす様な学生ではないけれど、リュックさんや巾着型財布の凄さを知ってしまうと厄介な連中に目を付けられてしまう可能性もあるからね。


 そんな訳で、コベリン君の展示場所には今日から終日不在の札が掛けられているのです。

 たまに見回りもしてもらえるようにギベオンさんが手配してくれました。

 ありがとうございます。


「局長令嬢は前年度優秀開発者用のテント内ですね。……印刷関連なので聖女候補殿もその近くですね。テントの傍には休憩スペースもありますから、茶色殿が戻られましたら向かいましょう」


『休憩スペースが空いていなければ認識阻害魔法と亜空間展開魔法を使いますからご安心下さい』

 会話と念話の同時通話。

 ギベオンさん、相変わらずやり手の秘書さんですね。


『丁度、聖女候補殿がお手空きでした。ナイカ殿には予約を入れさせて頂きました。皆様のお越しをお待ちしております。集団での解説が多く、意外と時間が空いております、勿論皆様には個別でご説明申し上げます、との事でした』

 戻って来てくれた寿右衛門さんにお礼を言い、皆で進む。


 あちらの現世の様にチケットと引き換えにパンフレットや会場図を進呈、とかではないけれど、映像水晶で大きく映された映像が会場の色々な箇所に配置されている。

 氏名とか開発品名は無いけれど、例えばテント、とか印刷関連とかそんな感じできちんと示されているので、希望の魔道具の分野がはっきりしていれば、迷うことは少ないと思う。

 それに、案内役さんや案内所も多いし。


「あ、ニ、第三王子殿下、ナーハルテ様!ありがとうございます、見に来て下さったんですね」

『マ、よりは余程良いよ、でも気を付けてね。念話の術式のお礼は準備中なので待っていて。認識阻害魔法その他は任せて』

「うん、ナーハルテ嬢が是非にと。私も拝見したかったから。……で、この箱の中身は、その魔道具で作ったんだよ、ね?」


「はい、その通りです。ありがとうございます」

「素晴らしいですね、これは、王立学院の学院生名簿の姿絵を写されたのですか?」


 そう、セレンさんが開発した魔道具は、『キミミチ』にも出て来ないすごい物。


 黒一色とは言え、コピー機の様な物を開発したのだ……と、思う。

 箱に入っているのは、紙に写された馴染みのある顔ぶれ。


「はい、勿論学院への許可申請は聖教会本部から行って頂いて許可を頂戴しております。姿絵を写した紙は、工場で作られた一般向けの白い用紙です。これに聖魔法を掛けて、インクを染み込ませやすい紙に変容しました」

 因みに四角に切ったのはあ、じゃなくて、私の聖魔法です、と手刀ポーズ。


 小さなコピー機もどき? には蓋が付いている。

 これを写して、それから切りました、と見せてくれた元々の原稿はセレンさんが聖魔法で複写した全員の姿絵を集合させた物。

 やっぱり、馴染みのある顔ばかり。

 それに、何だか凸凹していて、版木みたいだね。


 ……あ、もしかしたら。


「この蓋は、インクを強くしぼる為の物なのですか?」

 そう、やっぱりそうだよね! さすがはナーハルテ様。


「その通りです! やってみますね」

 版木みたいな元絵にローラーで黒インクを付ける。

 それから、特殊な用紙を10枚程上に乗せて、蓋をして、ギュッと押してインクを染み込ませてから……搾る。

 蓋が光っている間は搾られているのだろう。

 光が消え、蓋を開けたら、そこには綺麗に写されたよく知る人達と、馴染みのある鳥の召喚獣。


『イケメン令嬢様達と私達攻略対象者達とセレンさんと、寿右衛門さん、だよね?』

『はい。じゅったん様には許可を頂いています。この間、お話をしに来て下さった時です』

『漸く主殿にお伝えできました』


 ……うん、すごく良い魔道具材だと思うよ? 発想が素晴らしい!


 ただ、このナーハルテ様の姿絵の写しを1枚下さい、って言うのはやっぱり職権乱用に当たるのかなあ。










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