98-誓いのスズオミ君とスマホと私

「スズオミ君、どうぞ」


 スズオミ君のお茶菓子の好みは塩、醤油系。

 ただし、濃すぎないもの。

 甘いものは甘すぎないものだって。

 だから、追加のお茶菓子は塩味軽めのおかきと醤油薄めの醤油煎餅。


 そう言えば、ゲームの『キミミチ』は好きなものはヒロインのお手製クッキー、とかいう攻略対象者はいなかったなあ。

 高校時代の友達が「お手製クッキー、材料集めて作るんだよ!」とか言ってたなあ。


 乙女ゲームは全くやっていなかったから、「へえー」くらいだったんだ。


『キミミチ』は好感度を上げる為には自力で色々(魔道具は使用可)、だ。


 そんな所が『キミミチ』らしいんだよね、多分。


 ゲームでのスズオミ君の好みは確か激辛とかだった気がする。

 ごめんスズオミ君、正直ライオネア様の「食用として成立するもの」の方が記憶に残っていたよ。


 そう言えば、こっちのライオネア様はどうなんだろう。後でハイパーに頼ろうかな。


 あれから結局、寿右衛門さんが「監査役の特権です」と無理やり参加させたお茶会。


 スズオミ君と絨毯と室内に皆で浄化魔法を掛けてから開始。


 まず、あのやり取りで真空波で自ら割ったクッキーに真っ先に手を付けて、

「ごめんよ」と言ってから口にした。


 おお、攻略対象者っぽいイケメンがいる。

 真空波で割れていたクッキーはビター系のチョコクッキー。

 甘いやつでもこれだけは食べたんだろうね、きっと。


 お茶はほんの少しだけ渋めの緑茶がお好み。

 紅茶は香りは好きだけど味はお茶の方が良いんだって。


 勿論寿右衛門さんが丁寧に暖めた湯呑みでお出ししました。


 なんと、玉露だよ! 


 おかきと醤油煎餅も美味しいって言ってくれた。


「僕の立場で申し上げる事ではないのは承知しておりますが、第三王子殿下は本当にナーハルテ様を大切に思っておられますよね。それを儚いもの、一時的な衝動にはしない為に、更に励んでみえているのですね」


 ええと、うん、まあ、まあじゃないな。

 スズオミ君、言葉の選択がいちいちイケメンっぽいです。


「うん、そ、そうだね。……分かったよ、スズオミ君にはこの事は隠さない。私は最初は確かにニッケル君になる事を知らされずに魂の転生をすることを決めた。だけど、私はナーハルテ様の婚約者たる第三王子殿下に転生した。予想とはちょっと、ちょっとじゃないかな、違ったけれど、せっかく1番近い所で大好きな方をお守りできるんだから、使えるものは使うし、できる事はする。君も、セレンさんが大切なんでしょう。……勿論、ライオネア様のことも」


「仰る通りです。殿下はご承知かと存じますが、セレンには婚約者が選定されようとしています。僕は彼女の婚約者候補になりたいです。そして、ライオネアとは真の友人になりたい。あの人、ライオネアは本当に、人として、男として素晴らしい人だから」


 いいなあ、やっぱり攻略対象者。


 顔が良いぞ、スズオミ君。

 いや、顔だけじゃないけど。セレンさんの婚約者候補、実力で勝ち取れ!

 ライオネア様に関しては人として、には同意しかない。


 男として、もまあ、良いんじゃないかな?


「失礼いたします、殿


 いきなり立ち上がり、膝をつかれて、スズオミ君が騎士の礼を取った。


 また土下座じゃないよね?

 あと今、マトイ殿って。良いの?


『大丈夫です。この空間は私と黒白が守っております』

 あ、そうなの、じゃあ大丈夫? なのかな、寿右衛門さん。


「貴方様に永遠の忠誠を。スズオミ・フォン・コッパー、若輩ながら、今ここに誓います。ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ第三王子殿下、そして、マトイ-コヨミ様」


 ……これは。

 あわあわしたらダメだ。

 きちんと受け止めるよ。


「ありがとう。第三王子として、そしてコヨミ王国初代国王の末裔として。その礼をお受けしよう」


「本当にありがとうございます。年度末の試合、是非御身も直にご覧頂けましたら幸いに存じます。勝利を貴方様に、とは申せませんが、必ず、自分を、この者を認めて下さいました事に報いてみせます事はお約束申し上げます」


 スズオミ君、格好いいよ、本当に。


 騎士団に所属したら剣と忠誠はコヨミ王国に捧げるからこの礼は学院生の間だけになるのかも知れないけれど、それでも嬉しいよ。


 本当にありがとう。


 あ、そうだ、リュックさん。


『寿右衛門さん、使って良い?』


『今の彼と、ならば良いでしょう。主殿が申され、リュック殿がお出ししたならば、私からは否やはございません』


 ありがとう、久しぶりだね、私のスマホ。


 カバーは魔獣の皮かな。

 液晶は魔防ガラスだと思う。


 画面は、と。

 メールの表示は手紙、カメラの表示は写って漢字表記。色々確認するのが楽しみだ。


 でも、今は。


「スズオミ君、立ってこっちに来て。皆で写真撮るよ。ニッケル君に送ろう!」

「写真? あの、紙に長時間光を当てて、姿絵を作る技術ですか。魔道具開発局副局長令息からは、まだ開発段階と聞いておりますが。まさか、マトイ様の世界で普通に使える技術なのですか!」


 さすがはコヨミ王国。写真の概念はきちんとあるんだね!


