106-お使い寿右衛門さんと私

『ただ今戻りました。スコレス殿に喜んで頂けましたよ。リュック殿、スコレス殿から頂戴しました追加の材料です。どうぞ』


 目が覚めたら寿右衛門さんがいた。


 え、スコレスさん? じゃあ、手紙は。


『中身は確認させて頂きました。良い内容でございましたので封をしまして、更にリュック殿から辛口の米焼酎を手土産にと預かりましたので共にお渡しいたしました。主殿にご確認をせずに発ちました事、誠に申し訳ございませんでした』

 丁寧に説明してくれた寿右衛門さんと、頂いたハーブティーの材料を吸い込むリュックさん。


 寿右衛門さん、どこが申し訳ないの!


「……ええと、禁地から戻って、スコレスさん宛の手紙の内容を確認して、お土産を持ってスコレスさんの所まで飛んでくれたの? 体調は?」


『飛ぶ、というよりは転移ですし、主殿のご休憩はむしろ従者としては喜びです。禁地の皆様方は明日以降、最も近い聖教会にて体を清められ、協力獣となったもの達は八の街に送られるそうです。様々な回収品も、できる限り浄化を加えてから運ばれるとか。主殿そしてリュック殿からの収納袋並びに差し入れの数々はとても喜ばれていましたよ』


 そうか、今回も浄化を受けて協力獣になってくれた獣達がいたんだ。良かった。


 珪や橡は賢くて強いから、獣達にも色々教えたりお世話をしたりしてくれる筈。


 いずれは協力して皆で八の街を守ってくれるのだろう。


 街の人達やネオジムさん(ハンダさんの奥様。つまりセレンさんのお母さん)を人質にされたら、というハンダさんとセレンさんの心配の種が減るといいな。


『皆様方は、大書店であればむしろ主殿とナーハルテ様の今後に役立つ書物が多数存在するのでぜひお行き下さい、との事でした。ただ、千斎殿が次回は私と、とお伝え下さいと言われましたら……』


 あれ、珍しいね、口ごもる寿右衛門さん。


殿が、僕も! と言われまして。』


 百斎さん。百斎。……もしかしたら。

『はい。聖教会本部、大司教殿です。……となれば、お分かりとは存じますが』

 うん。聖魔法大導師様、浅緋さんだよね。

『御意にございます』


 聖教会本部の超大物お二人と騎士団魔法隊隊長の大将閣下と第三王子と筆頭公爵令嬢……。

 どんなお買い物ですか!


『主殿がツッコミをなさりたいそのお気持ちはこの寿右衛門、深く理解申し上げます』


 禁地でそれをしなかった寿右衛門さん、偉いよ、良く耐えたね。


 じゃあ、今日は一緒に聖教会の食堂でご飯にしようか。ナーハルテ様への手紙はその後で、ゆっくり推敲したいから。


『それなのですが、主殿』

 疲れた感じの寿右衛門さん。一体どうしたのかと思ったら。


『百斎殿が、朱色殿にあっという間に伝えられまして、手紙ではなく私と朱色殿のやり取りで、と言う事になりました』


 ああ、朱々さんの人型変化のお師匠様は百斎さん……聖教会初代大司教様と千斎さんのご先祖様だから交流があるんだね。


 でも、手際が良すぎないかな。

『その通りにございます。しかも、千斎殿はインディゴを優先的に手配致します、と』


 そうですか。

 いや、魔馬インディゴに会えるのは嬉しいよ? あの逞しい脚とか、綺麗な毛並みとか。何か食べさせて上げていいなら上げたいなあ、とか!


 でも、ね。


『主殿、皆まで仰いますな。取り急ぎ、明日以降に私が朱色殿と予定を調整致します。インディゴで筆頭公爵家にお迎えに伺う許可も、その際に朱色殿が頂いて下さるそうですから、その様に進めて宜しいでしょうか』


 はい、お任せします。

 ええと、何かまだあった様な。


 あ、そうだ、緑簾さん!


『ああ、大丈夫ですよ。清めの儀式等、全てが滞りなく終了しましたら関山殿の居酒屋で盛り上がる予定との事にございますから』

 

 そうなんだ、うん、それなら。

「安心して良さそうだね。じゃあ、寿右衛門さんと朱々さんにお任せするよ」


『ありがとうございます。こちらはどうなさいますか。リュック殿に預かって頂きますか』


 寿右衛門さんが取り出してくれたのは居酒屋関山のお持ち帰りお惣菜とおにぎり弁当が大量に。


『こちらも確認せずに申し訳なく存じますが、関山殿にもおにぎり弁当のお礼を込めて良さそうなお酒を差し入れしました。ありがたいと言って下さいましたよ。おにぎり弁当はカンザン殿からのサービスです』

 いや、申し訳なくないからね。


 嬉しい! これは頂きますよ、うん。聖教会の食堂はまた今度ね。


 頑張って下さった皆さんも、お清めが済んだらおいしい物を食べて、ゆっくり休んでくれていたら良いなあ。



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