幕間-8 筆頭公爵家にお仕えする者達として
「これから話す事につきましては、誓約で縛るか、全てを忘却するかを貴方達が選んで下さい」
コヨミ王国筆頭公爵家、プラティウム家。
豊富な魔石、燃料資源と高品質の木材が主産業の領地は毎年移住希望者が多く、移住希望者リストが毎年頁を増やし続けている程である。
現在の当主は奥方様。旦那様は法律を司る存在の頂点、法務大臣にあられるお方で、政略結婚ではなく恋愛結婚である所も実に我が国らしい。
私はこの筆頭公爵家に代々お仕えしてきた家の出自で、現在は執事長としてお仕えしている者。そして、妻はメイド長。
二人共に爵位を持つ家柄ではあるのだが、両家の祖も筆頭公爵家にお仕えする事を望み、我々の代で婚姻により一つの家となった。
その為に両家の名を合わせた新しい家名と恐れ多くも元よりも上の爵位を頂戴している。
一男一女を授かり、娘は奥方様の専属メイド、息子は旦那様の専属執事兼秘書官を務めている。
子供達は内々には護衛担当でもあるのだが、それは秘中の事だ。
娘が授かった姉妹は筆頭公爵家の三人のお嬢様方にお仕えしている。末の孫だけはまだ見習いという立場である。
冒頭のお言葉を改めて
この部屋は筆頭公爵家で最も魔法防御、物理防御に優れた部屋であり、召喚大会で疲労困憊されたナーハルテお嬢様の静養に用いられた部屋であり、その強固さは騎士団団長閣下ですら感嘆された程である。
長きに渡り尽くしてくれた礼にと夫婦での長期休暇を取得する様にと命じられてはや1年。奥方様の伝令鳥に二人で呼ばれたのはその事かと考えていたのだが、そうでは無かった。
「貴方達は、ナーハルテの婚約についてどう思いますか?」
実は、これは末の姫様(内輪の会等の時に我々がナーハルテお嬢様をお呼びする際の呼び方)の婚約者が決まった際にも旦那様から伺った問いであった。
その際は、如何なる回答にも応じるという問わずの誓いをして頂いた為、正直に夫婦で答えたのは
「反対でございます」という一言であった。
因みに旦那様はその時、
「娘の事を思ってくれてありがとう。このままであるならば勿論先々に婚約破棄をするから安心してほしい」と破顔されていた。
それからは、入学式での首席入学者であられる末の姫様に代わり代表挨拶をしようとして建国の英雄学院長様から竜の咆哮を受け、平民の聖女候補と親しくし、召喚大会では事故召喚を起こして末の姫様の意識を一時期消失させ、という有様。
これらについては妻が王宮に忍び込み、夜討ち朝駆けを試みるのを
「自分も同じ思いだがこの家の皆様方の御為に踏みとどまってくれ」と何度説得して止めた事か。
然しながら、現在の末の姫様の婚約者様は、正に人が変わられた様な理想の方に変身してしまわれた。
何よりも、たまに第三王子殿下の事を話される姫様のご様子が、本当にお幸せそうなのである。
それは妻も認める事であった。
王立学院高等部二年次終了前の平民差別者達への断罪、聖魔法大導師様の浄化作業の補佐、王立学院選抜クラス編入試験合格等の他にも新聞、雑誌で賞賛を拝見する機会も多い。
沈黙する私達に、奥方様が続けられた。
「以前、旦那様が聞いた時とは異なる見解の様ですね。それでは、質問を変えましょう。第三王子殿下は魂の転生をされ、異世界におられたコヨミ王国初代国王陛下の末裔殿が現在のナーハルテの婚約者殿なのです、と言いましたら、貴方達は信じますか?」
俄には信じがたい内容だ。
だが、然し。
それは本当に、すとん、と腑に落ちたのだった。
「「信じます」」
同時にお答えしたその時、私は自身の妻を、妻は私を、誇りに感じたというのは私の執務室に戻ってから夫婦で茶を嗜みながら互いに確信した事である。
それからは、奥方様から色々な話を伺った。
無論、全てに誓約魔法が掛けられている内容だ。
「どうしますか。誓約魔法を残しますか、それとも、記憶を消去しましょうか」
全てをお話下さった後の奥方様の問いに私達がどう答えたかは言うまでも無い。
後にはただ、一つの事が存在した。
それは、筆頭公爵家にお仕えする者達として、お守りするべきお方がもうお一人増えられたという喜ばしき事実。それのみである。
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