111-大書店の秘密の書棚と黒白と私
こちらから、と言われて飛ばされた
支配人さんの転移魔法なのかな。
居心地が悪いとか、空気が淀んでいるとかではない。
少し窮屈な気配が漂っているだけで、むしろ清浄と言うのかな、清潔感に溢れている空間。
そうだ、転生の時に白様と歩いたあの道に似ているんだ。
あの道は広々としていたけれど、ここは空間自体が狭いのだろうか。
さっきまではあんなに大量の本や紙類があるのに埃っぽさとかを感じなくて大書店さんの空調設備すごいなあと感心していたのだけれど。
今は何て言うのか、使われていなかった空間をこじ開けました、みたいな印象を受けた。
『左様にございます。貴方様が直参高位精霊獣殿と共に渡られました尊きあの道を例えにお出しになられますと、恐縮するしかございません。当方、大書店の空調設備は風魔法の魔道具と電気の空調設備を合わせて用います事で空気を循環させております』
この念話は支配人さんだ。
やっぱり、悪意は感じられない。
むしろ、敬意を持たれている?
『はい。貴方様だけの為の書棚、あちらにご案内をと存じます。然しながら、ご意志を損ねる行いを致しました事を心よりお詫び申し上げます』
それは深い、とても深い礼だった。
衣装も最高級の着物に変わっている……と思う。
紬、かな。絹織物だよね。
あまり詳しくはないのだけれど。
『ご明察にございます。ありがたくも聖教会本部より頂戴しました絹織物で作りました我々の正装に存じます』
「あの、黒白はここにいてもいいんだよね? それから、ここはどこなの。あと、寿右衛門さんはこの事を知っているの? ちゃんと説明してくれたら私も話を聞くから」
「黒白様には一緒にいらして頂きたく存じます。ご質問に対して前後申し上げますが、寿右衛門様はこの事をご存じで、
……やっぱり、と言うか、この不可思議な現象だったら、そうなるのか。
寿右衛門さんの呼び方が変化した事も多分関連している筈だ。
「ええと、私は普通に歩いたらいいの? それとも支配人さんの転移魔法待ち?」
私をその名前で呼ぶのなら、もう、このまま進むしかないよね。
あ、黒白はもし嫌だったら皆の所にお帰り。多分、戻してもらえるよ。
『行く、行きます。……もしかしたら、お会いできるかも知れないから』
え、黒白の知ってる方なの? 誰?
「左様、黒白様のご推察の通りにございます。然しながら、御名をお出し頂く事はまだ、お控え下さいませ」
支配人さんが指し示す書棚は、少しずつ近付いて来ている。
私達が歩いたり転移しているのではない。
空間自体が書棚をこちらに寄せているのだろうか。
「もう視界に入られましたでしょうか、マトイ様。」
書棚には、ノート? 手帳?
あとは使い込まれた辞典や図鑑、雑誌。
新聞記事、と背表紙に書かれた皮表紙のファイル? みたいな物。
「この書棚から出して、中を閲覧しても良いのですか?」
「はい、これらは全て、貴方様がご覧になるべきものです。ご自由に」
どれにしようか、とか考える前に自分から近付いてきたのは……一冊のノート。
ノートと言うよりは、帳面と言うべきなのかな。和紙に見える。
……多分、日本語だ。
平仮名、片仮名と漢字みたいな字。多分、このくねくねした文字、確か変体仮名というものだった筈。
正直言って判読できない。
私の知識は一輪先生が掛け軸とか好きで、変体仮名の教本とか読んでいたから付き合いで本当に少し読める……かな? 程度だ。
ニッケル君の知識でも、対処は難しい。当然だ。
「あ、これは何とか。……己……与……美……こ、よ、み……?」
多分、これを書いた筆者の名前、だよね。
……これって!
『良く来てくれましたね』
その瞬間、全ての文字が私が普通に使用していた現世の文字に変化した。
そこには、
「こよみから、暦の血を引く者にここにある全てを贈ります。この世界に来てくれて、ありがとう」
丁寧に書かれた、筆文字が現れた。
……初代国王陛下、コヨミさん。
私の遠い遠い、ご先祖様。
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