123-念話術式と魔道具品評会と紅ちゃんとあたし
『キャプテン、しんちょくはいかがですか』
あ、紅ちゃんだ、かわいい! ようこそ!
今、進捗って言ったの? 言ったよね!
すごいね、難しい言葉と言葉遣い。
あたしこと、聖女様に最も近い(かも知れない、らしい)聖女候補セレン-コバルトの伝令鳥のふわっふわっなヒヨコちゃん(多分鶏さんじゃないのだろうけど)、紅ちゃん。
さすがに第三王子殿下の伝令鳥、精霊王様の直参高位精霊獣殿の直弟子、じゅったん様みたいに常にあたしの傍に、とはまだいかない半分修行中の子。
たまにこうやってこんにちはをしに来てくれて、めちゃくちゃかわいい。ふわっふわ。
『今日は茶色ちゃまに第三王子殿下からの伝言を預かりま
かわ、かわいい……。
たまに出るこの言い間違いがまたかわいいんだよね。
『……聖女候補殿、我が主より念話術式の試用を報告させて頂きます』
……あ、助かるなあ。
あたしが構築しつつある念話の術式、聖魔法の魔力保持者以外だと魔力がかなり強くないと使用不可能なんだよね。だから、試用して頂けるのは本当に有難い。
急いで紅ちゃんが再現してくれた言語を書き留める。
聖魔法の即記魔法と速記魔法の二重掛け、便利。
『……以上でちゅ。後は、第三王子殿下からのお言葉です』
でちゅとですが混在してるのがまたかわいい。
『……セレンさん、術式の仮定式を教えてくれてありがとう。術式が完成して、術式として承認されたらまた教えて下さい。あと、何かお礼もしたいから、よかったら考えておいてね。聖教会本部の準々貴賓室に私のレターボックスが設置されるからその中に投函してくれても良いし、紅ちゃんからでもどちらでも。じゃあね!』
相変わらず、紅ちゃんは伝令鳥としてのお仕事だと流暢だよね。
でも、第三王子殿下、お礼とか。
あたしがまだまだ返せてない分が多いんですけど。
返す恩が山積み。でも、何かリクエストしないとそれはそれで気にされるよね、あの方は。
『レターセットとペガサス郵便の切手はいかがでちゅか、キャプテン』
……紅ちゃん、冴えてる!
良いねそれ。
第三王子殿下ならスズオミ様みたいに何でこんな枚数! みたいな事もないだろうし。
『お褒めに与り光栄でちゅ』
やっぱりかわいい。
「じゃあ、紅ちゃんがじゅったん様にお伝えしてくれる?」
『はいでちゅ』
よし、第三王子殿下から頂いた内容も付けて、術式の応用範囲を増やして再構築したら……うん、素案が出来た。
これをきちんと清書したら聖魔法大導師様にお見せして、承認を頂けて術式申請が認められたらあたしの術式になる訳だ。
勿論、素案があたしってだけだけれどね。
それでも凄い事。どきどきする。
聖魔法大導師様や大司教様(!)、現役最強冒険者のあたしのお父さん、召喚竜カバンシ兄ちゃん、第三王子殿下の召喚獣緑さんに、地竜の血を引く
そんなすごいメンバーは皆で禁地の浄化、それに伴う様々な活動を無事に終えられて、今は少しそれぞれの本来の業務を抑えめにしておられるから、あたし達聖女候補も、聖教会本部での聖教会本部主催のバザーとか色々なお手伝いが多くなっている。
皆良い子達だから、皆様の為、修行の為にと誠意を尽くしていて、あたしも身が引き締まる思いだ。その中で、選抜クラスの編入試験勉強がたいへんだろうからと気を遣ってくれる事も多くて、尚更あたしも頑張ろう、という気になる。
そうだ、そう言えばあいつ!
すっごい真面目に聖女候補の業務をこなしてるの!
タンタル・フォン・バリウム。
子爵令息なのを自慢してくる嫌な奴だったのに、平民いじめの断罪の一端を担ったあたしを逆恨みした連中の事を聖教会本部に伝えてくれた(自分の家の本家筋なのに!)だけでなく、聖教会本部に戻ったあたしに謝罪して、きちんと礼儀正しく自己紹介をして、
「過去の僕の愚かな点をすぐに許して頂けるとは思いません。本家の行いも、分家としてお詫びします。その上で、もし、僕の名前を呼んでも良いと感じて頂けましたら、是非お呼び下さい」
とか言われちゃったんだよ!
