97-スズオミ君とお話

「申し訳ございませんでした!」


 スズオミ君、分かった、分かったから。


 あのね、いくらお仕事丁寧、優秀過ぎる伝令鳥、高位精霊獣寿右衛門さんが毎日浄化魔法できれいにしてくれているとはいえ、そこ、土足生活の絨毯だからね。


 土下座はもうやめようよ。

 まあ、この部屋は私の前世生活に合わせてあんまり土足では歩いていないけれど、そういうものでもないでしょうし。


 要するに、スズオミ君は第三王子殿下の編入試験合格を聞いて、監査役の一人が寿右衛門さんではという推論を自力で導き出したのだ。


 もし、私と話がしたいと頼んだ時に寿右衛門さんが傍にいなくても、私が寿右衛門さんに知らせない事は有り得ないし、万が一があっても寿右衛門が感知できない筈もない。


 あとは、簡単。


 要するに、呑気な私の話からスズオミ君の真意をすぐに察した寿右衛門さんが、完璧に根回しをした、ということだ。


 そして、土下座しながらのスズオミ君の述懐は、こんな感じ。


 お話はまず、お父君と同じ進路、騎士団本隊や王族に近い場所に配置され易い近衛隊だけではなく魔法隊への志願も視野に入れる事にしました、から始まった。


 あ、コヨミ王国の騎士団は貴族階級しか近衛隊に入れない、とかは決してありません。

 どの隊も皆平等。

 むしろ本隊や近衛隊が他より優秀、みたいな言動や態度を示す様な人は、きちんと罰せられます。


 今話しているのはあくまでも侯爵令息スズオミ君の進路として、の話ですよ。


 ……話を戻して。


 うん、それは良いと思う。スズオミ君の魔力は有効活用するべきだよね。


 卒業まで一年弱、専門部や士官学校への進学もあるかも知れないし、選択肢は多い方が良い。


 ただ、問題はその続き。


「僕は自分で選んだ普通クラスでニッケルを守っていたつもりでしたが、彼は魂の転生を行うという大役を見事に果たし、旅立ちました。それが誇らしかったのに、寂寥感だけでなく、先に行かれしまったという嫉妬心まで持ってしまったのです。僕は内々で自分を恥じておりました。然しながら、今回、第三王子殿下と戦わせて頂きまして、勝手ながらもその感情を浄化する事が出来ました。僕はやはり、騎士になりたいのです。父が、とか婚約者が優秀だから、とかではなくて、僕自身の意思で。……気付かせて頂きまして本当にありがとうございました!」


 いや、真面目か!


 前世の私、26歳社会人の視点で見たら、スズオミ君、若いんだから、ね?


 若者の嫉妬心なんて持って当然の感情だから恥ずかしくなんかないよ。むしろ、初々しいよ! 輝いてる!


 むしろ、君は婚約者との関係を見直し、意中の人の婚約者候補になる為に努力して、自分の適性を考えたり、今は素直に謝罪をしていて。


 私からしたら学院生でそれって、十分偉いんだけど。


 これ、あちらの私の過去話……高校時代の話目とか絶対にできないよ。


 きらきらと眩しいくらいだよ、スズオミ君。


「いや、あのね。ハンダさんは監査役だから加減してくれていたけれど、スズオミ君は全力だったでしょう? あれ、何だか嬉しかったよ。ほら、地位とか男女とか一切関係なく、本気! って感じで」


 何か、何か糸口はないかなと思って話したら、スズオミ君が少しだけ顔を上げてくれた。


「……いえ、地位、はこの度はたいへんに! 恐縮ながら置かせて頂きましたが、男女は関係なく、個々の実力で判断いたしませんと。例えば、ライオネアに手加減したら、僕は確実に死にますから。失礼なのは承知の上で、殿下と高位精霊獣殿に対してもそのようにさせて頂きましたまででございます」


『確かに、逡巡がございましたらば命の保証はできかねましたな。良い覚悟でしたよ』

 寿右衛門さん、命の保証……。


「ありがたきお言葉!」

 あーあ、また額が絨毯の中に。


 うん、でも、やっぱり私、この国というか人達の、個々を見るところ大好きだなあと改めて思う。


 本当に良い国。

 ……ありがとうコヨミさん、皆さん。


『しばらくはこのままでも良いと思いますよ。新しいお湯を準備いたします』


 寿右衛門さんは涼しい顔。


 リュックさんはペンケースの中に大量の筆記用具を回収し始めた。吸引力、凄い。


 黒白は無言。魔力の回復中かな。


『主殿、スズオミ殿の好みの味を探ります故、リュック殿に頼んで茶菓子を足しても宜しいでしょうか?』

『どうぞどうぞ』


 寿右衛門さんは、厳しいけれどやっぱりとっても優しい。


 素敵な監査殿に実力を見てもらえて良かったね、スズオミ君。


 お疲れ様でした。


 準備が出来たら、お茶にしようね。

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