90-カバンシ兄ちゃんとあたし
「お二人共、銀階級取得。すごいなあ」
赤くてかわいいヒヨコの紅ちゃんが
『聖魔法大どうしちゃまに頼まれました』と運んで来てくれたのは明日の朝刊の早刷り。
聖魔法大導師様は王国一の新聞の早刷りを手に入れて、あたしこと一応ではなくなったかも知れない聖女候補セレン-コバルトにも誓約付きで1部届けて下さったのだ。
紅ちゃんはあたしの伝令鳥。めちゃくちゃかわいい。
異世界からの魂の転生者、第三王子殿下とその婚約者であられる筆頭公爵令嬢様。
お二人は国内最上位の中央冒険者ギルドで銀階級を取得されたのだという。
中央冒険者ギルドのギルドマスター、スコレスじいちゃんは若い素敵な外見で魔力が高くて優しくて、だけどご年配なエルフのおじいちゃん。あたしにはとても優しくしてくれる。
でも、階級試験とかにはすごく厳しい人だ。じいちゃんが決定したのなら、お二人の階級決定に文句を言う人なんて絶対にいないはず。
銀階級というのは、大抵の冒険者ギルドでの掲示板の仕事依頼を悩まずに受けられるレベルだ。掲示板以上になると、王国からの依頼をギルドマスターさんが人員を選んで派遣とか、そんな感じ。
新聞には、未確定情報ではあるが、として第三王子殿下の資格取得試験は国内の冒険者なら誰もが名を知る有名人、元邪竜斬りのカーボン氏が行ったらしい、と書かれている。また、カーボン氏は自身の偽物を第三王子殿下達と共闘し捕縛、偽物を演じさせられていた召喚竜を被害獣として届け出る予定、ともあった。
「そして、かの冒険者が復活。我々が待ち望んでいた、若きダイヤモンド階級取得者は第三王子殿下とそのご婚約者様の高い能力、高潔なお人柄を記者に語った……」
うーんやっぱり、お父さん、強すぎる薬師さんなだけじゃなくて、英雄だったんだよね。
そう。あたしの父、ハンダ-コバルト、旧姓カーボン。
すっごく強いしカバンシ兄ちゃんは竜だしで、普通の金階級冒険者じゃあないんだろうなあ、と思ってはいたけれど、普通じゃなさ過ぎた。
まあ、金階級も冒険者養成機関で講師を務められるレベルだから、相当なものだったのだけれど。
そもそも、中央冒険者ギルドに約束なしでも普通に行ってたお父さんもだけど、ギルドマスターのじいちゃんに遊んでもらったりしてたあたしも、けっこう普通の女の子じゃなかったんだなあ。
それで、元邪竜斬りの父親と聖女候補の娘という組み合わせが面白いのか、学院の一般寮には新聞社の取材希望とかが殺到してしまったのだ。
学院には結界とか色々あるから無理だけど、ってことだよね。
まあ、そんな感じであたしは学院の一般寮には居づらくなってしまった。
結局、聖女候補としての勉強が増えた事、選抜クラスに限らず編入試験希望者は学院の自由登校も可能な時期、と条件が揃った為、今は聖教会本部の宿舎のお世話になっているのだ。
まあ、学院への転移陣の使用許可も頂けた(実は、たまには体を動かしたくて走って行く事もある)し、優秀だけど学費を払うのが精一杯、っていう子達の為にあたしの空いたお部屋が使われるのなら、きっと良いことなんだよね。
あの教科書を破かれた真面目な隣室の子にもきちんとご挨拶できたし。
本当にありがとうございます! って平民いじめの連中の断罪にめちゃくちゃ感謝してくれてたけど、あれは第三王子殿下とナーハルテ様の超お手柄だよね。
あとは内緒だけど異世界のニッケル元第三王子殿下の。
あたしと騎士候補コッパー侯爵令息はついでな気がする。
まあ、あの断罪で寮を出された連中の部屋も空いたから、次年度が始まるまでにはかなりの人数が入寮となるのだろう。
コンコン。
色々考えていたら、確かに外から音が聞こえた。
え、ここ聖教会本部の宿舎、五階だよ?
