110-大書店と本選びの私達
「第三王子殿下、じゅったん様、お嬢様、誠にありがとうございました。支配人殿に意中の書籍を多数揃えて頂きました」
移動階段を上がると、巻絹さんが直立不動で待機してくれていた。
あ、当然ナーハルテ様をエスコートしたよ。
生涯初のエスカレーター、緊張するからね。
私も小さい頃、さとりお姉ちゃんが手を引いてくれて安心して乗ることができたのを思い出したよ。
緊張しているであろうナーハルテ様もかわいらしくてやっぱり大好きだなあと思ったのは秘密。
奥を見ると、1階と似ているけれど、形が半円状のカウンターの上に、書籍が山盛り。
「ばあや、お支払いは貴女の分も筆頭公爵家から出して下さいね。勤続を労う長期休暇を取ってもらえない、とお母様とお父様が嘆いていらして、せめて書籍代は、と今朝言付かりましたの」
「お嬢様、それはいけません。これは私共が」
「あ、いや。だったら私が全部持てば良いのでは?」
『なるほど。良いお考えです主殿。それではマキ殿、半分は私共が。半分を筆頭公爵家にお出し頂きましょう』
「……仕方ございません。第三王子殿下からのお申し出、軽々にお受けをするわけには参りませぬ。お嬢様、全てをお支払い願えますでしょうか」
「勿論です。皆が喜びますわ。ありがとうございます、……ニッケル様、じゅったん様」
良かった良かった。
あ、支配人さんが合図をしてくれているね。
「先ほど皆様がご興味を持たれました物はこちらに。そしてこちらが、ご希望の物にございます」
私達の希望通りの書籍がたくさん。
そして、1階でいいな、と思った寿右衛門さんのお使い本の内、気付かなかった分まで足してくれていた。
千斎さんへのお土産は……。
あ、リュックさんが出してくれたあの冒険者ギルド本。他にもなんだかギルド関連本がたくさん! これなら喜んでもらえるね。
「……『刺繍図案集・
何と、ナーハルテ様が驚かれるレベルの書籍が現れた。
刺繍の本の貴重さについては分からないけれど、表紙が布張りで、中心の樹木と咲いている小さな白い花、あれ本物の刺繍じゃないかな、っていう本だった。
「お気に召しました様で、こちらこそありがたく存じます。ではこちらはお包み致しましょう。……姉君のお好きな花は何でございましょうか」
「青い薔薇がお好きです」
ナーハルテ様が言うと、自分から包まれに行った様な刺繍集二冊。
その群青色の包装紙に、一輪の青い薔薇が咲いた……いや、座した。
『お見事』
エスカレーターを上り終えた所に、ガラス製の一輪挿しに綺麗な薔薇が生けられていたけれど、あれは赤い薔薇だった。
それを瞬間移動させながら同時に状態変化特殊加工をして色彩を変えつつ水分を抜いたんだ。
いわゆるプリザーブドフラワーみたいになった生花の青い薔薇。
長姉様のお手元に届くまで美しさを保てるのは確実だ。
「ご贈答の品がございましたらいつでもお申し出下さい。……この書店内は移動可能な場所はご自由にご覧下さい。そして、飲食の場には、飲食をされたいと念じられながら移動階段に乗って頂ければ、お連れいたします。どの階層にも支配人がおりますので、何でもご相談下さい」
乗った人の意を汲んで自動で?
魔力と電力のハイブリッド、すごいな。
「私達が希望した本は全て揃って、意外な書籍も入手できたから、少し自由行動にしようか。時計はどの階にもあるみたいだから、二時間後に飲食の場所に集まる、でどうかな?」
『「良いご提案ですね」』
有能な傍仕えさん達に賛成してもらえた。
「ナーハルテさ、どんな書物や資料を楽しんだか話し合えるのを楽しみにしているよ」
「……はい、わたくしも楽しみにしております。素晴らしい物を探しましょうね」
支配人さんと巻絹さんが誘い、ナーハルテ様が移動階段にすっと足を下ろされて、上の階に上っていった。
どんな書籍を選ばれるのだろう。私もお勧めできる様な物を探せるかな。
「第三王子殿下、じゅったん様、どうぞこちらから」
あ、はい。
でも私はもう一度、1階から見て回りたいんだよね。
物質の構築魔法、錬金術の応用の基礎中の基礎とか、召喚学の基礎教本とかありそうだったから。
「あ、私は下に一度戻ってそこからまた見直したいのだけれど。勿論この階も、もっと見てみたいよ」
「いえ、
え、どうしたの支配人さん。 何だか圧が強い口調。
『……どうして?』
黒白までどうして、って。
黒白、魔力を発してる?
あ、背中に違和感。すかすか。……いない。リュックさん、どこ行ったの?
頭の上も、肩にも。……寿右衛門さん?
「
……だから、どうしたの支配人さん!
寿右衛門さんの呼び方も変わってるし!
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