101-お茶会の王子様な私
「……緊張した。本当に、緊張した」
うわ、背中に汗かいてる。
生粋の王子殿下はこういうのもなんとかするのかな?
『お疲れ様にございます。良く完遂されました』
なんとか、は寿右衛門さんが清浄魔法を掛けてくれた。……すっきり。
結局、白様が主賓のこじんまりとした?
お茶会は無事終了した。
今は、もう割と私達のお家と化している騎士団官舎の特級騎士舎の部屋で和み中。
思い返すと、今日の私は頑張った。
王宮の私的なお客様専用の花と緑に囲まれ、池には蓮の花(に似ている花?)まで浮いている庭園で、場所にも高揚したけれど、めちゃくちゃイケまくりの激シブおじ様、人型の白様に再会できたのも感動ものだったし、女王陛下、王配殿下、王太女殿下、王太子殿下、第二王子殿下と筆頭公爵家当主、つまりはナーハルテ様のお母様、それに法務大臣閣下であられるお父様、それに寿右衛門さんと私、という綺羅星の如き面々が一堂に会したのでした。
あ、私が綺羅星か否かは置いておいて下さい。
……どこがこじんまりとした、だよ! ってツッコミたいですよね、分かります。
いや、皆様お優しかったよ。
コヨミさんの末裔としてではなく、できる限り第三王子ニッケル殿下として扱おうとして下さっている配慮のお気持ちも伝わってきました。
ただ、雰囲気が半端ない筆頭公爵家ご当主様、つまりナーハルテ様のお母様(白金の髪と目が美々しい私にとっては未来のお義母様!)が
「我が娘との婚約をご継続頂けます事、望外の喜びに存じます。これからも娘を宜しくお願い申し上げます。もしも、娘に至らぬ点がございましたら、婚約破棄ではなくご相談を願えましたら、親としましても有難く存じます」
空気が変わる様に美しい礼と一緒に仰るから、
「私こそ、演技とは言え婚約破棄の様な真似を致しまして、ご理解とご協力を頂いたご令嬢には多大な感謝を禁じ得ません。お蔭様で、初代国王陛下のご意志に背く者達を罰に処する事ができました。むしろ、私に至らぬ点がございましたらご遠慮なさらずに申し出て頂きたいとご息女にお伝え願えれば幸いです。無論、皆様方におかれましてもご同様に願います」
「ありがたく存じます」
我ながら、良くお答えできたと思う。寿右衛門さんも
『ご立派でございます!』
と念話で褒めてくれたし。
あとは、
「僕達の中で一番先に結婚式を行うのはマ……ニッケルになりそうだね」
もうね、上の兄上、つまりは王太子殿下、本物の王子様なの。
双子でいらっしゃる王太子殿下と王太女殿下はお二人共に甲乙付けがたく、初めての両王陛下の即位もあられるかと噂されるという方達。
王太女殿下も穏やかに微笑まれて、口元に指先を置いた所作もお美しく、
「そうしてもらえたら、私達への諸国からの婚約申込みが少なくなって良いかも知れませんね」
だって。
近い内に留学の噂がある第二王子殿下も、
「もし僕が留学中でも急な式だったら呼んでよね」
と、ピカイチの王子様スマイル。
本物の王子様方、お姫様を間近で拝見させて頂きました。
「聖魔法大導師殿からお噂は聞いております。結婚式は聖教会本部の聖大教会で行って頂きたいと。何でも、大司教殿と揃いの式典用の衣装を揃えるおつもりとか」
こう言われたのは、王配殿下。
え。何その話。
もしもし、浅緋さん?
聖教会本部の聖大教会って、めちゃくちゃ威厳と格式に溢れた場所で、国内外問わず、王族でも聖教会本部から許可を頂くのが難しいってハイパーと学院で借りた『聖教会施設概要』に記載されていたのに。
あと、大司教様! 何してらっしゃるの?
お会いした事はまだないのですが。薄緋さんと同じ香りを感じる……。
千斎さん曰く、
「我が父ながら、私よりもふらふらとしている方です。」というお話だったなあ。
ご令息と一緒で、ご興味のある事には素早く反応される方なの?