明らかに風の音じゃないし、窓の外には木はなかった筈。
小枝が揺れて当たってる訳じゃないよね。
そもそも、窓ガラスと二重になった
ちなみに鎧戸は寒さ、暑さ、太陽の光なんかを感知して自動でしまる開閉魔法付与済み。すごいよね!
勿論、窓と同じで自力でも開閉できるよ。ただし魔力要。
『大丈夫、怪しいものではない。お、私だ。カバンシだ』
カバンシ兄ちゃん?
うん、そうだ。鎧戸と窓越しに伝わるこの魔力。念話でって事は……。
今修業中の透視の聖魔法で見てみると、やっぱり。小さめだけれど竜姿!
あ、透視は怪我した人達の外傷だけでなくて内側の損傷も見る為の魔法だよ。
「え、兄ちゃん、竜姿で飛んで良いの? て言うか、ここ、聖教会本部!」
『ほう、高度な技を勉強しているな。とりあえず、部屋に入れてくれ。人型の方が話しやすいだろう?』
あ、うん。
転移で入ってきた藍色……宵闇色だ! のカッコいい竜さんは、あっという間にイケメンのカバンシ兄ちゃんになった。
「中央冒険者ギルドへの送迎と護衛を依頼されていた筆頭公爵令したナーハルテ様をお屋敷にお送りしてきたんだ。ハンダに、お嬢……じゃないな、セレン、お前に会ってこいと言われていたしな。緑は聖魔法大導師殿に捕まった」
「緑さん、何したの? でも、お相手が聖魔法大導師様なら大丈夫だね。そうだ、これも大導師様に頂いたんだよ、新聞の早刷り! あたしの召喚鳥、紅ちゃんが届けてくれて!お二人とも銀階級、すごいよね! 王子殿下はお父さんが審査したって本当? 話せる内容なら聞きたいなあ!」
「ああ、本当だ。話してやろう。それ以外の話は、明日、王立学院の学院長先生へのご報告を済ませたら教えてやろう。……実は、柄にもなく緊張している。あの方は竜族の誉れであられるから」
「学院長先生にご報告するの? じゃあ、あたしも明日は久しぶりに登校だから一緒に行こうね! 今日は一緒に寝よう! ご報告も、あたしが近くにいたら、きっと緊張しないよ!」
「馬鹿を言うな。いくら兄代わりで家族とは言っても……。まあ、ご報告の際に扉の外、離れた場所にいるくらいならまあ、良いかも知れないが」
「分かった。じゃあ竜の兄ちゃんなら一緒に寝てもいい?」
「ああ、まあ、それなら」
あたしのおねだりに、カバンシ兄ちゃんは弱い。
今まで聞いてくれなかったおねだりは、王立学院の編入の為に八の街を出る時に、見送りをしてくれなかった事くらいだ。
「あれは、まだあの頃はハンダの過去や
「それに、何?」
「何でもない。お、私の分体が守っている森や周りの村が心配だっただけだ」
カバンシ兄ちゃんは、邪竜と言われていた頃に守っていた森や村を離れた所から見守っている。
そこに住んでいる生き物や人にとってみれば、兄ちゃんは守り竜さんだ。
精霊さん達と一緒に、今、実際に森を守っているのは分体さん。
カバンシ兄ちゃんは、たまに、気配を確認する為に飛んで行っているんだ。
遠くからだけど、分体さんへの魔力供給もしてあげている筈。
でも、知ってるよ。確認や供給は、兄ちゃんなら国内くらいならどこからでもできること。
だから、本当は。
「兄ちゃん、あたしの泣き顔を見たくなかったんでしょう?」
「知らん! あんまりからかうなら、散歩に連れて行かないぞ?」
「もう言わないから。連れてって!」
散歩は散歩でも、カバンシ兄ちゃんとの空中散歩。
赤ちゃんのあたしは、これで夜泣きもすぐに収まったんだって。
あの時は、確かに、見送られたらカバンシ兄ちゃんの苦手な顔、しちゃったかも。
今はもう、泣かないよ。
聖女様になるのかも? とかは正直分からないけど、聖女候補としての自覚は多分、あるつもり。
だから安心してね、カバンシ兄ちゃん。
兄ちゃんも、分かってるんでしょう?
あたしがもう、泣き虫なセレンお嬢じゃなくて、聖女候補のセレンだってことを、ね!
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