95-ライオネア様とスズオミ君と私

「やっと来たな、スズオミ。自分の方が早く来てしまったから、第三王子殿下に申し訳ない事をしたのだぞ。そちらを先にお詫びしないと」


「あ、ああ。そうでした。申し訳ございませんでした、第三王子殿下。僕とライオネアで殿下と共に軽食を、とお伝えてしておりましたのに」

 フォローをありがとうございます、ライオネア様。


 そうだよね、私もライオネア様も婚約者がいる身だから、いくらお互いの婚約者の親友同士とは言っても、耳目がある所ではきちんと節度を持たないと。

 認識阻害は私だけだし、ライオネア様やスズオミ君が第三王子殿下、って言ったらそりゃ皆にはっきり認識されるよね。


 あ、何だか周りもほっとしている感じ。


 黒白が魔法を使わなかったのも、助け船が出るのが分かっていたからなのかも知れない。できる子(?)だ。


「ええと、スズオミ。今日の私の宿舎の事だよね。特級騎士舎でも良いのだけれど、その問いは何故なのかな」


「はい、僕の今後に就きまして、お話をさせて頂きたいのです」


 確かに、スズオミ君とは自身の事以外にもニッケル君の話とか、色々したい話があるからいい機会かも。

 今日はハンダさんから連絡があるかな、位しか予定もないし。


「大丈夫だけれども、副団長閣下の許可は必須だ。そして、必要ならば別室宿泊届を提出して、受理されたらでどうだろうか」


「ありがとうございます。すぐに手続きをいたします!」

「宿泊なら晩の20時以降、違うならば16時から18時の間に何らかの合図をしてほしい。それでいいかな」


「重ね重ね、ありがとうございます! では、第三王子殿下、この場は失礼申し上げます! ライオネアも、また今度図書館棟や自習室に誘っても良いだろうか。そして、、とても助かったよ」

「お役に立てたなら何よりだ。誘いも了承したよ。共に勉学にも励もう。またいずれ」


 きびきびとした動きで去って行くスズオミ君。


 じゃあ、私も図書館棟に寄ってから寿右衛門さんに連絡して、騎士舎に戻ろうかな。


 いずれにしても今日はどちらに戻るかは伝えないといけなかったから。


 出来る伝令鳥さんはシーツの準備とかお茶とか食事とか色々、微に入り細に入り、完璧にしてくれるからせめて連絡位は早めにしているのだ。


「殿下、お会いできて嬉しかったです。次は是非ナーハルテと共にお誘い下さい」

「落ち着いたら是非。貴女とスズオミの試合、楽しみにしているよ」


 試合、という単語だけは特定の人に向けた音声認識魔法にした。

 聞こえていても、他の人には今後、とかそんな感じに受け止められた筈だ。


『王子殿下、よろしいですか』

 高級食堂を出てから少ししたら、カバンシさんから念話が届いた。


『大丈夫ですよ』

 黒白が認識阻害魔法を強めにしてくれた。ありがとう。


『セレンは今は買い物に夢中です。たまにはハンダの分まで甘やかしますよ。殿下の編入試験合格の件を伝えました。ますますやる気が出た様です。あの子の家族としてお礼を申し上げます』

『セレンさん、頑張ってますからね。念話と会話の同時通話魔法、後で術式を聞きたいです』


『伝えておきます。まだ定型の術式がないらしくて、聖魔法大導師殿と構築中の様なのです。あ、ご安心を。殿下にはお伝えして良いと大導師殿に確認済ですから』

『分かりました。私もまだ他の方には使用しない様にします』


『ナーハルテ様、朱色殿、茶色殿、緑、魔道具達には使用して頂いて構いません。他、殿下が上位と思われる方々には勿論ですが。万が一の際には他のものにもと言う事でお願い申し上げます。ご配慮ありがとうございます、それではよろしいでしょうか』


『あ、もう少しだけ。スズオミ君、何だかきりっとしていましたよ。カバンシさんと学院長先生のおかげでしょうか』

『我々が与えたのはきっかけです。殿下にあともう一押しをして頂ければ』


『一応、今日話をする予定です。ただもう一押しって何でしょうか? まあ、それはそれとして、カバンシさん、またお会いしたいです。セレンさんにも』

『ありがとうございます。一押しは殿下のお心のままにお願いいたします。また機会がありましたら喜んで。それでは今度こそ』


 うーん、あと一押しかあ。


 私が押せるものってなんだろうな。


 セレンさんに? とか言って、殿下こそナーハルテ様に一押しをなさった方が、とか返されたら一言いちごんもないし。


 考えながら移動して、認識阻害魔法のお陰で使い易かった転移陣で図書室に入室。

 千斎さんの証明書のお陰で学院の図書館棟内の禁書庫も入室okなので、ありがたく使わせて頂いている。

 そうだ、靴への魔法付与のお礼、手紙かカード、で大丈夫かな。


『主殿、本日は騎士舎に戻られますか』

 あ、寿右衛門さん。


『うん、どうして?』

『千斎殿が伝令鳥を送ってくれまして。「ご令息から第三王子殿下のお部屋への来訪並びに宿泊の許可申請が出されましたが受理して良いのでしょうか」と騎士舎の担当から知らされたが、魔法隊隊長殿にお心当たりはあるかと副団長殿からの照会があったのですが、茶色殿はご存じですか、と』


『ああ、うん、確かに。何か大事な話がしたいみたいで。お父上と別室宿泊届の許可が出たら、って言っちゃったんだけど、寿右衛門さんに聞いてからの方が良かったかな。あと、千斎さんにギルド行きの時の靴のお礼をしたいんだけど』


『それは、僭越ながら私から既に。ご安心下さいませ。そして、侯爵令息の件につきましては、私も同席をさせて頂けるならば構いません。しかしながら、宿泊はおやめになった方がよろしいかと。……それでは、この件は私にお任せ下さいますか?』


『ありがとう、それから、分かりました』

 さすがだ、寿右衛門さん。ありがとう。


 ……そして、宿泊はダメなんだね。


 確かに、今は大事な時期。


 納得したのでスズオミ君に伝えた時間帯を寿右衛門さんにも伝えたら、

『分かりました。決定次第ご報告を』


 きりりとした寿右衛門さんの声がした。


 その向こうで、

『もういいっしょ? いい加減、主様の元に帰りたいんすけど! それに、聖魔法大導師様がいつまでも角付きじゃマズいでしょうが!』


『何を言う! 心技体の内、心の足りぬものに特訓を付けるのは鬼族の上のものとして当然! 必然ぞ! まだまだあ!』 


 そんな馴染みのある鬼の召喚獣さんの叫び声と偉ーい聖魔法大導師様のお声が聞こえたのは、気のせいという事にしておく。


 ……いや、そうさせて下さい。


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