「うん、そんな感じ。ただ、こちらの世界の技術開発を妨げる様な使い方はしないしできないから安心して。心配なら私に誓約魔法、使う?」


「とんでもございません! 使うならば僕にです!」 


「なら、いらないね。はい、黒白も起きた起きた。リュックさん、え、スズオミ君の頭の上? 大丈夫?」


「第三王子殿下の魔道具殿に気に入って頂けたなら何よりです」

 スズオミ君、笑ってるけど。

 頭上にリュックのイケメンってかなり謎。


 まあ、ニッケル君にウケるかな。


「じゃあ、寿右衛門さんは私の頭に。あとシャッター頼めるかな。写しの起動、って言えばいいの?」


『では、失礼いたします。はい、恐らく可能かと。合図は、3、2、1、0で宜しいでしょうか』


 皆が肯いたり揺れたりパタパタしたりしたので、合図はそれで。


『……3、2、1、0!』


 カシャッ。

 音は一緒だった。


 よし、画像の確認確認。


 ついでにアドレス登録もさっと確認したらお姉ちゃん、一輪先生ともう一つ、マトイ殿へ、という知らないアドレスがあったから、

 これは本体を新規購入した、まといなスズオミ君のだと思う。


 私の現在を知っている人達とはやり取りできるって事らしい。限定されてはいるけれど、それでも本当に嬉しい。

 白様に感謝。


「はい、どうぞご覧あれ。凛々しいよ、スズオミ君。いつになるかは分からないけれど、多分その内あちらに届くから」


 左右反転の自分を見ているスズオミ君、かわいい。

 やっぱり、ニッケル君の私もイケメンだ。自画自賛だけどこれは事実。


「……これが僕、ですか。鏡で見るよりも表情が柔らかいですね。あと、ニッケル、失礼しましたニッケル様、身長が伸びていませんか?」

 前はもう少し僕の方が高かった気が、と言われたら、確かに転生時よりも目線が高い気がする。


『主殿は182.5センチ。スズオミ殿は183センチ。ちなみにスズオミ殿が気にされているライオネア様は187センチにございます』


「やっぱり! 少し前は僕の方が3センチ位高かったのに! あとライオネア! え?185位かな、とか言っていたけれど、やっぱりあいつ、背が高い! 全く、顔も性格も頭も体力も魔力も素晴らしいのに、本当に、僕だって一つ位勝ちたい!」


 いや、勝てば良いじゃない。年度末の試合。


「まだ時間はあるから。死なないだけじゃなくて勝つつもりでいきなよ。お父君も楽しみにされてるんでしょう?」


「はい。……いえ、父の場合は自分が騎士団団長閣下と天下の聖魔法大武道場で闘える事を純粋に喜んでいる気もしますが。そうですね、今回は僕自身の為に力を尽くします。是非とも、皆様で観覧にいらして下さい」


「ライオネア様にも誘われてるから、必ず。でも内々での開催って、できるのかな。団長さんと副団長さんの試合って、騎士団の皆さん、見たいよね?」


 特にどこかの魔法隊の隊長さんとか。

 仕事があっても必ず観覧にやって来る筈だ。


『その辺りは浅緋殿が上手く対応されますからご心配なく。私も微力ながら』


 寿右衛門さん。

 そうか、なら大丈夫だね。

 そう言えば、緑簾さん、まだ修行中?


『まあ、それも浅緋殿にお任せしましょう』

 そ、そう。なら良いかな。


 いつの間にか打ち解けたリュックさん、スズオミ君にお土産のお菓子を色々包んであげている。


 そろそろお開きかな。


『その様ですな。私は副団長殿と千斎殿の所に参りましょう。スズオミ殿、一緒に行きますか?』


「ありがとうございます、茶色殿、そしてリュック殿、頂戴いたします」

 背負う形の騎士団支給(古いけれど十分使える物。お父上からの剣術大会のご褒美だって。)のマジックバッグにお土産を詰めて、スズオミ君は立ち上がった。


『主殿、後の事はリュック殿に』


「第三王子殿下、ありがとうございました。改めまして、どうぞよろしくお願い申し上げます。それでは」


 今度はきちんと内開きの扉を美しい所作で閉めて、一礼をして帰っていった。


 彼の編入試験合格は年度末の試合の結果次第になるのだろうけれど、今のスズオミ君なら大丈夫、だと思う。


 絶対に、とは相手があの方だから言えないけれど、それでも。


『スズオミ殿は主殿の良き側近となりますでしょう』


 あ、寿右衛門さんだ。


 そうだね、もしかしたら側近ではなくて離れた所に行ってしまうかも知れないけれど、それでも、第三王子殿下の1番の側近はスズオミ君だ。


 あ、黒白パタパタ。リュックさんふわふわ。


 賛成してくれてるんだよね。でも、やっぱり会話は面倒なのかな?


 私の分の新しいお茶とお茶菓子を出して、さっきの分は収納お片づけ。そして、最後に出してくれたのは、


「あ、カンザンさんのお弁当!」


 中央冒険者ギルドから出発する時にもらった、居酒屋関山特製のお弁当。

 空間内の魔法展開で安心安全品質保持。


 ありがとう、ありがとうリュックさん!


『スマホを色々確認したいのでしょう? お食事は抜かずに、ちゃんと召し上がって下さいね』


 うん、うん。仰る通りです。


 まずは受信メールを確認して、それからさっきの写真を送ってみるよ! 見ててね!


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