一応、あたしの方が年上だし、八の街にたまにやって来る暇な貴族連中ならもっともーっと嫌な奴等もいた(そして大半はお父さんやカバンシ兄ちゃんや自警団の皆に投げられていた)から、これでぷんすかしてたらあたしの方が大人げない奴になっちゃう、と思ってバリウム様、って呼んでみた。
そしたら、ぱあって笑顔(あ、最近かなり美形慣れしてるあたしから見てもかわいい系イケメン)になって、
「次は貴女にタンタル、と呼んで頂ける様に励みます!」
って、本当に真面目に聖女候補のお勤めに励み出して、元々頑張り屋さんだった司祭様になりたいもう一人の聖女候補君に一目置かれるくらいになって、今では本家の代わりに治める事になった家のお仕事の補佐まで頑張ってるらしい。
うーん、人って変われば変わるもんだ。まあ、第三王子殿下の変わりっぷりがあるから、あいつ、じゃないあの子、バリウム君の良い意味での変わり様も皆に好意的に受け入れられているみたいで良かった、良かった。
『……誰が彼を変えたかは、全く気付いていないんでちゅね』
え、紅ちゃん何か言った?
『いえいえでちゅ。キャプテン、魔道具品評会に何か出してみないかってお誘いされてませんでちたっけ』
あ、そうだ。
普通クラスのクラスメート、カルサイト・フォン・ウレックス様に誘われていたんだ。
「選抜クラス編入への足掛かりになるかも知れないから、君の分の品評会参加申請をしておいたよ」って言われて、参加許可証も。
王立学院の魔道具品評会って、学生の品評会とは言えレベルが高いから魔道具開発局の方とか大人気で就職希望者が多い工房の技術者さん達も見学に来られたりして、将来の就職先が決まる学院生とかもいるから参加許可証を貰うだけでも書類審査とかがたいへんなんだよね。
カルサイト様は魔道具開発局副局長のご令息なだけじゃなくて、魔道具関連の科目は婚約者、魔道具開発局局長令嬢ナイカ・フォン・テラヘルツ様に次いで優秀な成績だから、実力で参加許可証を得た筈なのだけれど、何故あたしが? 変わった魔道具枠とかかな。
バリウム君もかわいい系だけど、カルサイト君のかわいさはもう、本当にかわいい! って感じでものすごくかわいい。あと、話してみたらナイカ様の事が大好きな所もかわいかった。
そうだ、『キミミチ』のあたしはカルサイト様がナイカ様大好きなのを分かってて、それでも品評会で面白魔道具をナイカ様に認めてもらえたから二人の婚約は解消、ってなんじゃそりゃな感じだったなあ。
あ、『キミミチ』の色々は聖魔法大導師様が術式構築の息抜きに、って映像水晶見せて下さったの。
本当、あたし程度が皆には、とか調子に乗ってた編入直後のあたし、思い留まってくれて良かったよ。
何かの間違いで『キミミチ』のあたしみたいになってたら、なんて考えたくもない。
『……キャプテン、キャプテンが欲しい魔道具は何でちゅか?』
魔道具品評会の事を考えていたら、思考がぐるぐるしてきたあたしに紅ちゃんが助け船を出してくれた。
……あたしが欲しい物、か。いいかも。
「ありがとう、紅ちゃん。ちょっと考えてみるね。」
『頑張れでちゅ!』
ありがとう、か。ある意味では『キミミチ』のあたしがいてくれなかったら、今のあたしはいなかった訳だ。
「ありがとう」
誰に聞かせるでもなく、あたしは呟いた。もしかしたらどこかにいるかも知れない『キミミチ』のあたしに届けばいいなとちょっとだけ思ったのは、内緒ね。
……と、思っていたら。
『あ、そうでちゅ! 朱色殿と朱色殿のご主人ちゃまからお預かりした王子様からのお手紙!どうぞでちゅ!』
「王子様?あ、あ、あちらに行かれた王子様! うわ、嬉しい!」
それは、内緒にしなくて良い、ありがとうの相手からの物。
ちょっとだけまぬけだった、でもすごく素敵な王子様からのお手紙。
「ありがとう、王子様、紅ちゃん」
今度こそ、あたしははっきりとお礼を言えたのだった。
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