117-大書店支配人さん達からのお土産と私達

「本日は、誠にありがとうございました。……こちらがご希望の品にございます」


 ゆっくりと軽食を堪能させてもらい、それからまた移動階段で最初の階に移動したら、支配人さんがコの字型のカウンター内で待ってくれていた。


「魔獣図鑑の携帯版が三冊も。ありがとうございます。……では、わたくしはこちらを所望いたします」

 ナーハルテ様が選んだのは、召喚士学会が編集をした物。召喚可能な獣さん達の解説が詳細なんだって。


 じゃあ、と図柄が多い物を私が頂く事にした。

 支配人さん曰く、残り一冊は一番概略が掴みやすい物との事だから、スズオミ君にあげよう。


 そうだ、ニッケル君からのスズオミ君宛の手紙、私が預かって本と一緒に寿右衛門さんに頼めば良いのでは?


 あ、セレンさんにも念話の助言のお礼をしなくちゃ……。


 今度寿右衛門さんに頼んで、ヒヨコの紅ちゃん経由で希望を訊いてもらおうかな。術式が完成したら、セレンさんも選抜クラス編入試験合格なのかな?


『そうですな。コッパー侯爵令息へのお届けと聖女候補殿への伝達の件は畏まりましてございます』『……では、お支払いを』

 おお、同時念話。さすがは寿右衛門さん。


 カウンター内に入ってさっそく交渉を始めている。寿右衛門さん、手腕に期待してますよ。少しでも多く支払って下さい。


「次回のご来店を支配人一同、心よりお待ち申し上げております。……私は代表支配人にございます。先程まで、第三王子殿下のお品をお選びになっておられました次第です。……そしてこちらは、ご来店の御礼としまして、ご婚約者であられますナーハルテ様に私共からの心ばかりの品でございます」


 移動階段で現れたのは、あの紬の着物の支配人さん。小脇に書物、片手に小袋。


 あの小袋……縮緬ちりめんかな。


 巻絹さんが品物を恭しく受け取り、ナーハルテ様にお渡しした中身は。


「……黒白! ……の逆!」


 ナーハルテ様が開かれた小袋の中を見せてもらったら、思わず声が出しまった。


 白黒反転、黒白別バージョン。

 時計針と時を示す部位の色は、白金しろがね。獣の皮ベルトは、黒色。


『このものの名前は白黒びゃっこくです。そうお伝え下さい』

 あ、黒白。

 あれ、私の時計針達、白金はっきん色になった? 

 しかも皮ベルト、ナーハルテ様と同色の黒?

 確か今まで皮ベルト、私の腕時計の元々の色だったよね? 


 因みに元はレンガ色。

 実はお姉ちゃんとお揃いで、あちらのそれは赤レンガ色。


「黒白様とは異なり、時を示す事を主にいたしますが、指輪時計に変化する事や身体への擬態は可能に存じます。これからまた変化するやも知れませぬが。……また、これを付けて頂きますと、自身の召喚獣殿のみならず、お互いの召喚獣殿との通信も可能に存じます。勿論、黒白様にも同様の機能を付与させて頂きました。転移陣の組込はご随意になさって下さい」


 ……それって。

 お互いの召喚獣を介してならスマホ通話みないな事も可能になる、って寿右衛門さんが言ってたあれ? 

 そもそも、あの状況でいつの間に?


「さすがに召喚獣様の双方向対話を代行する様には参りませんが、例えば、急場にお呼びしたい、等の際にご活用頂ければと」


 懐かしのポケットベルみたいな感じかな。いや、ポケベル使った事はないけど。


『その通りに存じます』

 あ、やっぱり。

 いや、紬の支配人さん、本当に色々ご存じだよね。


『主殿、腕時計を付けて差し上げねば』

 あ、そうか……そうなの?