「まあ、皆のもの。まずは二人の学院の卒業。そして、ナーハルテの姉の挙式が終了してからであろう? 予定を立てるのは構わぬがの」
ありがとうございます、白様。
イケオジ度とイケボ度が天井知らずですね。
本当に、王族の結婚は決定してからが長い。
ナーハルテ様のお姉様も、恐らく私達の学院高等部卒業時くらいに大国で盛大な挙式を行うご予定となってはいるが、国同士のご事情等で、そこからまた時期が前後のする可能性は十分にあるのだ。
「そうですね、でも本当に、我が国にいらして下さいました事を心より御礼申し上げます」
お母様、女王陛下。
勿論絶対に外部には漏れない環境での、内々のお言葉だけれど、これは本当に
「……そのお言葉を向けられた者は、有難く存じておりますよ、コヨミ王国を愛する一人の者として、この国の民として、生涯国に尽くす所存でしょうから」
「……そうですか、ニッケル、やはり、貴方にお話して良かったです。」
ニッケル君、君のお母様は本当に素敵な方だ。
国を、民を、心から愛しておられるのが私にも伝わってくる。
緊張したし、今もまだあのひりりとした緊張感が体に染み付いているけど、出席して良かった。
あとは、法務大臣閣下から、例の断罪対象の学院生達と処罰の報告を頂いた。
家によっては分家への権利譲渡、事実上の廃嫡等。
厳しいようだが、平民差別は許さないというコヨミ王国の確固たる信念を示すものになったらしい。
「禁所に端緒があると想定される指輪の件につきましては、魔道具開発局局長から第三王子殿下への面会の申請がございましたかと。もし宜しければ、ご検討を頂けましたら幸いに存じます」
「できるだけ早く時間を作ります。こちらの召喚獣たる伝令鳥殿を介して返答をさせて頂いても宜しいでしょうか」
「無論です。茶色殿、宜しくお願い申し上げます」
『畏まりました』
一応皆様と会話ができたかな、と思いつつ、紅茶を頂いて少しだけ落ち着いたら、今度は白様がこう言われた。
「女王よ。異世界から文が届いた様だが、今受け取るか?」
「白様のご意志のままに。」
「うむ、では」
白様が合図をすると、現れ出でたる朱色の鳥の精霊獣。朱々さん!
『お茶を嗜まれている中を失礼いたします。我が主が夢渡りを行い、こちらの皆様への文をお預かりしたとの事。高貴なる白のものの許しを得ました故、参上仕りました』
美しい礼をした朱々さんが、白様、女王陛下、王配殿下、王太女殿下、王太子殿下、第二王子殿下へと手紙を渡していく。
……あの封筒、見覚えがあるんだけど。
『マトイよ。確かに見覚えがあろう。其方の気に入り故』
え、やっぱりあれ、お姉ちゃんと行った紙の専門店さんで買った和紙の封筒?
そう、さすがに持ってこられなかったから、ニッケル君かお姉ちゃんが使ってくれたらなあ、って思ってたやつ……って!
じゃあ、私にも書いてくれているのかな?
『そうじゃ。マトイ宛の文はナーハルテが預かっておる。デートの時にでも受け取ると良い』
でーと、じゃなくてデートなんですね、白様。
私がお姉ちゃんと先生に会えたあれ、夢渡りって言うのか。
ナーハルテ様、ニッケル君に会えたんだね。
手紙、って物のやり取りが出来たんだ? 凄い。
『こちらのものと白金のものの為に我も努めたのだよ。これぐらいはしてやりとうてな。マトイのめーる、も手紙と思うて良いぞ。さすがに常に繋がりはせぬが』
『やっぱり、白様はそう言われるかな、と思っていました。ありがとうございます。繋がった事が夢みたいでした』
本当に心から御礼申し上げます、白様。でも、メールはめーる、なんですね。イケボで発音されるとかわいらしい感じ。
『メール、とも言えるぞよ?』
『すみません、そうですよね』
「我が娘が異世界の彼方に……夢渡りとは、光栄な事です」
「……いかがでしょうか、白様」
「うむ。では、自由に解散すると良い。心地よい茶会に感謝をする」
筆頭公爵様と法務大臣閣下が促されると、整った所作で一礼し、礼の意味かひらりと舞った朱々さんを伴い、超イケオジ白様が転移をされた。
皆様がそちらに礼をして、あとは自由にしていいらしい。
『さすがは我が師です』
精霊獣さんや精霊さん、聖霊獣さんや聖霊さんを人がお呼びした時は、きちんとした時間枠に入らない事があっても一切人側は干渉できないという暗黙のルールがあるらしいのだけれど、きちんとお茶会を済ませて、しかも人側の自由にして良いとされて去っていかれた白様は、正に完璧、と言ったところなんだって。
ちらりと黒白を見たら、確かにけっこうな時間が経っていた。
それからは許可を頂いて多少飲食、和やかに歓談。自然な流れで解散。
私もマナー等、一応きちんとできていたらしいから良かった。
そして今、私は我が部屋で寛いでいます。
本当、充実の一日でした。
『今日のお礼状等は私が用意致しますので、ご署名はお願いしても宜しいでしょうか?』
ありがとう、ありがとう寿右衛門さん。
有能な執事さんがいてくれて良かった。
『あとは、魔道具開発局局長殿への使いですな』
ナーハルテ様とのデートはもう少し先になってしまいますな、この予定には余裕がある筈でしたが。と遠慮がちな気配り寿右衛門さん。
配慮は嬉しいよ、ありがとう。
だけど法務大臣閣下のあのご様子、もしかしたら断罪対象者の家やその近くに指輪の存在があるのかも知れないから、最優先はそちらだよね。
『ナーハルテ様への伝言はお任せを』
度々ありがとう、寿右衛門さん。
こういう時は、国民の為になる方を優先する。多分、ナーハルテ様も同じ筈。
そういう方を好きになったからには、私もそういう
今日お目にかかった皆様のように、ね。
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