第二章終-転生したら大好きな悪役令嬢を断罪する筈の王子だったので更に力を付けて守り守られしたい所存。

「……はい、寿右衛門さん。この雀さんがチュン右衛門さんだよ」


『ありがとうございます。おお、この羽の輝き、素晴らしい。良い雀です』


 あの後、長すぎると届かないとかがあるといけないから、短めのメールを三人に送ってみた。


 ニッケル君の分だけ、さっきの写真付。


 皆からのメールはほぼ毎日送信されていたみたい。

 日付がよく分からなかったり、途中で切れていたりもしたけれど、皆が元気な事、ニッケル君が暦まといのお仕事を頑張ってくれている(しかも優秀らしい。さすが!)事は十分伝わってきたし、何故か添付ファイルの写真は全て見る事が出来て、お姉ちゃんと先生の旅行写真とか、ニッケル君が転生してすぐの様子とかはほとんど分かった。


 だから、私は1枚1枚ごとに感動している。


 その中の1枚、紳士な雀、チュン右衛門さん。


 転生してこちらに戻ってきた初代のご先祖様、寿右衛門さんに見られていると知ったら、きっと驚くね。


 スズオミ君にもその内見せてあげたい。


 その内お会いするであろうニッケル君のご家族、王宮の皆さんにもいつかはご覧頂けるだろうか。


『入浴をされるならばご用意いたします。お気持ちは分かりますが、本当にそろそろ休養を。何日か休まれましても、編入試験合格は取り消しなどにはなりませぬから』


 いや、もうちょっとメール確認したり画像見たりしたいんだけど、ダメかなあ。


『もし、本日は入浴後に休まれるとお約束下さるなら、映像水晶の複写をお渡ししますよ?』

 え、もしかしたら、あの、白豹系猫属分体白様と激美女朱々さんと麗しのナーハルテ様の召喚授業?


『そうです。今すぐではなくとも、そのスマホ殿でご覧頂けましょう。映像水晶の複写を入れて差し上げます』


 あ、すまほ、じゃなくてスマホって言ったね寿右衛門さん。


 もうリュックさんと同じで魔道具扱いなのかな。


『そういう事です。パソコン殿達はまた追々になさって下さい』


 はい、分かりました。

 正直、ネットには繋がらなくても、メールと写真だけでも嬉し過ぎてまだまだ時間を使いたい所だけど、もう魔力循環はほぼ終了しているので視力の補助魔法も掛けていないから画面見続けはよくないよね。


『そうそう、元に戻られたハイパー殿は所定の場所に戻られましたから、ご安心を』


 確かに、旅のお供っぽかったハイパーは重厚な本に戻って本棚に。


 出番まではお休みなさい、な感じだ。


「じゃ、じゃあ寿右衛門さん、これからの予定確認! それなら良いでしょう? それをしてから入浴、夜食、睡眠。ほら、完璧!」


『まあ、それなら良いでしょう。では、机に』


 渋々、だったけど何とか了承された。


 私の場合、残された数ヶ月は魔力循環と選抜クラス編入試験合格がメインだったけれど、最初の一月でどちらも終えてしまったので、やる事と言えば、という感じらしい。


『主要のご予定は王宮へのご挨拶と、筆頭公爵家へのご訪問、聖魔法大武道場での試合のご観覧、この三点ですな。後は自主学習と、ナーハルテ様とのデートをなされば宜しいかと。ああ、それから、指輪関連で魔道具開発局局長殿からの面会希望が出されていますな。この件については主殿のご都合次第という事で良いでしょう』


 え。


「え、魔道具開発局局長さんて法務大臣さん、騎士団団長さん達に並ぶ役職じゃないの?」


『確かに。然しながら既に誓約魔法にて主殿の使命と真のお姿が伝わっておりますので、先方からもあくまでも主殿のご都合で、との事でございます』


 私がセレンさんを迎えに行ったり珪に名前を付けたり中央冒険者ギルドで忙しくしたりしていた間に、イケメン令嬢様方とご家族の皆様方には誓約魔法付きで私の正体とかその他諸々が知る所になったらしい。


 攻略対象者君達のお家はとりあえず家長さんだけらしいのだけれどスズオミ君のご生家みたいにご当主が奥様のお家もあるから、正にお家毎にそれぞれ、って感じみたい。


 王家の皆様に至っては、第三王子に会うというよりはコヨミ王国初代国王陛下の末裔殿にお会いする、という雰囲気で下にも置かぬもてなしを、とかになりそうって……困る!


