115-再会の寿右衛門さんと私
「ご所望の本はこちらにご用意してございます」
ナーハルテ様と巻絹さんの購入分は既に支払いとリュックちゃんへの収納が終わっていて、先に食事所に向かわれたとの事だった。
あ、お姉様へのお祝い分を含めて無事に全額筆頭公爵家がご負担されたそうです。
半円上のカウンターの上には私がお願いした書籍や論文集、他にも多分お勧めの物が積まれていた。
精霊界に届けられた物の中で気に入った分も揃っている。
他には……。
『大書店所有者様の手引書』? 用意してくれてたんだ!
あ、『コヨミさまとすずめさんのたび』もある。
もしかしたらこれがあの書棚の一冊かな。
何となく魔力を感じるし。
コヨミさん、この絵本だとシマエナガの姿になっていて、フワフワした感じ。白様の真っ白とは違って、現世で私達が知っているシマエナガの姿。
絵がすごくかわいい。
寿右衛門さんは本物に似ていて凛々しいね。この本だけは常にリュックさんに預かってもらおう。
あ、『ご家庭で楽しむお茶会レシピ』『軽食の作り方』等々は、私の食い意地対策ですね。
ありがとうございます。嬉しいです。
『お疲れ様でした、主殿、黒白殿。』
『お帰りなさい。……おめでとう、黒白
「ただいま。心配かけたかな」
『ありがとうございます、茶色さん、リュックさん』
『大丈夫です』『大切な本の預かりは任せて!』
実りが多くて素敵な体験ができて、我々としては感動の再会なのだけれど、一つだけ。
「寿右衛門さん!」
『は、はい!』
あ、私、何だか主らしくしてるけれど、ここ、防音とかはどうなっているのかな。
「完璧にございます、
良かった。あと、ありがとうございます。
……でも、やっぱりそう呼ばれるのね。
「……私が色々悩んでた時、空前絶後にはならないからって安心させてくれたけど、あれ、もしもの時は私を
『え、ええと、いや、は、いえ』
目に見えて狼狽する寿右衛門さんって、多分二度と見られないのでは?
「……とにかく、そもそもそれだとあちらに戻る、じゃなくて無理矢理飛ばす、でしょう? 今はもう、
『……は、は、はい!』
元々、寿右衛門さんを責めるつもりなんてなかった。
どちらかと言うなら、現世でコヨミさんと旅をして、コヨミさんが異世界への旅立ちを決意する手助け他を色々してくれた後、恐らく魂となったコヨミさんを待ちながら現世で生を終えて、異世界に転生して長い間修行をしつつ暦の末裔を待ってくれていた寿右衛門さんに感謝以外を伝えるつもりはないし。
ただ、コヨミさんは魂を半分こちらに残して愛する人の所に戻ったけれど、私はここで、大好きな人と大好きな皆さんと一緒にいたい。
その中には寿右衛門さんも存在している訳だから。それを伝えたかっただけ。
色々引っくるめて、ありがとうね、寿右衛門さん。
本当に伝えたかったのは、お礼の方だよ。
『……申し訳ございません、何故か、私の周囲のみ、一瞬だけ空調が乱れました』
うん、そうだ。
私の周りも一瞬だけ完璧な筈の空調が乱れたみたい。
お互い少しだけ空調のせいで涙が出てしまったから、お揃いになった顔を整えて。
よし、綺麗な第三王子殿下と伝令鳥さんの出来上がり。
「お時間になりましたので、飲食の場にご案内いたします。……特別に、フレンチトーストに耳の部位もお付けいたしましてございます。……第三王子殿下、皆様方」
あ、あのおいしい食パンの耳部分?
リクエストに応えてくれたんだ。嬉しい。
呼び方も、最初の形に戻してくれたね。
「あ、そうだ念の為。私達の分の書籍等のお支払いは必要ございません、とか言わないで下さいね、支配人さん?」
「……やはり、お支払い頂かないといけませんでしょうか」
やっぱり! いくらなんでも!
払わせてよ!
『……お気持ちは理解できます。しかしながら、支配人殿、せめて、何割かお引き頂いてでも支払いはさせて頂きたく』
「……他の支配人とも相談をさせて下さいませ。とり急ぎ、お約束の場へのご移動をお願い申し上げます」
苦渋の決断、な感じの支配人さん。
責任感からかな、私には払わせたくないんだね。
ちょっと申し訳ないけれど、少しでも支払わせて下さい。
『よろしくお願い申し上げます。それでは、参りましょう。主殿、リュック殿、黒白殿』
「そうだね」『『はい』』
やっぱりさすがだね、寿右衛門さん。
私だけだったら流されて支払いが難しかったかも知れない。
寿右衛門さん、本当に頼りにしてますよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます