124-王立学院魔道具品評会前日の私

「第三王子殿下、ようこそお出で下さいました」


 魔道具品評会の前日、関係者と審査員の内覧会。

 魔道具開発局局長さんの秘書さんギベオンさん(クール系だけど眼鏡が似合う物腰柔らかな方)が、わざわざ案内を買って出てくれた。


 寿右衛門さんとは顔なじみらしく、和やかだ。


「開発局にいらして頂いた時にはご挨拶もせずに申し訳ございません」

 と言われてしまったけど、多分ジンクさんに代わって色々雑務とかをされていたのではないだろうか。何だか既視感があるし。


『……まあ、仕事はしておられましたが』

 ん? 寿右衛門さん、何か言った?


「第三王子殿下、どうぞこちらに。審査員をお引き受け頂けました事を局長も喜んでおります。もし審査以外の不具合がございましたらいつでもお申し付け下さい。局長に直接伝えます」


 ギベオンさんが、ネクタイのタイピンを示した。

 美しい螺鈿細工かな?が施されたそれからは魔力の気配。

 ああ、通信魔道具だ。


 周囲にちょっと落胆の雰囲気が漂ったのは、もしかしたら第三王子殿下と縁を繋ぎたいという人達がいたのかも知れない。

 いや、多分話し掛ける雰囲気ではないと思うけど。何しろ本日の第三王子殿下の護衛担当は。


『主様! 色々面白そうな魔道具があるよな。来年度は主様も出品したらどうだい?』


 お久しぶりの緑簾さん。

 浅緋さん直伝の修行、一大浄化の警護、色々たいへんだった私の大切な仲間、鬼の召喚獣さん。


 差し入れたお酒は身を清めた後にハンダさんやカバンシさん達と舌鼓を打ってくれたらしい。

 勿論カンザンさんも。

 こんなに良い酒なら、とお手製の特上おつまみがたくさん供されたそうだ。


 緑簾さんには内覧会が終わったら労いの意味で屋台でたくさん奢ってあげよう。


 確か、お酒も出ていた筈。

 新しい運動服、ジャージも浅緋さんに用意して頂いたんだよね。

 格好いいよ、と再会時につい言ってしまったら、男前が上がりましたか? って言われたからうん、益々男前になって格好良くなったよ、って返しておいた。


 緑簾さん、びっくりしていたけれどそれくらいは褒めてあげないとね。

 物凄く頑張ったよ。


 あと、緑簾さんは黙っていたら迫力の肉体派イケメンです。

 今も素敵、とか格好いい、とかすごい筋肉……とか囁かれているけれど多分本人は気付いていない。


『でも、眼鏡さんもすごいよな、人型が取れるなんて』

 感心している緑簾さん。

 え? 確かにギベオンさんは眼鏡がお似合いだけど、ちゃんと名前は伺ってるのに。


「さすがは第三王子殿下の召喚獣殿ですね」

 あれ、ギベオンさんも感心されている?


『ええ、まだまだ未熟と言われますが、勘が卓越しております』『主殿、ギベオン殿は魔道具開発局局長殿ご愛用の眼鏡でいらっしゃいます』


「……本当、なんだよね。寿右衛門さんが言うんだから」

 同時念話を有効活用の寿右衛門さんもすごいのだけれど。

 魔道具開発局局長閣下ジンクさん、すごい。

 すごすぎて何て言ったら良いのか。


「皆様にでしたらこちらからお教えしても良い、と局長も申しておりました。じゅ……茶色殿には元々解析されておりましたし、リュック殿と黒白殿も感じておられましたね」


 本日は、王立学院制服の私に、サコッシュ風の肩掛けに変化したリュックさん。

 黒白は普通に腕時計仕様。

 あ、靴は寿右衛門さんが磨いてくれた黒革靴です。ピカピカ。


「私だけかあ、全然気付かなかったのは」

「いえ、初対面ではないかも、と感じておられましたのはさすがにございます。今日は軽く出品作品をご覧頂いて、明日からまたお好きな時にいらして下さい。もし動作確認をしたい物がありましたらご遠慮なさらずに」


 明日からは開発者が実際に魔道具を作動させたり、説明を請け負ったりと賑やかになる。


 現地に来られない開発者は映像水晶での説明も許可されているが、その場合、水晶は全て魔道具開発局からの貸与品にしないといけない。

 虚偽映像を用いる者が出ない様にという配慮からだ。


 また、魔道具の出品者の名前は明記されていない。

 番号と、魔道具と魔道具の名称と、説明書きがあるだけ。

 かなりの制御魔法が掛けられていて、無謀な操作等は不可能になる為、審査員が自由に操作も可能。

 そして、出品者に操作や説明を依頼したい場合は、受付に出品者の操作や説明を希望する旨を申し出ておく必要がある。


「どうでしょうか、何か触れてみたい物はございますか」

 このギベオンさんが、あの少しフレームが太い眼鏡。

 正直、ギベオンさんに触りたい。


『……主殿、周囲に誤解されます故、魔道具開発局局長殿に個人的にご依頼なさいませ。』

 その通りですね、すみません。


 ただ、私は『キミミチ』で品評会を体験しているから、興味がある魔道具って、もしかしたら主要人物さん達の製作した物の可能性が大なんだよね。

 それって、審査員的に贔屓になるかも知れないから良くない気がするのだけれど。


 そもそも、事情をご存じな筈のジンクさんが何故私を審査員に推薦されたのかも正直分からないんだよね。


『その辺りのご心配はご無用です。元々、魔法局所属の者の血族で、魔道具よりは魔術開発や研究を得意とする学院生なども魔法局のごり押しで出品者となっている様な事もございますから。……勿論、本人の実力による者がほとんどです。また、あまりにも目に余る者はこちらで対処しております』

 あ、ジンクさん。

 ギベオンさん、タイピンの通信を繋げていたんだね。


『私も念話の方が良いですか?』

『ご配慮ありがとうございます。できましたら念話をお願い致します』


 音声通話だけじゃなくて念話も拾えるってすごい精度。さすが。


「まあ、要するに第三王子殿下は知り合いに贔屓をなさる様な方ではないからご自由にご覧下さいって事ですよね、魔道具開発局局長閣下?」


 ギベオンさん、殊更大きな声で周囲に聞こえる様にしている。

 一瞬、ギクリとした一団があるのを寿右衛門さんが見逃さず、瞬間転移をして、またすぐに戻って来た。


『……ありがとうございます、じゅっ……茶色殿。後から私も直接伺います』

『いえいえ、どういたしまして。若い才能が羽ばたく場所に邪な感情を持ち込む輩は許せませんからな』


 ……ジンクさんと寿右衛門さん、仲良しだね。


『主様、すげえよこれ! 酒の種類ごとに温度を変えて冷やせる冷蔵魔道具だって!』


 あ、緑簾さんはお酒用の冷蔵魔道具に興味があるのかな。


 うん、そうだね。

 緑簾さんを見習って、私も自分が興味を引かれる魔道具を探してみる事にしよう。


 あの剣術大会の謎展開みたいに、『キミミチ』の魔道具とは異なる物を出品、なんて事もあるかも知れないものね。





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