『そう言われると分かっておりましたから、内々に我が師を招いた茶会を、という事になりましたのでご安心を。我が師からの覚えがめでたいというのは最近の主殿、第三王子殿下のご評判から鑑みましても良い事です』


 王宮内には以前の第三王子殿下とは別人、というのをまやかしか捏造かと言い、信じておらぬものもいる様ですからなと寿右衛門さん、ちょっと悪いお顔。

 いや、かわいらしい雀さんなのだけれどね。


 それにしても、茶会を、と言われた瞬間にルールとかマナーとかが頭に浮かんできた。ニッケル君、君はやっぱり王子様だ。


 セレンさんに癒し? みたいなものを感じたのは、ナーハルテ様は婚約者としてじゃなくて、こうなりたいという理想の人であるが故だったのかな。


 ニッケル君、今度君に会えたらたくさん話がしたいよ。とりあえず、今はメールでのやり取りかな。


『主殿、何かご心配でも?』


 いや、心配っていうか。


「私、ナーハルテ様の為に、お守りする為に、って勢い良く転生したでしょう? 守れる自分になれてるのかな、って。」


『ああ』

 そんな事ですか、と寿右衛門さん。

「そんな事、って!」


『そうでしょう。守りたいとお考えなら主殿ご自身に守られる事にも慣れて頂けましたらそれで良いのです。なあに、お間違えの時には我々が補正も矯正も致します。時には武力や魔力や物理にて』


『そうそう』『その通り』

 寿右衛門さん、リュックさん、黒白。


 あ、ハイパーとスマホは光ってるし。


 それにしても、武力と魔力と物理て。


『大丈夫です。厄災が目の前、等ではないのですから。黒白の起源等、不穏な対象も、きちんと都度対応したら良いのです』


 私への叱咤激励。


 その流れで寿右衛門さんはコヨミ王国の人々には他国よりも精霊王様達の加護が強くかかっているから、例えば指輪の力が想定以上とか、予想した数よりも多数、とかだとしても、空前絶後みたいな事にはならないからそれは安心して良いのだとかいつまんで教えてくれた。


『ただ、守れるならば守りたいのですよね』

 寿右衛門さん。


 うん、そう。その通りだよ。

『それならばやはり、御身を守られる事もお考え下さい。あちらは危機感を養えと言うには難しい世界です。この寿右衛門も恐れながらコヨミ様と共にいにしえに体感しておりますので。それ故に、いきなりは難しいとは存じますが、こちらでのお立場というものを少しずつでも良いのです……ご理解頂けましたら』


「やっぱり、王位継承権とか?……あとはやっぱり、コヨミさん関係かな」


『今の所は変わらず最下位ないしは継承権ほぼ無し、と認識頂いて宜しいかと。ただし、主殿を担ぎ上げようとするもの達が出てこないとは限りません。これからは、御身を守るものが傷付く可能性を認識頂ければと存じます。……それを踏まえた上で行動を。これはコヨミ様もあちらからこちらに参られましてから少しずつ学ばれた事です。この度は、主殿に本件をお聞き頂けただけでも有難い事に存じます』


 ひらり、と体勢を変える寿右衛門さん。

『傍仕え、伝令鳥としてはこの寿右衛門、出過ぎました振る舞いにございました』


 そして、頭を下げる寿右衛門さん。


 ううん、ありがとう。こういう事は言う立場の方が辛いよね。


 そうだ、これからは私を守ろうとする人々が怪我とか、もっと大変な状態になるとか。


 まぬけ王子だったニッケル君やナーハルテ様はもっと小さい頃から持っていたであろう守られる側の意識を持たないと。


 ……こういうのをコヨミさんは少しずつ学んで、清濁併せて色々覚えて、この国の礎を作ったんだよね。


「まだまだ……って言い尽くせないくらいだけど、私、少しずつなら成長できてるのかな」


『間違いございません』『うん』『ええ』


 皆、ありがとう。


『とりあえず、ご入浴を。その間にスマホ殿に映像水晶の複写を』


「うん、ありがとう。……寿右衛門さん」

『何でございましょう?』


「私、やっぱりこの国が好きだ。向こうにはもう戻らないし、戻りたくない。数日とか瞬間とか夢で、とかは別だけど。メールのやり取りもめちゃくちゃ嬉しいし、むしろありがとうだからねそれらは。ただ、それらが、なくなっても、きっと大丈夫。……多分。寿右衛門さんは?」


『同じでございます。この世界で、どこまでもお供いたしますよ、我が主殿』

『うん!』『はい』


 ありがとう、皆、大好きだよ。


 守りたい1番の方だけを守る第三王子殿下ではなく、守られる存在にもなりたい。


 一緒に、付いてきてね。


『いや、あのさ、皆さん? 誰かをお忘れじゃないすか?』


 あ。

『『『あ』』』


 うん、そうだ。緑簾さん。貴男も大切な仲間です。これからもよろしくね。


『いや、何かついでっぽいけど、まあいいか……って、痛え!』


『この私、聖魔法大導師こと浅緋うすひもお忘れなく!』


 あ、はい。勿論です。


 できたら緑簾さんの特訓? 修業? は程々でお願いしますね。


『まあ、大丈夫でしょう。今度こそ入浴を』


「うん、ありがとう」


 便利な魔道給湯器は魔力加減をマスターしたら、すぐに浴槽を満たしてくれる便利な物になった。


 お湯にゆっくり浸かって、最初に考えたのはやっぱり、ナーハルテ様の事。


「やっぱり、またすぐに会いたくなっちゃうなあ」


 会ったばかりだけれど、また、すぐに会いたい、そんな存在。

 それが私にとってのナーハルテ・フォン・プラティウム様。


 守るだけではなく、守られたい。

 貴女もそう思って下さる婚約者に、私はなりたいです。


 だから、これからも誠心誠意、励みます。


 第二章〈終了〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る