125-王立学院魔道具品評会三日目の私(1)

『主様、ありがとう。予約をしてくれて。』


 今日は魔道具品評会の三日目。


 審査員だけに出品者の解説等の予約権があるのではなくて、安価ではないが高価でもない入場料金を払ってくれている一般の来場者、そして学院生の希望者にもその機会は与えられている。

 内覧会は審査員の予約希望提出日。

 そして、品評会初日が後者の人達の予約希望提出日で、二日から五日目までが出品者対応の解説並びに操作の日。

 六日目は自由日で最終日が七日目。この日に投票、そして翌日が発表。


 そういう訳で、私は本日三日目に解説をしてもらえる事になった。

 少し騒がしい午後の時間帯ではあるけれど、むしろ第三王子殿下は別枠で、とか早々に二日目のご希望の時間帯で、とか特別な計らいをされるよりも余程好感が持てる。


『キミミチ』の出品魔道具と同じ物は結局出品されていなかったけれど、出品者の魔道具達はどれも素晴らしい物だった。


 私の友人達も今は皆、説明希望者に対応している。

 セレンさんには『頑張って!』と念話を送った。そうしたら、『ありがとうございます!』と返ってきたよ。


 真の姿は眼鏡の魔道具、魔道具開発局局長秘書のギベオンさんが今日も随伴してくれている。


 因みにナーハルテ様とのデート(という事にさせて下さい)は六日日。

 また巻絹さんにも会えるのかな。


 あ、私が説明希望を提出したのは、内覧会で緑簾さんが物凄く気に入っていたお酒用の冷蔵魔道具。

 見た目はスタイリッシュなストーンカラーの引き出し収納。ただし、めちゃくちゃ重い。


 でもこれ、本当に便利だと思う。

 引き出しを引いてお酒を入れると、設定した好みの温度に冷やしてくれる。

 さすがに設定は自分でしないといけないけれど、二段組みで、上段は少しだけ、下段は冷え冷えとかにも出来るのだ。お酒好きにはたまらない筈。


 開発者は、高等部1年生で中上クラスの学院生コベリン君。

 何でも、三の工業区で魔石採掘と加工の会社を経営するご両親と社員の皆さんの応援を受けつつ、学院生として日々精進中らしい。


「まさか、第三王子殿下の召喚獣様に僕の開発した魔道具をご覧頂けるなんて……。感激です!」


『いや、本当に便利だと思うし俺はすごく欲しい。ただ、俺なら軽々なんだけど、普通の奴には重たいよな、これ』

 そう。便利な魔道具の難点がこれ。

 緑簾さんやハンダさんや副団長さん達なら良い温度で酒が飲める!筋トレにもなる! とかでむしろこの点も大好評だと思う。


 でも、正直普通の人には厳しい重さ。けっこう筋肉と体力はある筈の私でも引き出しを引くのがやっと。

 そもそも、この魔道具を学院の魔道具開発室から会場(魔道具開発局の広大な敷地。普段は実験等に使用されている。会場近くには許可を得た屋台も出ていてこちらは出入り自由)まで移動させるのも難しかったんじゃないかな。

 それを尋ねたら、魔道具開発局の方達と学院の先生方が協力して重力魔法を掛けて軽くしてくれたらしい。


 因みに、材料の魔石は、コベリン君の為に、と三の工業区から精鋭の方々がワッセワッセと運んでくれたんだって。

 インディゴじゃああるまいしとは思ったけれど筋骨隆々の皆さん達の様だし、割とノリノリだったのかな。


 そう言えばコベリン君、初対面の緑簾さんに全く物怖じしないどころか、むしろ安心感がありますみたいな感じだった。

 きっと、慣れてるんだね肉体派さんに。


「そもそも、会社の皆さんが作業中に快適な水分補給が出来る様に、と考えたのが始まりです。保冷の魔法を付与し易い魔石を選び、簡単な保冷の設定が可能な魔道具を付けました。氷か水の魔力又は魔石が必要ですが、皆さんに好評でした。だけどやっぱり、一般の方には重量が……」


 因みに会社の皆さんは

「動いた後にキンキンに冷えた飲み物、ありがてえ!」「俺は少しだけ冷えてるのが好きだから助かるぜひ!」と重さなんてなんのその、と緑簾さんと同じ反応だったそうだ。


 ……惜しいなあ、本当。

 そもそも、コベリン君が学院の入学試験に合格できたのは出品した冷蔵魔道具の基礎になったその魔道具の設計図が認められた事が大きかったらしい。

 それくらいすごい魔道具なのに。

 何とか軽量化できないかな……待てよ?


『……そうか、そうだ! 軽くしちまえば!』

『良く出来ましたな、緑殿


 あ、寿右衛門さん。ありがとう、音声と認識阻害の魔法を掛けてくれたんだね。


『ほら、コベリン君、とりあえず小さな瓶一本分の量で考えてみな!』


「え、あ、そうか、そうですね! そうだ、それくらいの大きさの魔石なら軽くできるし、逆に熱いままにも出来るかも! ありがとうございます、緑様!大きさはコップやカップよりは縦長にして、蓋を付ければこぼれにくいし!」


 コベリン君はそのまますごい勢いで制服のポケットに手を入れて、手帳を出して鉛筆を物凄い早さで動かし始めた。


 多分だけれど、あちらの現世の真空断熱タンブラーみたいな物を設計しているんだと思う。


 普通のコップやカップとは異なり、本体を二層にして層の間に真空を挟む方法。これなら冷蔵だけでなく温存もいける筈。


 勿論、冷蔵魔道具が完成したら最高だけれども、この試作が上手くいけば進化した水筒なんかもいつか開発されるかも知れない。すごい瞬間に立ち会えたなあ。


 この魔道具開発に関する情報は、さっき寿右衛門さんが遮断してくれたから絶対安心。


 万が一、今後コベリン君の案を盗用されたとしても魔道具開発局局長秘書さんと精霊王様直参精霊獣殿の直弟子精霊獣さんと第三王子が見届けているから大丈夫でしょう。あ、第三王子殿下の召喚獣殿もいますし。


 そうだ、法務局出張所にきちんと話を通しておいてあげよう。


 特許関連や就職に関して学院生が損をする事がない様にと法務局の方々がこの品評会の受付と並んで控えてくれている我がコヨミ国の素晴らしい事……って、寿右衛門さん、さすが! もう羽ばたいてる!


『若人の才能の輝きに一役買えます事が嬉しいのですよ』


 あ、ギベオンさんが寿右衛門さんに拍手している。


 やっぱりこの二人、気が合ってるよね。






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