幕間-7 魔道具開発局局長と秘書の会話

「……戻ったか。ありがとう、ご苦労だった。映像水晶も確かに受け取った」


 遠い禁地に飛んでくれた伝令鳥にねぎらいがてら魔力を渡す。


 遠慮がちな伝令鳥に遠慮はいらぬ、と上限迄吸収して構わないと伝えた。


 緑の申し子、中央冒険者ギルドギルドマスタースコレス殿の魔力快癒のハーブティーに類する物を頂いた私には、この程度の魔力譲渡等、造作もない事だ。


 それにしても、魂の転生をされた第三王子殿下のお力があれ程とは。


 友人でもある騎士団魔法隊隊長、別名図書室の主、千斎・フォン・クリプトン大将閣下から

「面白い方なので初対面だけれど禁書庫カードを進呈したよ」

 こう言われた時には、いくら我々の尊意の象徴、コヨミ王国初代国王陛下の末裔殿に対してとは言えやり過ぎではないのか、と思ったものだが。


 然しながら、転生とほぼ同時に恥ずべき平民差別を行っていた学院生を炙り出して断罪された事で英雄たる王立学院学院長殿に賞賛され、世界一の聖魔法使いの呼び声も高き聖魔法大導師殿から認められ、高位精霊獣殿を伝令鳥と召喚獣とされたばかりか元邪竜斬りハンダ-コバルト殿を冒険者に呼び戻し冒険者の金階級を取得させる機会を作られ、ご自身は学院高等部の編入試験を年度末以前にクリア。


 ここまででも偉業であられるのに、精霊獣と人とが協力して防備を行う設備の起案をされ、聖女信仰に絡む陰謀に大きく関わる可能性がある指輪事件(仮)にも魔道具のご提供、指輪の構造解析他に多大な貢献を行われている。


 これ以外にも第三王子殿下と偉人、達人との交流には枚挙に暇がない。


 目下行われている禁地の一斉浄化という一大事業にしても、第三王子殿下が転生して下さらなければこの様な早期実行は困難であった筈だ。

 やはり、女王陛下並びに王配殿下の素早きご決裁にも影響を与えておいでなのだろうと思わされる。


 しかも、殿下は今回の一斉浄化にご自身の鬼族召喚獣殿(高位精霊獣殿)の帯同を快諾して下さっている。


 更に、初対面の私、魔道具開発局局長にまで、あの緑の申し子、エルフの叡智のお一人と呼ばれる中央冒険者ギルドギルドマスタースコレス殿秘伝のハーブティーをお譲り頂けるとは、何と無欲なお方なのだろう。


 スコレス殿が秘伝であられる生成の材料とカップを譲られたのも、第三王子殿下のそのお心の健やかさに起因するのだろうか。


『局長、またがずれてるよ。戻っていい?』

 ああ、そうだなありがとう。

 この少しフレームが太めな眼鏡は私が開発した意思を持つ魔道具。


 力の強い魔道具や魔力の強い存在に対すると、ズレを示して私に教えてくれる。今のズレは、私の魔力上昇を察知したのだろう。


「どうだ、眼鏡よ。あのお方達は」

『敢えて聞くの? その質問、いるかなあ? すごい、としか言いようがないよ。本当、味方で良かった、と思った。……て言うか、分かってるよねえ?』


 そうだろうな。


 私も、初対面でこの特製クッキーばかりではなくパティオまでもお披露目する事になるとは思わなかったのだから。


『局長、末裔様への礼儀で普段使いと違う特別なお客様用の魔力向上クッキーをお出ししたけど、エルフさんのハーブティーが嬉しすぎて、これではいかん、と中庭もお見せしたくなったんでしょう?』


