96-スズオミ君とお話?

 騎士団特級騎士舎に戻ったら、開口一番、寿右衛門さんが1枚の高級紙を差し出してきた。


『主殿、昼食は召し上がられましたな。これは、騎士団副団長殿からの誓約書にございます』

 ええ、誓約書? 


 何で? と思いながらの内容確認。


 本日、第三王子殿下並びに高位精霊獣殿方達の騎士舎内における我が愚息へのご対応に就きまして、いかなる事があろうとも、一切の不服を申し立てることはございませぬ事をコヨミ王国騎士団副団長の責においてお誓い申し上げます。


 アタカマ・フォン・コッパー、の署名。

 失礼だけどきれいな字。

 あとは……印? と、日付。


 ……これ、印代わりに押してあるの、血判っぽいんだけど。


『ご安心下さい。金紅団長殿が見付け、延髄へのしたたかな蹴りと鯖折りを決められた後、浄化魔法を五度掛けしておられましたので。これで、スズオミ殿が主殿に何らかの行いをされました際に、私が何をしても良いという事になりました。ちなみにもう少々で参られます。主殿の予定時間帯と差異を生じさせました事はご容赦を』


 いや、それはいいんだけど。


 これ、安心していい内容なのかなあ。


 それでも、いそいそとお茶と紅茶とコーヒーとお茶菓子は完璧に準備。


 さすがは寿右衛門さん。


「失礼いたします」


 すると、ノックの音と、スズオミ君の気配。

 周辺は、寿右衛門さんが前もって人払い済。


 さて、こうなると。


 お話なのかそれとも? みたいな感じ?


『左様にございます。黒白、主殿を任せました。主殿、10秒後に返事を。黒白が合図をいたします』


『了解いたしました、茶色殿』


 あれ、念話なの黒白? そんな状況なの?


『どうぞ』

 あ、ああ、うん。


「あ、どうぞ、スズオミ君」


 騎士舎の扉は、全て内開き。


 開きかけた扉も、万が一相手が敵だったり想定外の人物だったりした時に押し出しやすいようにだ。

 敵に対してなら、相手の手や脚を挟みやすいよね。


「失礼いたします」


 内開きの扉を丁寧に閉めて、そのまま扉の前から動かないスズオミ君。


 え、話は?


『第三王子殿下に申し入れたものが何をしておる?』


 ちょっとだけ羽毛が逆立ってるよ?


 寿右衛門さん、なんで臨戦態勢なの!


「高位精霊獣殿に対して失礼を致します事、平にご容赦を」


 スパアン!


 1番手前のお茶菓子、チョコクッキーがすっぱり、きれいに半分に割れている。


 え。スズオミ君、真空波! 出せるの?


 勿論、ハンダさんには遠く及ばないけど、大したものだよこれ!


 何してるの、まさか、例の指輪の洗脳?


 学院にあの指輪がとか、あり得ない!


『第三王子殿下に対する叛意と見なし、ここに捕縛する!』

『はい!』


 え、ちょっと待って、寿右衛門さん。

 黒白も!


『早く! 魔法をお使い下さい!』

 誰? って、黒白か。


 ……どうしよう。やっぱり黒白を使うしかないのかな。


『黒白、両方に! リュックさん、もう任せるから何か使えそうな物を出して活用して!』


 寿右衛門さんと私に、同時に魔法能力の向上。

 身体能力向上は使わないからいける筈だ。


 セレンさんありがとう。

 念話が上手になったよ、我ながら。


 指示は正直任せきりだけど、私が考えて行動をしてもらうよりも多分良い筈だ。


 机の椅子の背もたれに掛けていたリュックさんが、何かを出してくれた。

 多分、ペンケース。


 スズオミ君、寿右衛門さんが風魔法で体の自由を奪おうとしているのを、自分の分体を幾つか作った一時的な分散で上手く逃げている。


 明らかな偽物ではないから、一つ一つ狙わないと分体は潰せない。みんなきちんと爽やかイケメンだし。

 そもそも、スズオミ君の真の狙いが寿右衛門さんか私、どちらなのかが分からないから私はここから転移したら良いのかを判断できないのが痛い。


 狙いが私だと分かっていたら転移も出来るのになあ。


『体を低くして!』

 リュックさん? ついに君も念話?


 ペンケースの中身、鉛筆、シャーペン、筆ペン、ボールペン、蛍光ペン、カバーを外した携帯ハサミ。

 絶対こんなに入っていなかったでしょう、という本数の文房具がスズオミ君本体、分体の多分全員に襲いかかった。


 シュン。シュワ、パッ。

 そんな感じで、最後の一人に。


 やっぱり最後まで筆記用具を弾いていたのが本体君だ。


「悪いけど」


 ごめんね、ハンダさん。許可無く技をリスペクトします。

「雷パーンチ!」


 雷撃と風圧を込めまくったアッパーカット。

 多分、痛い。

「ありがとう……ございます」


 スズオミ君、倒されたのに嬉しそう。

 ……何故?


『主殿、こういう時は、直に出られてはいけません!』

『そうです、体を操らせて頂いて転移しようかと思いました!』

『何でお体を低くしたままにしないの!』


 格好良く決めた筈なのに皆に叱られた。

 

 まあ、ご尤も。


「……本当です。別の意味でお守りし甲斐がないというものです」


 あ、自動発動の自助用回復魔法。

 スズオミ君、先にちゃんと掛けていたんだね。


 用意が良いなあ。


 それにしても、スズオミ君魔力すごいよね?


『スズオミ・フォン・コッパー。良くやりました。合格、とは言いませんが、かなりの実力と学院長殿に必ず伝えましょう。第三王子殿下ニッケル・フォン・ベリリウム・コヨミ様の伝令鳥として、約束いたします』


「ありがたきお言葉。これからも精進いたします」


 えーと、これ。

 もしかしたら。


「そうです。僕、スズオミ・フォン・コッパーの選抜クラス編入試験の評価を、監査担当であられる茶色殿より頂戴できました。本件につきまして、第三王子殿下に内密に進めました事を心よりお詫び申し上げます」


 ……だよねー!












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