「……ナーハルテ、さ。それを、私が貴方に付けても良いで、かな。そして、この時計の名前は、白黒。私の黒白と揃いで、だよ」


「……はい、お願いいたします。良い名前をありがとうございます」


 うわ、緊張する。

 この黒色、もしまといの事を知ってる他の人に見られたら独占欲の塊って言われそう。


「指輪時計と腕時計と、どちらか好きな型を思い浮かべてくれたら、その通りになるからね。腕時計は珍しい形だけれど、多分これから流通する様になる予定だから。装飾品を付けてはいけない場所では指や手首に擬態するからね」


「……腕時計にいたします。全てが美しいですが、この黒曜石の皮のベルトの色が、最たる美しさですから」


 良かった。

 黒白の元の指輪を見ているから、あまり驚かれていない。


 ……あれ、ちょっと待って!

 こ、黒曜石って、あの、断罪劇場の時に纏いたい、って仰ってた、まといの、色?


『左様にございます。腕時計のままでも、指輪時計になって頂いても、わたくしの身体に擬態して下さっていても、まとい様のお色を纏えております事を忘れずにいられます。嬉しいです』

 わ、私も。嬉しい。です。


「……無論、防水防火、自動浄化、自動回帰、所有者守護等の魔法付与はしてございますので。常に携帯頂きます事に問題はございません」

 ありがとうございます、紬の支配人さん。


 ……いや、ね。私。

 顔、王子様の顔、できてるかな。にやけてない?

『主殿、ここで何か一言! ですぞ! お忘れ無き様に!』


 あ、そうだね、うん。

「……ナーハルテ、私の黒白も変化したんだよ。……ほら、文字盤、針も見てほしい。……貴方の色。大切にするから。あと、転移陣組込すると便利だよ? 貴方は組み込まずに行かれるところも多いとは思うけれど、それでも……」


 ……良いよね、婚約者っぽいよね。

 うん、私、頑張った!


「……失礼いたします、第三王子殿下」

 あれ、巻絹さん。どうしたの?


「……お嬢様には些か、強い刺激になりました様でございます。転移陣のご説明につきましては誠にありがとうございます。支配人様、あちらの椅子を拝借しても?」


「ああ、どうぞどうぞ。今、冷たい物をお持ちしますね」

「……ありがとう、ばあや。歩けますよ、大丈夫。……ニッケル様、すみません。少しだけ座ってもよろしいですか?」


「あ、ああ勿論」


『ナーハルテ様は念話への集中と主殿のお言葉で、少しだけお疲れになられましたな。……大丈夫でしょう。何しろあのお方は、我が師が直々に魔力を流された方ですから。……しかしながら、主殿』


 え、私? 私なの? 減点対象?


 転移陣の説明、簡素過ぎた? いや、ナーハルテ様なら多分もう転移陣無しとか出来るけど必要なければなさらない、とかかと思って!


『いえ。転移陣につきましてはあれでよろしいかと。然しながら、他の点におかれましては無自覚であられます所が少々、と思いました次第にございます』


「……そうですな。……こちらでよろしいでしょうか」


「……ですね。ありがとうございます、お嬢様、こちらにおかけになって下さい。……ええ、よろしいですね。支配人様より冷えたハニージンジャーティーを頂きました。どうぞ」

「頂きます。……いえ、わたくし有難きお言葉と存じます」


『ニッケル様、やり過ぎ』

『……フォローし難いですね、確かに』

『……これも経験ですから』


 ねえ、皆。

 寿右衛門さん、紬の支配人さん、巻絹さん、リュックさん、黒白、おまけにカウンター内の支配人さん迄?


 リュックさんなんか、話すの苦手なのにめちゃくちゃ流暢なツッコミだよね?


 私、あれでも頑張ったんだよ!


 まあ、でも一応、ナーハルテ様喜んで下さったみたいだからいいや。


 ……いや、あのね、正直なところ、私も念話にするべきだったのかな、とは思ったけどね。うん。







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