 そういう事だ。

 このパティオは、本当に私にとっての大事な方のみご案内する場所。

 ここは、私の魔道具開発の結晶の様なものだから。


『パティオをお見せしただけでなくて、お礼に多少の無理ならお聞きしようとしたのに、お願いされたのはナイカちゃんと婚約者君のお付き合いだけだもんね』


 本当にな。


 あれでは、ハーブティーをねだった私の意地汚さだけが殿下の印象に残ってしまったのではと恥じ入るばかりだ。


 転生をされる前は26歳でいらしたか。


 きちんとした職業にも就かれていた方と聞いているから、ああいう姿勢であられるのだろうか。


「とりあえず、伝令鳥よ、すまぬがもう一度だけ禁地へと飛んでくれまいか。その後は自由にしてくれて構わない」


 伝令鳥はむしろ体に満ちた魔力を飛ぶ事に使いたい様で、いいですよ、とばかりに羽をばさりとしてくれた。


「ありがとう。これを、騎士団魔法隊隊長殿に渡してくれ。伝言は一言だけ。君の先見の明に感服した、と」

 伝令鳥用の胴体に巻く事が出来るマジックバッグには、新しい映像水晶ペンダントを数本、それから先ほどリュック殿に頂いた保存袋。

 それから魔力体力の向上を促す食料と水分を補充した。


「よし、行ってくれたな。次は、眼鏡よ、お前に頼む」


『へえ、珍しい。何かな?』

 伝令鳥を見送ると、私の顔面から外れた眼鏡が人型の秘書に変化する。


 私の自信作、魔道具眼鏡のもう一つの機能、それは人型への変化。


 もしも不審者に何かをされても眼鏡に戻るのみ。但し、対人、対魔法等の付与はこの私が知識と魔力を結集させたものだから、撃墜数もかなりの数なのだが。


「この保存袋を添付物として、この書類を法務局へ。これで魔力反応を伴う物質の個数計測器に続いて、第三王子殿下の御名での特許が増えるだろう」


 個数計測器は元々は指輪の個数計測器として、特許等も全て国の為にと第三王子殿下からお預かりした物。


 研究を重ね、我が魔道具開発局と騎士団魔法隊の共同製作物として世に出せる様になったが、飽くまでも特許は第三王子殿下の個人の御名としている。


 あとは、その内に時計を腕に巻く仕組み、腕時計の型の申請もしておくとしよう。


 実はこれから、いや、実際は現在は、と言うべきなのだが。


 第三王子殿下の魂の転生を知らぬ連中が、まぬけを装われた殿下の真のお姿を最初から知っていたのは自分だ、いや私だ、と言う様に喧しくも醜い争いをしているらしい。


 恐れ多くも、筆頭公爵家のご令嬢よりも我が娘が、息子が伴侶に相応しい等と戯言を喚いている者達もいる始末だ。


 あの筆頭公爵家の当主と、我が国の法律を司る法務大臣を敵に回すとは油をくまなく全身に刷り込んでから業火に突入する様なものだが、まあ、自滅したい奴等はそうさせておこう。


 精霊王様直参の高位精霊獣殿を囲んだ茶会で第三王子殿下にお会いしてその人物に惚れ込んだ王族の皆様方と筆頭公爵家夫妻達は水面下で第三王子殿下と筆頭公爵令嬢の婚姻を出来るだけ早く結ばせたいと画策しておられる様だ。


 だが、まずは友好国、且つ大国の王太子殿下と筆頭公爵家長女殿のご婚礼であろう。


 そうは言うものの、私もあのお方に直接お会いして、すっかり心酔してしまったので、彼の方々の事をとやかくは言えないのだが。


「局長は殿下の魔道具さん達に心酔してるんじゃないですかー」


 魔道具開発局の若手連中からは、仕事が出来てクールなイケメン、と人気がある(らしい)秘書眼鏡にからかわれた。


 確かにな。


 最初は建前とは言え、コヨミ王国の優秀な女性を国内に留め置く為の婚約であったのに、筆頭公爵家はとんでもない掘り出し物を得た訳だ。


 そうだ、カルサイト・フォン・ウレックス侯爵令息。


 ……君も、第三王子殿下程とは言わないが、今後は、磨かれて素晴らしい存在になってくれるのだろうか。


 まあ、父親としては、認識阻害魔法にも拘わらず、我が娘の真の姿に既に辿り着いている君のことを、君や愛娘が思うよりもずっと、高く評価しているのだがね。


 ……大人げないのは自覚しているが、君が気付くまでは教えてはやらないつもりだよ。






























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